今年2010年は「国民読書年」です.自然科学を専攻していると,資料性の高い書物をめくる機会はあるものの,一般的な書物に触れる機会は少ないものです.
今回は専門書ではない「理系のよみもの」を3点紹介してみます.
(1) J. D. ワトソン,「二重らせん」
- 作者: ジェームス・D・ワトソン,中村桂子,江上不二夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1986/03/10
- メディア: 文庫
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DNAが二重らせん構造であるとの結論に初めてたどり着いたノーベル賞受賞者による回顧録です.海のあちらがわでの,今から数十年前の研究生活というものが記されている点でも興味深い一冊です.この本を読んで生命科学を専攻することにしたという人もいます*1.
(2) R. P. ファインマン,「ご冗談でしょうファインマンさん」
- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/01/14
- メディア: 文庫
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- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/01/14
- メディア: 文庫
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ノーベル物理学賞受賞者の自伝的よみものです.物理学研究についての話よりも,イタズラ好きだった子供時代からの思い出話がおもしろおかしく書かれています.物理学分野も含めて自然科学者のなかに多くの愛読者がいる本です.
なお,ファインマンは理論物理学者でしたが,化学に関しても彼の記した物理学の教科書で重要な一言を述べています.
もしいま何か大異変が起こって,科学的知識が全部なくなってしまい,たった一つの文章だけしか次の時代の生物に伝えられないということになったとしたら,最小の語数で最大の情報を与えるのはどんなことだろうか.私の考えでは,それは原子仮説(原子事実,その他,好きな名前でよんでよい)だろうと思う.すなわち,すべてのものはアトム---永久に動きまわっている小さな粒で,近い距離では互いに引きあうが,あまり近付くと互いに反撥する---からできている,というのである.これに少し洞察と思考とを加えるならば,この文の中に,我々の自然界に関して実に厖大な情報量が含まれていることがわかる.
-----ファインマン,レイトン,サンズ,ファインマン物理学I力学,坪井忠二訳,岩波書店,1967年,ISBN4-00-007711-2,p4
(3) 井本 稔,「ナイロンの発見」
ナイロン66を開発したカロザース博士の伝記的な物語です.有機化学者の井本 稔 博士が,カロザースに関して残されている資料に基づいてストーリーを構築したものです.望ましい性質を持った分子の開発に向けて一歩ずつ目標に迫って行く有機化学者のスタイルが記されています.順序立ててものごとを考えるお手本です.
さて,世界ではじめて人工繊維の開発に成功した有機化学者の送った人生は,決して幸福なものではなかったようです.昨年度に私が担当した化学講義でも,窒素を含む有機化合物のところでこの話をしました.
残念ながら絶版になってしまっていますが,ときどき古書店で見かけます.また,Amazonから入手可能です.
○
自然科学の研究は人間の営みです.時代の背景とか,先駆者の興味の対象とか,必ずしも自然科学的とはみなされない要素が,自然科学の発展に大きく影響しているものです.
*1:私よりも前の世代の人が多い.