Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

小学校で理科実験(2012)

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毎年この時期に地元の公立小学校で化学の授業をしています.化学実験の定番「アンモニア噴水」をメインに,水溶液の色が変わる実験をみせて,化学がどのような科学なのかを話しています.最後に自由な質問コーナーがあります.

理科専攻の先生がムラサキキャベツの絞り汁を用意して下さるので,それをpH指示薬に使います.ムラサキキャベツから煮出すと紺色になり,これが塩基性では緑色に変わります.身近なところにある物質が,意外な性質をもっていることを教えてくれる良い例です.

今年は3時間目と4時間目を使って,2クラスに授業を行いました(6年生は2クラスです).実験台を兼ねた教壇のまわりに集まってもらって,実験を見てもらいました.

水溶液の色が変わる実験

塩酸,炭酸,食塩水,アンモニア水,水酸化ナトリウム水溶液,はいずれも透明な溶液なので,目で見ても区別することができません.しかし,これらの水溶液はムラサキキャベツの絞り汁の色を別々の色に変えます.5本の試験管にムラサキキャベツの絞り汁を入れておいて,ここに5種類の水溶液を加えて行きます.

加える前に「どんな色になるかな?」と尋ねてみると,「赤!」「白!」「銀色!」「変わらない!」「色がなくなる!」など,様々な声が返ってきます.1本ずつ色の変化を確かめて行くたびに歓声が上がります.

アンモニア噴水

300 mLの丸底フラスコの中にアンモニアを満たしておいて,ここにムラサキキャベツの絞り汁を吸わせて緑色の噴水を出す実験です.何度もやっている実験なのですが,ちょっと手先が狂うと失敗するので,緊張する操作です.幸い,2クラスともイッパツで成功しました.大きな拍手をもらいました.

質問コーナー

噴水のデモがおわったあとは,なんでも質問を受け付けるコーナー.化学に限らず科学全般の質問を受け付けています.毎年ここでイロイロな質問が飛び出します.今年の質問はだいたいこんな感じでした↓

●アンモニア以外の気体でもできますか? ●ムラサキキャベツから絞り出した緑色の色素は何という名前のものですか? ●動いている電車の中でジャンプしても元の場所に降りるのはなぜですか? ●普段は何を研究しているのですか? ●いつごろから化学に興味をもちましたか? ●尊敬している科学者は誰ですか? ●化学実験で危ない思いをしたことがありますか?

今年はこうしたスタンダードな質問の他に,ちょっと変わった質問を受けました.

●これまででいちばん困った質問は何ですか?

その質問がいちばん困った質問になりそうです.というのは冗談です.

もっとも答え難い質問は,「その研究を進めるとどのようなことに直接役に立つのですか?」というものです.私たちの周りには便利で役にたつイロイロなモノがあります.どれも目的を持って設計され,つくられ,使われているものです.しかし,どれも最初から最終的な形態を想像して開発が進められたわけではありません.

自然界のイロイロなものごとに興味を持った人がたくさんいて,これまでもそのしくみを解き明かしてきたし,これからもイロイロなものごとがわかって行きます.「こういうことがわかった/こんなことをみつけた」という発見がこれからも続きます.その一方で,「こういうモノが欲しい/こういうコトができれば」という願いが世の中にあります.その願いをカタチにするために,自然界のしくみを上手に理解すれば,願いは叶えられます.「こういうことがわかった/こんなことをみつけた」という発見と,「こういうモノが欲しい/こういうコトができれば」がうまく組み合わさったときに,人間の願いは叶います.

そこがうまく組み合わさるかどうかは,偶発的な要素が大きいので,狙いを絞るわけにいかないのです.

というようなことはあまり知られておらず,何か考えると直ちに何かが出てきて,それがすぐに社会に広まる,という誤解が広がっています.その流れで「その研究を進めるとどのようなことに直接役に立つのですか?」という質問が出て来るわけですが,これがもっとも答えるのに困った質問ということになります.

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