Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

大学研究家の山内太地さん

昨日の午後は大学研究家の山内太地さんにお会いしました.山内さんは世界中の大学を実際に訪問されて,その様子をブログと著書で公開されている方です.

山内さんにお会いすることになったきっかけは,山内さんが先週の水曜日にブログに書かれた一本の記事でした.

この記事の内容を山内さんはTwitterでも配信されており,その内容に対して私が返信したところから話がはじまりました.

記事では甲南大学が最近開設した学部の教育システムについて非常に詳しく紹介されています.その中で,教養教育に対する独特の考え方が紹介されています.一般教育を担当している教員として,私はここに興味を持ったのでした.

山内さんに連絡をとってみたところ,「いつでも北里に取材に伺います。」という返事が返ってきました.ちょうど昨日,八王子の中央大学多摩キャンパスを取材されるとのことでしたので,その帰りに相模原までおこしいただくことになった,という次第です.

わざわざ取材に来ていただいたはずなのですが,全国の大学について興味深い話を山内さんから聞かせていただくばかりで,私のほうから何か有意義な情報をお話できたのか よくわかりません.

それでも,山内さんが長年にわたって不思議に思われていたという,

「どうして中学→高校と学年が上がると理科や数学がイヤになってしまう生徒が多いのだろう?」

には,私なりの考えをお話しできたようです.

原因は複数考えられるのですが,私が実際に受け持っている学生から聞く声の中で多いのは,化学に関しては,

「高校のとき,化学の後半は時間がなくて,とりあえず暗記しろといわれて暗記だけした」

とか

「高校の授業では教科書の最後の方まで進まなかった」

というものです.

特に生命系や医療系への進学を考えていた高校生にとって,化学の教科書の後半に登場する生体関連物質とか,有機化合物というあたりの内容は,もっとも関心をひきつけられる項目でしょう.

そこまで余裕をもってたどりつくことができれば,原子の構造だとか金属イオンの分類だとかで味わった苦労も報われるのでしょうが,残念なことに苦労した記憶だけが残ってしまうのです.

そういうわけで私は,化学に対してネガティブな印象をもって入学してきた大学1年生から,2年生への進級までの1年間で,その印象を塗り替えることを目標にしています.

今年度第一回の講義では,具体的に

  • モル
  • 溶液濃度
  • 有機化学

の3点を挙げ,これらに対する苦手意識の克服に対して重点的に取り組むことを宣言しました.

また,北里大学としても,高校での履修パターン多様化対策として,未習得科目のサポートを受けられる学習サポートセンターを開設したり,高校レベルの補修コース(要習)を開講するなどして,大学での学びをサポートしています.

こうした条件のもと,身のまわりの化学関連現象や,ニュース性のある化学の話題,これまでなんとなくわかっていたつもりになっていただけの化学的現象,といったものを講義で採りあげ,高校までの化学とは違う世界を知ってもらうことを,私は目標にしています.

山内さんにはこのあたりを確かに理解していただけたようです.記事を最後に,

大学で、高校までと違う、楽しい化学の世界をぜひ知ってください。

という一文でしめくくって下さいました.

山内さんによる取材記事はこちらです.

山内さんは,すでに国内の大学はすでに全校を制覇されたとのことです.「大学は制覇しましたが,『キャンパス』はまだなんですよ」とおっしゃっていましたが,北里大学には十和田キャンパスにも三陸キャンパスにも取材に行かれたそうです.また,相模原キャンパスのオープンキャンパスも数年前に取材されたとのことです.

全国に700校以上ある大学を実際に取材された方からの,データにもとづくコメントと感想は,実に説得力のあるものでした.北里大学が,また取材したい大学だと思ってもらえるよう,まずは自分でできることとして,有意義な講義を創って行こうと決意したのでした.

こんな大学で学びたい!―日本全国773校探訪記

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