Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

講演会:「教授法再考-プレゼン力が授業を変える!-」

本日の夕方,「教授法再考-プレゼンカが授業を変える!-」というタイトルで,東京工芸大学准教授の大島武先生に講演会をしていただきました.

「良い授業」を行うためのアドバイスが満載の講演でした.何と言っても,大島先生のプレゼンそのものが上手な講義のお手本となっていました.

教員向けの講演でしたが,在学生にとっても卒業後に仕事でものごとを説明したり,プレゼンテーションを担当したりするときに役立つヒントもたくさんありましたので,ここで紹介します.ぜひ参考にしてください.

聞き手の立場で授業を組み立てること

授業は受講者のためのものです.話す側の都合ではなく,聞く側の都合で考えること.このことを忘れているとおかしなことになります.

集中力を失わせないために効果的なのは,「予定調和」で進行すること

どのような結末になるのかがわかっていて,どのような時間配分で授業が進むのかを最初に明らかにしておくことが重要です.そのためには,時間配分をしっかりと計画しておくことが欠かせません.

「時間がなくなっちゃったのでここは省略!」

なんていうことがあるかもしれませんが,そもそも時間がなくなっちゃったのは,教員の時間配分がマズかったからですよね.*1

大島先生オススメの時間配分案は,30分の話を3つする方法です.90分ひとかたまりの話をするのではなくて,30分の話を3つすると考えるのです.90分間集中して話を聞くというのは,よほどのことがない限り無理だからです.たしかに.

もっとも不評なのは,話す速度が速すぎること

ある大学で,在学生に大規模アンケートをとりました.どの科目と特定せず,入学してから受講したありとあらゆる科目に対して不満や苦情や改善点を片っ端から挙げてもらうというアンケートでした.その中でもっとも多かったのが,「話す速度が速すぎる」ことでした.興味深いことに,「話す速度が遅すぎる」という不満はゼロだったとのことです.

90分しゃべるのと90分聞くのとでは,90分聞く方がタイヘンです.耳から入ってくる情報の意味を考える,メモをとる,関連する知識を引っ張り出してくる,というイロイロな作業をやらなければならないからです.

ということを忘れて講義をしがちです.

私も化学講義で「もっとゆっくり説明してほしい」というリクエストをもらうことがあります.

2009年度とくらべて回数は減ったものの,ついつい聞く側の立場に立つことを忘れてしまう瞬間があります.2010年度は改善したのですが,2011年度はもっと遅くしてみます.「もっと速く!」という要望は出ないわけですから.

最高のビジュアル効果があるのは,黒板を使った方法

小学校から高校まで,授業といえば黒板を使って進められるもの,がほとんどです.「黒板に書かれる内容をノートに写す」というのは「お約束」になっているのです.それに対して最近増えてきた,黒板ナシでスライド使用,というスタイルだと,どのようにノートを取ってよいものか判断できません.少なくとも大学低学年のうちは,スライドだけというやりかたは望ましくありません.

黒板に書きながら説明して行く,というやりかたには,講義進行スピードの調節になるというメリットもあります.スライドを次々と投影しながら一方的にしゃべられたらたまったものではありませんね.私も講義の中心は板書です.

最悪なのはスライドの内容をそのまま印刷して配る方法です.大島先生がおっしゃるには「スライドは一枚ずつ進む紙芝居のようなもの.これが6コマとか9コマとか収まったものをもらっても,何のハナシだったのか思い出せない」とのこと.これはまったくその通りで,実際,プレゼン方法の解説書などを読むと,「投影スライドを印刷して配布する一石二鳥なやりかたは,最低・最悪である!」などと書かれています.

参考資料とレジュメは別に配るもの

私にとって「目からウロコ」だったのが,「レジュメと参考資料は別々に配布せよ」というものでした.参考のために配布するが根性を入れて覚えたり理解したりしなくてもよい,というものと,最低限把握しておかなければならないもの,をいっしょにして配布すると,学生はポイントを絞った復習ができません.2011年度は,参考資料を配付するときには,それの位置づけを説明します*2

悪い授業の見本

良い授業はマネできないが,悪い授業はマネしないようにできる,ということから,山形大学の高等教育センターが中心となって「悪い授業の見本」のムービー「あっとおどろく大学授業NG集」を2009年に制作しました.これを見せていただきました.

準備不足
前回どこまでやったのか忘れている,配布物を忘れてくる,予習することなく授業をはじめる.
受講者を見下す態度
「どうせわかんないだろ」っていう態度をとる.
放任主義
教室崩壊状態をほったらかして一人で黒板に向かって何か書きながらつぶやいている.
後部座席満席状態
前のほうに座らせるとかしない.
黒板重ね書き
書いては上から関係ない内容を重ね,ちょこっと消しては別のことを書き,何がなんだかわかんない黒板にしてしまう.
その場にいない者への怒り
サボりが多いことを出席者にグチる.
一方通行
ひとりで勝手にしゃべって時間が来たら帰っちゃう.
えこひいき
同じ時間に同じ教室に集まる学生を公平に扱わない.
情報の嵐
びっしりと文字で埋まったスライドを投影して情報の嵐にしてしまう.
時間の使い方
遅刻してやってきて延長する.
黙る
挨拶しても返事がない.

私が学生の頃をふりかえると,こういう教員は何人かいました.昔そうだったからといって,今もそれでいいのかというと,そういうことはありませんね.

化学講義の改善に採り入れるよ!

というわけで,大島先生の講演は来月からの講義をさらに改善して行くために役立つ内容満載でした.2011年度も「なんだかんだいって化学がいちばんおもしろかったぞ!」と言ってもらえる講義を目指しますよ!

おまけ

大島先生の講演についてツイートしたら,卒業生から以下のようなリプライがありました.人気のある先生なのですね!

工芸大の卒業生です。大島先生の授業は本当に分かりやすくて楽しく、良い意味で「授業」という感覚がなく、とても大好きでした!

このブログを書いている人


私はこういう人 - 大学1年生の化学(北里大学・野島高彦)

追記

大島先生の講演会から講義テクニックを大量に盗ませて頂きました.ソレを片っ端から検討して講義や演習に応用してきました.現在までの私の授業評価は以下の以下のリンクからご覧いただけます.履修者から高い評価を得られていることに関して,大島先生に感謝感謝感謝感謝!

*1:高校までの歴史の授業で「時間がなくて明治時代までしか進まなかった」なんていうハナシをききますが,最後をカットするんだったら途中を省略してゴールまで強引にもってくるべきですよねぇ.同じことが高校の化学にもあって,「時間がなくて化学Iでは有機化学をやってくれませんでした」なんていう声がちらほら.高校までは風邪で学級閉鎖だの運動会だのがあってやむを得ない場合もありますが,通常の大学の講義で「時間切れ」っていうのは,教員の責任ですよねぇ.ああ,いや,学生時代を思い出してですね,以下略.

*2:いや,待てよ,「ぜんぶ覚えなければいけませんか?」的な質問をしてくるのは,遅刻してきた学生なのかもしれないな.