履修者83名中78名出席.出席率94 %.学園祭がおわり,出席者数が元のレベルに戻りました.難易度が高めなのは今回まで.次回からはゆっくりと下り坂になります.
前回の講義に関する感想コメント質問その他なんでも
詳細は前回の講義録参照↓
配布物
電子のはたらきと有機化合物
今回も有機化合物中における電子の挙動にもとづいて分子の性質を理解し,有機化学反応のしくみに迫りました.高校までとはまったく違う考え方に戸惑う者もいれば,新しい考え方に興味を深める者もいる,という様子でした.
●電子の流れについて,けっこう複雑に思えますが,きちんと理解することができれば,化学がもっとおもしろく感じるのではないかと思いました.
●有機化学には電子の動きを理解することが大切だと思った.
●有機の反応を電子で説明できるとは思わなかった.
●電子のはたらきがここまで反応にかかわっていたことに驚き.
●電子の動きなんか高校のときは考えなかった.今日の授業は驚くことが多かった.
●電子の動きで考えるのが大事だと分かった! 今までと考え方が違って少しとまどったけど,きちんと理解できるように頑張りたい.
●今日から芳香族に突入するということで身構えていましたが,ひとつひとつ電子の流れを見ていくと,スッキリ理解できました.あとは練習あるのみ!だと思いましたorz
●電子の流れがよく分かった!
●電子の流れが理解できれば有機の反応は簡単に覚えられるのだなーと思いました.
●物をつくるときに大切なのは電子なんだということを初めて知りました.
●有機化学にも電子の動きが関わっていて面白いです.
●フェノールで電子の流れが成り立っているのがわかった.
●電子の流れをみて化学反応を見ていくのは難しかったが,理解していきたいです.
●電子の動きがごちゃごちゃしていて難しかったです.
●なんで電子が動き回るのか意味わかりません.
●電子の動きを理解するのが難しい.
●電子とか,切り離したりくっつけたりして頭ん中パニックになりますー
●電子の動きって難しいです!!ってか最近,無性にらーめんが食べたいです.どこかおいしいお店ないですか?
●フェノール作る方法がいろいろあるのを覚えるのは困難です.
●今日は授業の速度が速くてついていけませんでした・・・.でもこの単元は電子の動きに注目すればいいと思いました.
導電性ポリマー
携帯電話の画面や,医療機器の操作パネルに使われている材料が,電気を通すプラスチック「導電性ポリマー」です.世界初の導電性ポリマーとなったポリアセチレンについて解説しました.ポリアセチレンでは,分子鎖に沿ってπ電子雲が連なり,ここを電子が自由に動くため,電気を通します*1.
芳香族
共役二重結合を構成する6個の炭素原子をリング状につないだ分子がベンゼンです.ベンゼンが正六角形構造をしていることは実験からわかっています.化学式では単結合と二重結合を交互に書きますが,実際にはどの結合も同等のものであり,1.5重結合していると解釈することもできます.こうした状況の分子を記述するために用いられる方法が「共鳴」です.ベンゼンの場合について共鳴の概念を解説しました.
●共鳴,電子雲は高校のとき,よく理解できなかったのですが,今日,ようやく分かりました.説明わかりやすかったです.
●ベンゼン環がこわれにくいのがよくわかった.
ベンゼンでは6個の炭素原子が平面状に六角形をつくり,その平面を上下から電子雲が挟むかたちをとっています.この電子雲は6個の電子から構成されており,強い負電荷をもつ領域となっています.これをベンゼン環のπ電子雲と呼びます.
ここに正電荷をもつイオンなどが接近すると,π電子雲にトラップされます.続いてベンゼン環内の炭素原子のどれか一つとの結合が生じ,続いて,その炭素原子に結合した水素がH+として切り離されます.これが芳香族における置換反応です.
たとえば
C6H6 + Cl2 → C6H5Cl + HCl
●ベンゼンって,真横から見ると平面なんですね! 1.5重結合だからデコボコしてそうな気がしてました.
●クロロベンゼンができあがるまで,あのような反応が裏に隠れていたとは知りませんでした.
●ベンゼンからクロロベンゼンへの反応のしくみがわかってよかった! 高校のときはあの式をただ覚えるだけだったので・・・.他の反応もするんじゃないの-?と思っていた(笑)
●ベンゼンの強い結びつきが,どのようにしてクロロベンゼンなどへと移りかわっていくのかがわかりました.クメン法についてもですが,高校のときは疑問に思わなかったことをいろいろと教えてもらって,新たな発見が多くておもしろいです.
●ベンゼンがクロロベンゼンになる反応のしくみがあまりよく理解できなかった.
●置換反応のしくみがちゃんとあることを知れてよかった.
●置換反応でただ暗記していたものにいくつもの段階があったのに驚いた.しくみが分かった方がスッキリとした感じがした.
●ベンゼンの置換反応にはこんなしくみがあったんですね!! ベンゼンは形からして好きなので,頑張って理解していきたいと思います! でも最後あたりになると脳飽和状態におちいりはじめます(泣)
合成ルートの選定
ベンゼン環を基本構成要素として,ここに様々な置換基を導入して行くことによって,薬剤などの有用物質を組み立てて行くことができます.しかし,必ずしもベンゼン環の好みの位置に好みの置換基を導入できるわけではありません.一つ目の置換基を導入すると,二つ目の置換基が導入されやすくなる箇所,導入されにくくなる箇所ができるからです.これを配向性と呼びます.配向性の現れるしくみについて,フェノキシドイオンおよび安息香酸イオンの共鳴構造をもとに解説しました.前者においてはo-,p-位が電子密度を高くするため,ここに置換基が導入されやすくなります.
一方後者においては,o-,p-位の電子密度が減少するため,消去法でm-位に置換基が導入されることになります.
こうした性質を理解することが,有機合成化学の基本になります.たとえばベンゼンを出発材料に安息香酸を合成するルートを考えてみます.安息香酸には-OH基と-COOH基がo-の位置関係で存在しています.どちらを先にベンゼン環に導入すればよいでしょうか?
(1) ベンゼン→安息香酸→サリチル酸
(2) ベンゼン→フェノール→サリチル酸
(1)の場合は-COOH基からみて置換基が導入可能なのはm-位だけです,そのためサリチル酸を合成することはできません.
一方(2)の場合は-OHからみてo-位およびp-位に置換基を導入できます.そのため,o-位に-COOH基を導入することが可能です.
というわけで,合成ルートは(2)が選ばれます.
●o-, p-配向,m-配向のしくみがわかってちょっと感動.
●o, m, pとかすっかり忘れてました.構造が大切なのですね.
●o-,p-配向性とm-配向性になる理由がわかった.
●芳香族化合物の合成ルートのでき方がe-もo,m,p-に関係しているなんて考えもつかなかったです.クメン法・・・ここまで複雑なものだったとは・・・
●フェノールがなぜo-,p-配向性なのかが分からなかったが,今回のでフェノキシドイオンの真の姿と,どうしてo-,p-配向性なのかよく理解できたと思う.
●安息香酸はm-になるとは考えたこともなかった.そこまで細かいことは初めて聞いたから.
●[ ]の中の配向性についてがよくわからなかった.全体的に難しかった.
それではベンゼンからサリチル酸や,サリチル酸誘導体のアセチルサリチル酸(アスピリンの主成分),サリチル酸メチル(サロメチールの主成分)を合成する際,分子はどのように反応するのでしょうか.電子の流れから見て行きました.ここは黒板に書くと写すのが大変だし,写して覚えるのは本質ではないので,スライドを使って手短に解説しました.
これまでに(1)付加,(2)脱離,(3)置換,を見てきました.今回は(4)転位,が加わります.クメン転位.ここで登場.
●最後のスライドが楽しかったです!!
●最後のスライドが分かりやすかったですが,ちゃんと理解できなかったので,機会があればまた見たいです.
●最後のスライドは早すぎてわからなかった.
反応メカニズムのスライドをダウンロードできるようにしておきました.PowerPoint形式のファイルです.以下のダウンロードページにリンクしてあります.
●安息香酸の香り,高校のときに嗅いだ覚えがあります.確か,フルーティーなにおいだと記憶しています.
●フェノールより安息香酸のほうが理解するのが大変でした.高校のときはクメン法を暗記するだけだったけど,しくみが分かってすっきりしました!
●バファリンなど身近なものができるまでの過程を知ることができると楽しい!!
●高校で丸暗記していたクメン法などのしくみがわかってとてもよかったです.
●高校の教科書のクメン法はけっこうはしょっていたのか.
●サリチル酸メチルやアセチルサリチル酸の合成を実験でやりましたが,実はすごいことだったんですね.
●高校ではなんとなく流されていたあたりを納得できてよかったです.ちょっかいを出したり押しつけたり,電子とその周辺はなかなか人間味のあるヤツらですねぇ.あくまで例えの話ではありますが.
全般
●高校ではどういう経路が途中にあるのか?とか,なぜ安定か?など そこまで詳しく話をきいたことがなかったので,新しいことを勉強した気分になりました.難しいけれどパズルっぽかったです.
●高校とは違い,詳しく深く学べた感じがします.改めて大学っぽいなと感じることができました.理解を深めていけるようがんばりたいです.
●高校のときと違ってびっくりした.
●たのしかった.
●とてもわかりやすかった.
●今日の内容は複雑でしたが,パズルみたいで少し面白かったです.
●有機は暗記するだけだと思ったが,そのしくみを知るととても分かりやすかった.
●仕組みを考えるのがむずかしい.
●今回の内容はほんとうによく分からん.プリントを見ても理解できる気がしない.まぁあきらめずに頑張る.とりあえず規則性があることだけは分かった.
●だんだん分かりづらくなってきました.演習のプリントをいろんな分野で欲しいです.お願いします.
●もうムリです.離脱しますzzz
●難しいけどがんばります!
●今回難しかったから,復習しっかりしたいと思った.
●しっかり勉強しようと思った.
●なんだか細かく考えすぎて逆に難しくなってきた・・・
●頭の中が???だらけです.プリント,ノートみなおさなきゃ・・・.
●ちとむずかしいかもしれないです.
●若干まだ整理できていないので,復習しておこう!
●今日の内容は高校でほとんど学んだ範囲だったので,そこまで苦ではなかったです.
●ギリギリ授業間に合ってよかったです!! すごくベンゼン書きにくいです!! 六角形がうまく書けません!!
●昔の人は薬が発達していないなか自然の中から症状に効くものを見つけるなんてすごいと思う.体に悪いものを口にして死んだ人はいないのだろうか?
どうして「毒,食べると死ぬ」とわかるのかというと,それを食べた人が過去にいたからです.料理も医療も,過去の人々の命のうえに成り立っている人間の営みです.
●先生は高校でやっていたただ覚えるだけのことはくずだとおっしゃっていましたが,私が高校の頃にこれを説明されても,わかっていた自信がないので,とりあえずいろいろつめこんであとで理解するのもありかなと思いました.時間はかかりますが・・・.今日もありがとうございました.
こういう意見は大歓迎です.
さて,ここはちょいと誤解が入っているようです.
知識をもっていることは良いことです.ただしその知識が適用できる範囲も併せて理解していればです.
適用範囲を理解していない知識は,順序立ててものごとを考える邪魔になります.そのような知識ならば無いほうがマシです.そういう知識がクズ知識です.
とりあえずいろいろ詰め込む習慣は,高校時代まではそれなりに有効でした.まず覚えておいて,問題を解きながら慣れていく,というやりかたが可能だからです.なぜ可能かというと,取り扱われる問題は国に検定を受けた教科書に記された範囲のものであることがわかっているし,計算問題の多くは割り切れる数値になっていたり,数値ではなく記号で答えるものだったりするからです.
一方,大学入学以降は,このようなしくみになっていません.計算問題は割りきれない問題が出てあたりまえです.ここに高校までの習慣を持ち込むと破綻します.だから思考方法を変えたほうがよいのです.覚える作業にとりかかる前にしくみを考えて,そのしくみを理解するために覚えなければならないものを覚えていく,という姿勢が必要です.
その他
●私はコンタクトをしているので,こんなものを目につけているのかと思いました.
医用高分子研究の成果ですよ.
●病院行ってたらちこくしましたーすいません.
●尖閣問題,ややこしくなってきましたね.隣国どうしで仲良くしてほしいけど,複雑ですね.
●そろそろちゃんとプリントやらなきゃ!!って思った.
●プリント全然やってないからやらなきゃです.
●ねてました少しおきてました
●配布されたプリントがだんだんたまってきてしまいました.計画的にすすめておきたいと思います.
計画的に進めていればたまっていないはずなんですけどねぇ.
●先生の消火班の姿をみて,かっこいいと思ったと同時に笑ってしまいました.先生は有機でたとえると「フェノール」だと思います.
フェノールを素手でさわると火傷*2するよ,気をつけな.
青春の誓い
何か決意しても,それを公表しないかぎり守れないのが人間というものです.というわけで,出席表に決意を表明することによって,決意を揺るぎないものにするのが「青春の誓い」企画です.「遅刻しない」,「さぼらない」,「寝坊しない」,「前の席に座る」など,ささやかながら日々の努力の積み重ねが効いてくる内容がほとんどです.
●青春の誓い,OKです.守りました!!
●来週こそは30分前にゴールしてみせようと思います.
●ねむかったけど頑張った!!
●復習します.こんどは嘘じゃないです.
●プリントはまだやってないです.今週末,絶対にやる!!少し進めます
未来の自分のためにシッカリやるべし!
質問
●ベンゼンって天然にはどこにありますか?
鯨の脂肪に含まれています.工業的には石油を改質することによって得られます.
●安定だとなぜH+を手放しやすいんですか? 安定していたら,その形をくずしたくないから,手放したり,逆に受け入れたりとかしにくいのではないんですか?
これは「フェノキシドイオンが安定なのでフェノールが酸性を示す」という点についての質問でしょう.フェノキシドイオンは共鳴によってソコソコ安定に存在できます.ということは,H+を離した状態でも存在できるということを意味します.一方でH+はH2Oと会合してH3O+として安定に存在できます.というわけで,フェノールは酸性を示すのです.
次回予告
2回に分けて「酸素を含む有機化合物」の世界を見に行きます.来週はアルコール,エーテル,ケトン,アルデヒド,カルボン酸を扱います.医療分野と密接に関連する領域です.
リンク
www.tnojima.netwww.tnojima.net
- 作者: MollyM. Bloomfield,伊藤俊洋,岡本義久,清野肇,伊藤佑子,北山憲三
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