キーワード
α線,β線,γ線,逆二乗則,結合エネルギー,原子力発電,原子爆弾,自然放射線,診療放射線,半減期,崩壊系列,崩壊速度,放射性同位体,放射線,放射能,ラジオアイソトープ
講義内容
- 放射線を出す能力が放射能.
- 放射能をもつ元素が放射性同位体やラジオアイソトープ.
- 主な放射線はα線(ヘリウム-4の原子核),β線(核から放たれる電子),γ線(電磁波).
- ラジオアイソトープは放射線を出しながら崩壊して行く.
- 中性子をウランやプルトニウムなどの原子核に衝突させ壊すと,原子核内で粒子を結びつけるために使われていたエネルギーが放出される.このエネルギーをコントロールしながら取り出して発電機を動かすのが原子力発電,コントロールせずに反応を暴走させるのが原子爆弾.
- 放射線をはかる尺度として,原子核の崩壊速度(Bq),物体が受けるエネルギー(Gy),人体への影響度(Sv)がある.
- 地球上で暮らす人間は,地面,空気,食物,宇宙線などから世界平均2.4 mSv(日本は1 mSv)の放射線(自然放射線)を受けている.
- 主な診療放射線の強度(1回あたり):全腹部CTスキャンが6.8 mSv,胸部レントゲン検査が0.2 mSv.
関連トピック
(2) 軍拡と核兵器開発
最初に実用化された原子力エネルギーは原子力発電ではなく,原子爆弾でした.1945年7月にアメリカは世界最初の原子爆弾の実験をニューメキシコ州で成功させています.その模様はカラーフィルムに記録されています.
このときの実験に関わった物理学者が,母親に宛てた手紙では,実験の成功を報告するとともに,次のターゲットが日本であることを述べています.
僕らは皆飛んだり跳ねたり大声でわめいたりし、駆けまわって互いの肩をたたきあったり握手したりして祝いあったのです。
ただ一つ、その目標を除いては 何もかも完璧でした。次の目標はニューメキシコではなく日本です。
僕の下で働いた連中は一同広間に集まり、息をのんで僕の話を聞きました。
僕らがやり遂げたことを、一人残らず心底誇らしく思ったのです。
ひょっとすると間もなく世界大戦を終結させられるかもしれません。
-ファインマンの人生/北海道大学高等教育機能開発総合センター
この考え方は,被曝国に暮らす2013年の私たち大多数の考え方とは逆のものです.人間は立場と時代が異なれば,異なる結論を下します.2013年の日本では「核兵器は一般市民に対する無差別殺戮兵器」との考えが主流でしょう.1945年のアメリカでは「核兵器は世界大戦を終わらせるための最終兵器」との考えが不自然ではありませんでした.
この実験の翌月には広島と長崎に原子爆弾が落とされています.1952年,広島市に作られた原爆死没者慰霊碑には,「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と記されています.
しかし,その2年後,ビキニ環礁で行われた水爆実験に日本の漁船が巻き込まれ,乗組員が被曝する事故が起きています.
威力の大きな核爆弾を開発する競争は1960年代まで続いていました.次の動画は1961年にソビエト連邦が行った,人類史上最大規模の核爆発実験です.「爆弾の皇帝:ツァーリ・ボンバ」.
ここまで核開発をエスカレートさせた人類でしたが,核兵器の威力比べを続けることを選びませんでした.各国は核軍縮に努め,2009年にはオバマ大統領の「核なき世界についての理念や取り組み」に対してノーベル平和賞が与えられています.
しかし,人類はまだ核兵器を完全に廃棄していません.
(3)原子力利用の課題
電力供給は我が国の生命線です.24時間365日,電力が安定して確実に供給されなければ,私たちの社会は成り立ちません.医療機関には,人工透析装置,人工心肺装置,人工呼吸装置によって生命を維持している患者がいます.電力供給がシャットダウンすると,何十万人もの人々が即死します.
安定して電力を供給するために,日本はエネルギー源を一種類に頼らず,水力,火力,原子力などに分散する戦略をとってきました.
2010年,日本は発電量の3割を原子力でまかなっていました.しかし,2011年3月11日の震災で福島第一原子力発電所が事故を起こして以来,原子力発電所は次々と稼働停止して行きました.再稼働した発電所もありましたが,2013年10月現在,我が国の原子力発電所はすべて停止しています.節電と,工業生産力の低下,老朽化した火力発電所の再稼働で電力をまかなっているのが現状です.
原子力発電所を再稼働するのか,再稼働しないのか,しないならどのようにその分の電力をまかなうのか,事故を起こした発電所をどのように処理するのか,見通しが立っていないのが2013年10月の日本です.
原子力発電に対しては反対する人々と賛成する人々とがいます.国内には原子力発電所の誘致に積極的な自治体もあります.
原子力発電をどうするのか?
この問題に関して科学も技術も答えを教えてはくれません.なぜならば,どのように社会を運営し,未来の社会を建設して行くのかという問題に答えを出すのは,人間だからです.その答えに必要な技術と,自然界への理解を進めるのが,科学と技術の役割です.
コメント
●科学の使い方を考え直すときだ
●今日の化学はいつも以上に身にしみる授業でした.
●有機についてしっかりがんばりますのでよろしくお願いします
●最後のパワポのやつみたいな自分の意見を主張してしまいそうな話題でも一般化して私たちが自分で考えるように教えてもらえてよかったです.先生がこのことに関してどう思っているのか知りたいなって思いました.
中立性を保つために,私は原子力発電や核兵器に関して個人的な見解を公表しません.
●日本は島国なので波発電をすればいいと思いました.波はとまることがないし環境にもいいので,とても良いとおもいます.
波による発電は一定電力を安定して供給できることです.ただし,十分な発電量が確保できる場所は限られており,そこが航路だったり漁業ポイントだったりすると,発電設備は建設できません.国内総発電量に対して微々たる量しか電力供給できません.
●前に砂漠に太陽光発電をつけると世界中の電力をまかなえると聞いたことがあります
発電は自国領土内で行えなければ電力安定供給に不安が残ります.砂漠に太陽光パネルを設置しても,そこで発電される電力を日本で使うというのは現実的ではありません.
●完全に忘れていました.今日中に復習しておきます.授業を聞いていて気になったのですが,α線の方がエネルギーが低いのに吸収線量はなぜ高いのですか? イメージで言うとγ線のほうが吸収線量も高い気がして疑問に思いました.
同じエネルギーで比較しているからです.多くが速やかに細胞を通り抜けて行くβ線やγ線と比較して,減速しながら周囲にエネルギーを分散させて行くα線は厄介なのです.
出席者数推移
(1)89→(2)88→(3)88→(4)86→(5)79→(6)82→(7)78→(8)77→(9)74→(10)72→
(11)61→(12)75→(13)72→(14)67→(16)59→(17)59→(18)50→(19)53→(20)57
次回予告と予習内容
「(20)有機化合物の世界+アルカン」を学びます.配布物で予習してくること.
後期試験に出題する有機化合物一覧も配付しました.
有機化合物一覧はTwitterにボットをつくりました.
これまでの講義録
- 医療工学科の化学講義(1)ガイダンス+序論(2013-04-10)
- 医療工学科の化学講義(2)原子〜この世界をかたちづくっている材料〜(2013-04-17)
- 医療工学科の化学講義(3)化学とエネルギー(2013-04-24)
- 医療工学科の化学講義(4)元素と周期表(2013-05-10)
- 医療工学科の化学講義(5)原子と原子のつながり その1(2013-05-15)
- 医療工学科の化学講義(6)原子と原子のつながり その2(2013-05-22)
- 医療工学科の化学講義(7)原子軌道と分子の形(2013-05-29)
- 医療工学科の化学講義(8)化学反応式とモル(2013-06-05)
- 医療工学科の化学講義(9)濃度の表しかた(2013-06-12)
- 医療工学科の化学講義(10)物質の性質と状態(2013-06-19)
- 医療工学科の化学講義(11)気体の性質(2013-06-26)
- 医療工学科の化学講義(12)化学反応と熱エネルギー(2013-07-03)
- 医療工学科の化学講義(13)化学反応と化学平衡(2013-07-10)
- 医療工学科の化学講義(14)酸化と還元(2013-07-17)
- (15)前期試験(2013-08-01)
- 医療工学科の化学講義(16)水と溶液(2013-09-11)
- 医療工学科の化学講義(17)浸透圧と透析(2013-09-18)
- 医療工学科の化学講義(18)酸と塩基(2013-09-25)
- 医療工学科の化学講義(19)pHと緩衝溶液(2013-10-02)
このブログを書いている人
*1:画像出典:フリーメディカルイラスト図鑑 http://medical.i-illust.com/image_1888.htm