4月から続けてきた水曜日1限の化学講義はこれが最終回です.先週同様,今回も板書をせずにすべてスライドで講義を進めました.ノートをとらずにスライドに集中できるよう,資料プリントを配布しておきました.
前回の講義に対する感想コメントその他なんでも一括紹介
↑ここに書かれている内容に対してコメント&解説しました.
詳細は前回の議事録参照→第24回(2009-12-09)
化学トピック:ボーイング787
これまで完成が遅れに遅れていたボーイング社の大型旅客機,ボーイング787が,日本時間の今朝3時過ぎに初飛行しました.
ボーイング787のボディは大半が炭素素材でつくられています.炭素素材のつくりかた,医療分野も含めて広い範囲に応用されている炭素素材について説明しました.
全25回の総括
前期の第一回から基本的に教科書に沿って講義を進めてきましたが,各単元は様々なかたちで関連性を持っています.
生命現象や医療技術を理解するための化学,という視点でとらえると,「生命と水の関係」を理解する必要があります.そのために第10章「水,溶液,コロイド」を学びました.ここでは定量的に水溶液を扱うことが重要なポイントとなっています.そこで,第11章「溶液の濃度」では「モル濃度」を学びました.モル濃度の計算をマスターするため,10月には計算問題の演習を行いました.実用的な計算として,「濃縮溶液を希釈して望みの濃度の混合溶液を望みの体積だけ調製する際に求められる濃縮溶液の体積を求める計算」の演習も10月にやりました.
さて,モル濃度を理解するためには「モル」を正しく理解しておく必要があります.モルは第5章「化学反応式とモル」で前期に扱いました.化学反応式を正しく立てるために,係数あわせをやる演習の時間も取りました.
水溶液といえば,身体の恒常性と関連する「緩衝液」の仕組みを知っておくことが大切です.ここには第9章「化学反応と化学平衡」で前期に登場した「ルシャトリエの原理」が深く関係します.リン酸系や炭酸系が体液のpHを一定範囲に収める仕組みについても解説しました.
2019年の化学(医療関係)を予測する
前回までは「これまでにわかっているものごと」を講義で扱ってきましたが,今回は,すでにわかっているものごとに基づいて,「まだわからないこと」を考えてみることにしました.
今から10年後,2019年に医療分野の化学がどのように進歩しているのかを,推測してみることにしたのです.
2019年,化学を履修しているこのコースの1年生は,医療現場で活躍していることでしょう.医療の仕事を化学はどのように支援し,発展させて行くのでしょうか.
(1)DNAの個人差に基づく医療
30億文字から成るゲノム情報には,約1,000文字に1文字の割合で個人によって異なる箇所が存在します.これを一塩基多型(SNP)と呼びます.SNPは,生活習慣病,薬効,副作用,といったものと深く結びついています.例を挙げてこれを説明しました.
SNPをみつける方法として最初に思いつくのは,個人のゲノムを丸ごと読み取ってしまう作業です.
30億文字を読み取る作業は非現実的に思われますが,技術革新が続いた結果,この数ヶ月でこれは現実味を帯びてきていました.
先月上旬,アメリカのバイオベンチャーが,40万円のコストで個人の全ゲノムを読み取れると発表しました.
個人のゲノムが読み取れるようになれば,遺伝子に基づく診断が広がることでしょう.
これと並行して,ピンポイントでSNPを検出する技術開発も進められています.たとえば国産技術のSmartAmp法を用いれば,30分間でSNPの判定を下すことができます.
このシステムを用いて,外科手術を進めながら患部のSNP分析を進め,抗がん剤の投与を判断するという,スピード勝負の検査が実現しています.
SmartAmp法の原理がイマイチよく分かりませんでした。
上記リンクに説明アニメーションがあります.それを見るとわかるかもしれません.
個人の遺伝情報に基づいて投薬量を決める方法が採用されはじめています.
たとえば薬効に個人差の大きい経口抗凝固薬ワルファリンの投与量を,遺伝情報も含めて条件で算出するオンラインサイトが開設されています.
2019年には個人の遺伝情報に基づいた医療が一般的になっているかもしれません.
僕はなぜか皮フが弱いです。DNAのせいでしょうか。DNAを調べて僕に適した治療を受けたいです。
残念ながら私は医師ではないので,どのような対処をすればよいものか判断できません.専門医に相談に行くのがよいでしょう.*1
(2)生体を模倣した医療材料
透析フィルターや血液配管に用いられる素材は,人体から異物として認識される可能性があります.この結果,過剰な免疫反応が誘発されて身体に損傷が生じる恐れがあります.これを防ぐため,生体適合性の高いポリマー材料の開発が進められています.
なかでも,生体膜を模倣してデザインされたMPCポリマーは,ポリスルホンに重量比1 %で混合しておくだけで生体の過剰反応を抑えることのできる,優れた物質です.
卒業後,臨床工学技士になる人は,材料の変遷を見ていくことになるでしょう.
(3)プログラムできる材料
ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドは,温度変化にともなって存在様式を変化させるポリマーです.この性質を利用して,細胞シートを調製する技術が完成しつつあります.
このポリマーを使えば,角膜や皮膚の調製が容易になることでしょう.
さらにスケールを小さくして,分子を望みの位置に配置する技術も進んでいます.
たとえばDNA分子を用いてバイオチップをつくる試みとしては,DNA-directed immobilizationという方法が提案されています.
分子サイズのパーツを操る技術も今後10年間で大きく発達するでしょう.
究極の目標は,分子集団を3次元的に自由に操る技術を開発することです.次のムービーを紹介しました.
ここでは自動車のモックアップが例として採りあげられていますが,細胞培養の際に足場をこのような材料で組み立てておき,立体構造をもつ人工臓器をつくった後に,足場を解体する,などということができれば,再生医療が飛躍的に発展することでしょう.
夢の技術ですが,いつかは実現するかもしれません.
空間プログラミング(3D)でのintelのムービーがおもしろかった。
インテルさんはスゴイことを考えてるんですね。
今回の講義に寄せられたコメントの紹介
今日の講義はおもしろかったです。2019年はどうなっているか楽しみです。
化学の進歩が早すぎてついていけそうにないです
医療技術がものすごいスピードで進歩していることがよくわかりました。
新しい感じでとてもよかったです
現在の技術進歩は感心でした。
1年間を通じての感想などの紹介
朝1限で「出席は重視しない」と宣言してあったにもかかわらず,毎回8割以上の出席者がいました.前期にいちど遅刻者がバタバタとうるさいことを注意したことがありましたが,それ以外は秩序正しい時間を最後まで続けることができました.この調子でまじめに勉強を続け,医療技術の専門家として活躍してくれることと期待しています.
一年間とても楽しく授業をうけさせてもらいました.・・・ただ一限だったので時々チコクしてしまいました・・・・
1年間、大変お世話になりました。ありがとうございます。前期はテストの結果があまり良くなかったので、後期で巻き返せるように頑張ります。
1年間ありがとうございました。様々な切り口から化学を学べて、興味をもちました。また機会があったら、宜しくお願いします。
一年間おもしろい授業をありがとうございました。
1年間ありがとうございました。将来 科学技術にこうけんできる人間になれるよう頑張ります。まずはテスト頑張ります。
1年間ありがとうございました。授業楽しかったです!!
一年間おつかれさまでした。テスト頑張ります。甘く採点してください。
興味をそそる授業だった。ありがとうございました。テスト、不安ですが、頑張ります。
映像が楽しかったです.
1年間ありがとうございました!
1年間ありがとうございました。テスト頑張ります。
今日で最後かと思うと寂しく感じますが、来年もう一度受けることはないように、がんばります。
特にないです。一年間ありがとうございました。テストやらなきゃ・・・ですね。
1年間ありがとうございました。試験頑張ってみます。
満1年にもならない短い期間でしたが、色々と勉強になりました。ありがとうございました。化学以外でも先生の授業を受けてみたいです。先生のトークは面白いので。
一年間ありがとうございました。
1年間ありがとうございました。
一年間ありがとうございました。
ありがとうございました!!
おつかれ様です。
化学ありがとうございました.たくさんのビデオを見せてもらったりして、とてもためになる教科でした.
1年間ありがとうございました。来年もこの授業にいないように頑張ります。
1年間お疲れ様でした。最後の授業とっても面白くてためになりました(*´▽`*)
テストかんたんにしといて下さい。
1年間ありがとうございました。テストがんばります。
ここ何回か欠席が続いていました。1回ほど友達が頼まれずに代筆したようですが。。。朝がつらいです。テストがんばります。
よし,では筆跡を確認することにしよう.←うそ
授業の進め方、準備、内容すばらしかったです。今までの人生で受けた講義の中でもトップクラスです。
ここまで言ってもらえるとは思いませんでした.嬉しく思います.
その他
久しぶりに模擬試験の課題をやって、改めて化学がおもしろいことを思い出しました。
今までお世話になりました。大学で見かけたら声かけますね。テスト頑張ります。
考え事をして歩いていることがあるので気づかない場合もあるかもしれませんが,悪く思わないでください.
わたし人見知りなので、先生気づいてもいつも声かけられませんが、先生をよく見ます。(笑)
どこでみられてるのかな.
写真はまだ続いてますか?
続いてますよ↓
それでは全員揃って期末試験で合格点をとり,無事に2年に進級してくれることを願います.
リンク
www.tnojima.netwww.tnojima.net
- 作者: MollyM. Bloomfield,伊藤俊洋,岡本義久,清野肇,伊藤佑子,北山憲三
- 出版社/メーカー: 丸善
- 発売日: 1995/03
- メディア: 単行本
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (143件) を見る
- 作者: MollyM. Bloomfield,伊藤俊洋,岡本義久,清野肇,伊藤佑子,北山憲三
- 出版社/メーカー: 丸善
- 発売日: 1995/03
- メディア: 単行本
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (75件) を見る
*1:化学者には分子が関わる反応とか分析について考えることはできます.しかし,身体の働きについて化学者は全くのシロウトなのですよ.たとえば教科書にも出てくるアスピリンの化学合成について説明することはできても,アスピリンが摂取された際の副作用については化学者は判断できないのです.