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元素周期表を今から覚えることにした場合,どのあたりまで覚えておく必要があるのでしょうか?
元素周期表をぜんぶ暗記しなければダメ,なんてことはないですよねぇ?
化学と深いつながりのある領域を専門にしないコースで,化学についての知識が「あればイロイロ視野が広がる」けど「無くても致命的な損失にはならない」というコースで化学の基礎を学ぶのであれば,とりあえず1年生のうちは,次のようなところまで覚えておけば十分です.
あとは必要に応じて知識を足して行けばOK.
原子量は覚えなくてOK.
1 まず原子番号1番から18番まで覚える
原子番号順に1番から18番まで順番に名称と元素記号を覚えます.
周期表の左側から右側に向かって周期律が成立していることを実例を挙げて説明するためには,最低限,第2周期と第3周期の2段を覚える必要があります.
水兵リーベ僕の船(以下略)っていうゴロ合わせが有名.
2 次に縦に4本覚える
2.1 アルカリ金属を覚える
次に覚えるのは,周期表の左端です.
原子番号1番の下に連なる,Li(リチウム),Na(ナトリウム),K(カリウム),Rb(ルビジウム),Cs(セシウム)は「アルカリ金属」と呼ばれるグループです.名称と元素記号を覚えればOK.個別に原子番号を覚える必要はありません.
いずれの単体も水と激しく反応する,軟らかい金属です.
Fr(フランシウム)は無視してOK*2.
●医療との関係
- Liを含む化合物のなかには,精神に関係する病気の治療薬に用いられているものがあります.
- NaとKのイオンバランスは細胞のコンディションを整えるために重要です.
- Rbの同位体の一種を含む化合物は,放射線イメージングに利用されています.
- Csの化合物の一種は,生化学実験で遠心力によって生体高分子を分離する操作を行うときに水溶液にして使用されます:塩化セシウム密度勾配遠心法.
2.2 第2族を覚える
その次に覚えるのは,アルカリ金属の右隣に並ぶ,Be(ベリリウム),Mg(マグネシウム),Ca(カルシウム),Sr(ストロンチウム),Ba(バリウム),Ra(ラジウム)です.
「第2族」と呼ばれる元素です.
これらも水と反応するのですが,反応の激しさはアルカリ金属よりは穏やかです.
名称と元素記号を覚えればOK.個別に原子番号を覚える必要はありません.
●医療との関係
- Mgは人体に必須の元素です.
- Caはリン酸カルシウムとして骨や歯の材料になっています.
- Srは骨腫瘍の治療で放射線医療に用いられます.
- Baは硫酸バリウムとして胃検診エックス線撮影の造影剤に用いられます.
- Raは診療放射線医療で放射線源として使われていた時期があります.
2.3 貴ガスを覚える
その次は周期表の右端に並ぶHe(ヘリウム),Ne(ネオン),Ar(アルゴン),Kr(クリプトン),Xe(キセノン),Rn(ラドン)です.
これらは「貴ガス」とか「希ガス」と呼ばれる元素です.
貴ガスは常温常圧では無色透明の気体です.化学的な反応性が極端に低く,化合物をつくる例は数例だけが知られている程度です.
名称と元素記号を覚えればOK.個別に原子番号を覚える必要はありません.
●医療との関係
- HeがMRIの超伝導マグネットの冷却剤に使用されています.
2.4 ハロゲンを覚える
そして,貴ガスの左隣に並ぶF(フッ素),Cl(塩素),Br(臭素),I(ヨウ素)はハロゲンと呼ばれるグループを覚えます.
これらはいずれも常温常圧下では2原子の分子として存在し,人体に有害で,高い化学反応性を示します.
At(アスタチン)は無視してOK*3.
名称と元素記号を覚えればOK.個別に原子番号を覚える必要はありません.
●医療との関係
- Fの化合物が歯科治療で歯のコーティングに用いられます.
- Clの化合物が消毒薬に用いられています.
- Iは甲状腺ホルモンの分子に含まれています.また,ヨウ素の溶液は消毒薬やうがい薬に用いられています.
3 生体高分子や医薬品に用いられている元素
3.1 炭素と酸素と水素
炭素(C)の化合物を有機化合物と呼び,有機化合物に関する化学は有機化学と呼ばれ,化学の中で一つの巨大領域を占めています.
私たちの身体も,食品も,医薬品も,樹脂も,繊維も,ほとんどが有機化合物です.
消毒に用いられるエタノール*4や,麻酔剤に用いられるジエチルエーテル,頭痛薬のアスピリン*5,殺菌に用いられるクレゾール,私たちの体内にもある脂肪やブドウ糖は,いずれもC,H,Oの3種類の元素が組み合わさったものです.
3.2 アミノ酸を構成する元素
天然に存在する蛋白質を構成する20種類のアミノ酸では,すべてにおいて上記3元素に加えてN(窒素)が含まれます.
さらに,システインとメチオニンではS(硫黄)も含まれます.
3.3 DNAやRNAやATPを構成する元素
遺伝情報を記録したDNA,遺伝情報発現に関わるRNA,細胞内のエネルギー通貨として用いられるATPには,いずれもC,H,O,N,Pが含まれます*6.
4 あとは必要に応じて
とりあえずこのあたりまで理解したら,次は興味ある生命現象や医療材料に用いられている元素について理解して行けばOK.
たとえば,酸化還元酵素の中に組み込まれているFe(鉄)とかCu(銅)とか.
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