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Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

「医療系の大学1年生が覚えておくとよい有機化合物100選」を選んだ経緯

化学講義+ SNS

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【注意】この記事は2013年度版です.

2013年9月,「医療系の大学1年生が覚えておくとよい有機化合物100選」をtogetterにまとめたところ,2日間で7,000を超えるアクセスがあり,正直なところわけがわからん驚いています.

ここに並ぶ化合物は,2012年度以降の化学講義*1で私が扱っている有機化合物100個を,Twitterアカウント@OC100_botから一つずつ公開しているものです.

このリストについては,はてなブックマークでもいろいろとコメントや質問がついているので,ココでまとめてお答えすることにします.

その前に

●どういう人々が対象となってるのか

私の化学講義を履修している学生のうち,化学を受験科目に選んで一般入試で入学して来る学生は半数以下です*2.一般入試の理科選択科目人気ナンバーワンは生物です.それ以外の学生は,高校で化学を履修していなかったり,履修していてもマスターしていなかったり,という調子です.だから,ミトコンドリアや細胞核は知っていても,モルがわからないとか濃度換算ができないっていう調子です.苦手とかユトリというハナシではなくて,そもそも化学を勉強していないわけです.

●そういう人々を相手に有機化学ですよ

そういう層が厚いことを考慮して,化学の講義は春に原子の仕組みとか周期表とかから始まり,有機化学に進むのは10月になってからということになります.限られた回数で何をやるのか,というハナシになります.当然,IUPAC命名法なんかスルー.化学の専門家にでもならない限り,あんなのマスターしたって何の役にも立たないですからね.

●それで有機化合物の数を絞るわけです

大学に入って始めて有機化合物を学ぶことになった層には,メタン,エタン,プロパン,から説明する必要があるし,医療系ならエタノールとかイソプロピルアルコールとかジエチルエーテルとかが外せないし,将来の仕事に関連づけるんだったら生分解性高分子とか生体適合性高分子なんかが面白そうだし,身近な材料をネタにするんだったらサランラップとかPMMAなんかが分かりやすそうだし,というあたりでイロイロと化合物が出てくるわけなんですが,次から次へと化合物を引っ張り出してくるとキリがないので,私は扱う有機化合物の種類を100個と決めています.100個の中身は毎年変更あり.

●どうやって絞るのか

その100個をどのように選ぶかなんですが,100個って,少ないんです.「アレが入ってないじゃないか! アレは大事だぞ!」ってのが必ず出て来るわけです.でも,「じゃ,ソレを加えるけど,代わりにどれを外すか」となると,外せるのが見つからないわけです.「ビートルズの名曲を10曲選べ」ってのと同じ問題ですね.正解なんて無いわけです.

●どんな基準で選んでいるのか

化学講義の21回目から27回目が有機化学になります.このあとで「(28) バイオテクノロジーを支援する化学」と「(29) 10年後の化学〜あなたが医療従事者として活躍している時代の化学〜」.

  • (21) 有機化合物の世界 + アルカン
  • (22) アルケンとアルキン
  • (23) 酸素を含む有機化合物その1
  • (24) 酸素を含む有機化合物その2
  • (25) ベンゼン環を含む有機化合物
  • (26) 窒素を含む有機化合物
  • (27) ポリマーの化学

上記7回では,人類が石油や天然ガスから薬品や医用高分子や汎用樹脂を作ることによって現代社会が成り立っている,ということを理解することを目標に講義を進めています.だから「(21)有機化合物の世界 + アルカン」では,まずメタン,エタン,プロパン,・・・というあたりの簡単な炭化水素を紹介して,その延長線上にパラフィンとかポリエチレンがある,というところからスタートします.

ここでは,アルカンを分子レベルで改造するためにハロゲン化を施すというハナシになり,メタンと塩素とのラジカル反応をとりあげます.この反応では混合物ができるということを説明して,化学反応では欲しいものだけを取り出せるとは限らず,イロイロできちゃうものを分ける手間が生じる,ということを説明しています.この段階でメタンのクロロ化物が3種類登場.

化学製品の原料となる石油化学基礎製品についても紹介.アルケンとBTX. 6種類(構造異性体を含めれば8種類)を組み合わせて数千万種類の有機化合物を組み立てている,という角度で整理をこころみます.

次は「(22)アルケンとアルキン」なんですが,アルケンといえば付加重合によるポリマー合成です.輸液バッグのPE,使い捨て注射器のPP,病室のカーテンやシーツや食品ラップに使われているPVCやPVDC,ハードコンタクトレンズや水族館の水槽に使われているPMMA,外科用縫合糸に使われているビニロン,送液チューブに使われるPTFE,あたりを紹介するためにポリマーとモノマーの説明がそれぞれ必要になります.アルキンではアセチレンだけが登場.コレを付加重合して得られるポリアセチレンが導電性ポリマーの最初の成功例です.

「(23)酸素を含む有機化合物その1」と「(24)酸素を含む有機化合物その2」では,メタノール,エタノール,プロパノール(異性体2種)から始めて,エーテル,アルデヒド,ケトン,カルボン酸,酸無水物,エステルまでを例を挙げて紹介します.エチレングリコールとグリセリンはここで登場.医療従事者のユニフォームに使われているPETもポリエステルとして登場.グルコースや生分解性ポリマーもここで登場.

「(25)ベンゼン環を含む有機化合物」では,オルト,メタ,パラを説明するためにキシレンとクレゾールを選んでいます.両者あわせて6種類.トルエン,安息香酸,クロロベンゼン,フェノール,アニリンあたりを紹介して,フェノールの工業合成に用いられているクメン法を紹介するためにクメン,ベンゼンからアニリンへのルートで登場するニトロベンゼン,なんかが登場します.サリチル酸とその誘導体もここになります.

「(26)窒素を含む有機化合物」では一級アミンから第四級アンモニウム塩までを説明するためにエチルアミン,ジエチルアミン,トリエチルアミン,テトラエチルアンモニウム塩,を紹介しています.アミノ酸の一般式や,蛋白質の一般式もここで登場.人工の蛋白質を目指して開発されたポリアミドであるナイロンもここで紹介.

「(27)ポリマーの化学」は,天然に存在しない材料を人類は分子設計し,合成し,利用してきた,というハナシです.それまでに扱われなかったポリマーが登場.

こういう流れの中で説明に必要な例として,イロイロな有機化合物が出て来ます.それを100個に押さえてあるわけです.

Q & A(2013-09-24)

うーん。なぜこのリストなのかは,よくわからない。
まず100個に制限して,その中に高校化学の基礎から医療材料まで押し込んだのです.100個の選び方は人それぞれなので,私の場合にはこんなところかなーという感じ.
ペットボトルの主原料まで入ってるけど、どっかからパクってきた一覧?
有機化学を教えるとしたらどんな流れになるだろうか,というのを先に考えて,それを説明するのにどんな化合物が登場するだろか,という感じで候補を挙げ,その中から100個選んでます.PETは脱水縮合でポリマーをつくる,というハナシをするときに登場するので,2種類のモノマーが登場します.ナイロン66も同様.モノマーそれ自体に重要な意味があるわけではありません*3
医療系でポリマーとか四塩炭とか何につかうの?
ポリマーは輸液バッグ,送液チューブ,注射筒,外科用縫合糸,機器キャビネットなどに使われています.四塩炭はそれ自体には意味がありませんが,メタンとハロゲンとのラジカル反応では最終的にココまで反応が進む,という説明で必要になるのです.
具体的にどう覚えているべきなのか?名前見て絵がかけるべきなのか?絵を見て名前がわかればいいのか?
とりあえずその両者.
高校でマジメに勉強してたら知ってるはずの有機化合物百選とも言えそう
高校で「化学を選択して」マジメに勉強してたら知ってるはずの有機化合物百選とも言えそう,ですね.高校化学未履修者の層も厚いので.


今後も質問が来たらココでお答えするつもりです.確約しないけど.

【追記:2013-09-25】なんでコレが「医療系なのか」

なんでコレが「医療系なのか」というハナシなんですが,有機化学の世界を説明するために何も考えずに化合物を引っ張り出してくると,一瞬で100個をオーバーします.そこからアレを捨て,コレを切り,ソレを止め,という具合に削減して行く段階で,医療系に関係なさそうな化合物を捨てているので,残ったのが「基本化合物+日常生活で使ってる化合物+医療の仕事で使われてる化合物」になります.略して「医療系の〜」.

100個に押し込むのはマジでタイヘンで,たとえば直鎖アルカンは炭素数8のオクタンで止めるとか*4,ベンゼン環を持つ化合物からベンゼンスルホン酸や塩化ベンゼンジアゾニウムを外すとか,アミノ酸と蛋白質と油脂は一般式だけにするとか,そういうことをやってるわけです.糖類はグルコースだけだし.

【追記:2013-10-19】公開25日で12,000アクセス


【追記:2014-09-09】2014年度はリストを入れ替えました

このブログを書いている人

www.tnojima.net

はじめて学ぶ化学

はじめて学ぶ化学

*1:医療衛生学部医療工学科と看護学部看護学科

*2:医療工学科は化学I+II,物理I+II,生物I+IIから1科目.看護学部は数学I,化学I,生物Iから1科目なので,理科の受験勉強をやって来ない人々もいます.

*3:ヘキサメチレンジアミンとかアジピン酸とか,ココでしか出てきませんよねぇ.高校でも.

*4:ホントはガソリンに使われてるイソオクタンを入れたいところなんですが.