昔話はしない主義ですが,
- 「なぜ化学を専攻することにしたのか?」
- 「なぜ今の仕事をすることにしたのか?」
は,履修者から私に対する質問 #あるある になっているので,ここに記しておきます.まずは「なぜ化学を専攻することにしたのか?」から.
鉄道車両設計技師になる計画だった幼い頃
十才になった頃の私は,将来の職業として鉄道車両の設計技師を考えていました.当時の私は,鉄道雑誌を定期購読し,鉄道写真集を眺め,鉄道車両設計図面集を広げて楽しむ毎日を送っていました.
鉄道模型を本格的に始めるまでの間は,プラスチック板だとか割り箸だとか厚紙だとか針金だとかを集めておいて,自分自身で設計した鉄道車両の模型を作っていました.
あるとき針金を折り曲げていた私は疑問を抱きました.針金は鉄でできており,鉄はレールだとか車輪だとか東京タワーだとか,硬くて頑丈な素材が必要な場面で使われる材料です.それが,いくら細くなっているからといって,私のような子供の手で自由に折れ曲がるのはなぜでしょうか?
針金の内側と外側とで曲率が違うことも,不思議に思いました.折り曲げた針金の内側と外側とで,伸縮の度合いが違っているのはなぜでしょうか?
そのときの私は,その理由として,鉄が「鉄の細胞」からできているからではないか,と考えました.人体が細胞から構成されていることは,すでに知っていました.「細胞」が配列を変えるのであれば変形することも可能だろうし,折り曲げた針金の内側と外側とで曲率が異なっても不自然ではありません.
ということを父に話したところ,
「だいたい正しい.しかし,細胞ではなく原子でできている,というのが正解だ.」
という返事とともに,原子や分子のしくみについて簡単に説明してくれました.そして,
「明日 本を買ってくるから,それを読んで自分で理解しなさい.」
ということになりました.
化学という世界があることを知った日
翌日に父は『化学のドレミファ』と『チャート式化学』の2冊を買ってきてくれました.「化学」という学問が存在することを知ったのはこのときでした.
『化学のドレミファ』は休日の理科室に忍び込んだ姉弟2人組が謎の人物・ドルトン先生に遭遇し,それから毎週日曜になると化学を教わりに行く,という物語でした.原子とか分子とかそういう粒子から構成されている世界,についてとても面白く書かれていました.
『チャート式化学』は高校生向け大学受験参考書で,カラー写真とかイラストとかが眺めているだけでも楽しく,ところどころに組み込まれたグラフとかデータ表とかが,
「今はこういうものごとを理解できなくても,学んでいくことによって理解できる日が来る」
ことを予感させてくれました.小学生の私には指数とか対数とかが理解できなかったので,pHとか緩衝作用とか平衡定数のあたりは何が書かれているのか全く理解できませんでした.
この時期の私は,将来の専門領域(周辺)となる有機化学,高分子化学,生化学のあたりには全く興味を抱きませんでした.原子の構造とか,化学結合といったあたりに興味がありました.
化学を専攻することにした十代の頃
化学に関係するものごとに興味をもちながらも,それを将来の専攻とか職業に結び付けて考えることなく,私は高校生になりました.
高校生になってからも しばらくは将来の職業として鉄道車両設計技師を考えており,進路希望調査には「卒業後の進路:工学部進学,将来の職業:設計技師」というように回答していました.
それが変わったのは高校2年になってからです.機能性高分子とか,セラミック材料とか,環境分析とか,遺伝子組換えとか,超伝導といった,化学に関連したハイテクに興味をもった私は,そういうものごとを大学で学んでみたいと考えるようになったからです.特に面白そうだったのは,DNAとかタンパク質といった,生体高分子の世界でした.
それと同時に,鉄道車両設計技師になる目標はフェードアウトして行き,大学は化学とか生物学とかを学ぶコースを受験しようということになりました.いくつか大学を受けて,合格通知が届いたのが中央大学の工業化学科(今は応用化学科になっている)だけだったので,私は化学を専攻することになりました.
振り返ると見える道のり
ここまでの道のりは,今振り返ると,いくつかの偶発的な出来事が 私にとって幸運な形で組み合わさった,振り返ると見通しの良い道に見えます.
それと比べると,その先の現在に至るまでの道のりは,さらに偶発的な出来事がいくつもいくつもいくつもつながった,ロング・アンド・ワインディング・ロードになりました.大学生になった頃の私には全く想像できませんでしたが.
「なぜ今の仕事をすることにしたのか?」については以下の記事に続きます↓
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『化学のドレミファ』は1997年まで版を重ねています.著者の米山正信先生は2002年に亡くなりましたが,現在も販売されています.
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北里大学の化学教員になった後,最新版を購入しました.私の長女 の大学受験でも参考にさせていただきました.
鉄道に対する興味は完全にフェードアウトしたわけではありません.昨年夏には,子供の頃にファンだった鉄道写真家・広田尚敬氏の出演するイベントに行って来ました.広田氏にはこのとき初めてお目にかかりました(亡くなった私の父と同じ年のお生まれ).
www.takahikonojima.net
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