講義スライドをつくるときは必ず「他の人の色の見え方」をチェックしています.これをやらないと情報が伝わらなくなる可能性があります.スライド,動画,ポスター,その他の「色」を使うものを他人に「見せる」ときは,色覚をシミュレーションするソフトウェアで確認して下さるようお願いいたします.私は「色のシミュレータ」を使っています.無料ソフトウェアです.
十代の頃,地元の模型店に集まって放課後の時間を潰していた仲間にMくんがいました.Mくんはアニメの有名場面を模写したりプラモデルに塗装したりするのが上手でした.その彼が「赤緑色盲なんだよ」と言ってきたことがあります.え"!? 赤い彗星シャア専用ザクの塗装とか色がわからないと困るんじゃないのか?
そういうのは困らないとのことでした.日常生活でも特に困ってはいないとのことでした.ただし,山登りして新緑の緑を眺めていると目が痛くなってきて気分が悪くなると言っていました.なぜ山に登るのか.そこに山があるからだ,と彼が言っていたかどうかは覚えていません.
「色のシミュレータ」は何かのきっかけで知りました.さっそくiPhoneにインストールしてみました.そして久しぶりにMくんのことを思い出しました.彼はどのような世界を見ていたのでしょうか?
スクリーンに映し出されたのは,セピア色に近い柔らかくて優しくて懐かしいような色でした.iPhoneをもって建物の外に出て,もみの木とか中庭とか植え込みとかを映してみました.人間は目を使って世界に色を付けることによって世界を解釈しているのだろう,と考えました.
悪ふざけをしていて校長室に呼び出されたことがありました.参ったなーと言いながら校長室に叱られにいく途中でMくんが来て,「一緒にいてやるよ」と言いながら付いてきてくれました.
「きみは関係ないよ」
「いいんだよ.1人より2人のほうが心強いだろ☆」
Mくんは隣でぼーっと立っていてくれました.
要約すると15秒で終わりそうな内容をエンドレスに叱られて私はへろへろになりました.Mくんが隣にいてくれたことがとても心強かったのは確かです.しかし,解放されたときの私は体力も精神力も尽きていて,じゅうぶんにMくんにお礼をすることができませんでした.Mくんだって消耗したことでしょう.でも,次の日にはもう別の話題で盛り上がっていて,Mくんにお礼を伝える機会がないまま大人になってしまいました.
Mくんにも家族がいるのかもしれません.子供もいるかもしれません.いっしょに山登りして新緑の緑が目に痛いなどと言っているのかもしれません.プラモデルに上手に色を塗る方法を教えているのかもしれません.
帰省したときにMくんが暮らしていた家の前を通りがかったことがあります.Mくん一家は引っ越していました.今後の人生でMくんに会うこともないでしょう.あのとき隣に立っていてくれたことを感謝する機会を逸したまま,この人生が終わるのでしょう.人生は有限です.
今回の新型コロナウィルスの一件でオンライン授業の動画を作ることになって,説明のために写真やグラフやイラストをイロイロ組み合わせています.ぜんぶ「色のシミュレータ」でチェックしています.Mくんに見せるわけではありませんが,Mくんのことを思い出しながら「色のシミュレータ」チェックをおこなっています.私はMくんには直接お礼することができなかったけれども,Mくんと同じ色の世界で人生を送っている学生の視聴環境を,ちょこっとだけ快適なものにしていることと思います.MくんもそれでOKって言ってくれると思います.
「色のシミュレータ」はカラーバリアフリーのためにだけでなく,同じ世界を異なる色で見ている人々について想像する機会をも提供してくれます.いま見ているこの光景だけが真実ではありません.私にはこうみえる,というだけです.
●基本的な考え方
白黒にしたらなんだかわかんなくなっちゃう,っていう構成にしない,っていうのが基本です.
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