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Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

有機化合物の構造と名前を覚えよう2013年度版

【注意】この記事は2013年度版です.2014年度版はこちら→有機化合物の構造と名前を覚えよう2014年度版


2013年度第20回目の講義で配付した資料をhtml化して公開します.PDF版のダウンロードはこちらから↓

有機化合物の構造式や名称の丸暗記に労力を注ぐことは,化学の本筋ではない.化合物の名称を見て構造式を正しく書けるとか,構造式を見て国際規格に沿った名称を答えられるといった能力は,化学を専攻する学生がじっくりと身につければよいものであって,化学を専攻しない1年生が根性を入れて習得すべきものではない.


しかし,医療に携わる職業人として知っておくべき化合物というものもある.以下の有機化合物100種類については,名称に基づいて構造を書いたり,構造式に基づいて名称を答えたりできるようにしておこう*1

1 アルカン

1.1 炭素数1から8までの直鎖アルカン


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(1)メタン(2)エタン(3)プロパン(4)ブタンは常温で気体である.(5)ペンタン(6)ヘキサン(7)ヘプタン(8)オクタンは常温で液体である.これら8種類の有機化合物,およびそれらの構造異性体は,いずれも燃料として用いられている.カセット式コンロのボンベや,使い捨てライターの成分表示を見てみよう.

1.2 メタンの塩化物

(1)メタンCH4を塩素Cl2と反応させると,メタンの水素原子が次々と塩素原子に置換され,(9)塩化メチル(クロロメタン) → (10)塩化メチレン(ジクロロメタン) → (11)クロロホルム(トリクロロメタン) → (12)四塩化炭素(テトラクロロメタン)となる.(10)塩化メチレンと(11)クロロホルムは,いずれも有機溶媒として有機化学や生化学の実験に用いられている.


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2 アルケン,アルキン,付加重合で得られるポリマー

(13)エチレンを付加重合すると(14)ポリエチレン(PE)が得られる.(15)アセチレンを付加重合すると,導電性ポリマーである(16)ポリアセチレンが得られる.(17)1,3-ブタジエンは二重結合と単結合が交互に並ぶ共役二重結合構造をもつ.


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(13)エチレンの水素原子を1個置換した(18)プロピレン(プロペン),(19)スチレン(20)塩化ビニル(21)アクリロニトリルは,付加重合により,それぞれ(22)ポリプロピレン(PP)(23)ポリスチレン(PS)(24)ポリ塩化ビニル(PVC)(25)ポリアクリロニトリル(PAN)となる.これらの高分子は輸液バッグ,薬品ボトル,送液チューブ,機器カバーなど,医療分野においても広く用いられている.


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(26)アクリル酸を付加重合して得られるポリアクリル酸のNa塩である(27)ポリアクリル酸ナトリウムは吸水性を示すので,紙オムツに利用されている.(28)メタクリル酸(MMA)を付加重合して得られる(29)ポリメタクリル酸(PMMA)は,ハードコンタクトレンズの主材料に用いられているほか,アクリル樹脂として水族館の水槽,医療機器の透明パネルなどに用いられている.


(30)酢酸ビニルを付加重合して得られる(31)ポリ酢酸ビニル(PVAc)は,水溶性木工ボンドの主成分である.(31)PVAcを加水分解して得られる(32)ポリビニルアルコール(PVA)は医薬品の包装材に用いられている.(32)PVAを(46)ホルムアルデヒドと反応させることによって,ロープやネットに用いられる化学繊維(33)ビニロンが得られる.


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(34)塩化ビニリデンからは(35)ポリ塩化ビニリデン(PVDC)が得られる.(35)PVDCはサランラップの主原料である*2(36)テトラフルオロエチレンから得られる(37)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は,油も水もよくはじくので,医療機関において人工血管や送液チューブに用いられている.また,家庭ではフライパンの表面処理に用いられている.

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3 酸素原子を含む有機化合物

3.1 アルコール

(38)メタノール(メチルアルコール)は毒物である.飲むと失明し,死亡することがある.(39)エタノール(エチルアルコール)はアルコール飲料の主成分であり,消毒薬として用いられている.(40)1-プロパノール(n-プロピルアルコール)と(41)2-プロパノール(イソプロピルアルコール)は互いに構造異性体の関係にある.2-プロパノールは(39)エタノールと同様,消毒剤として用いられる*3(42)t-ブチルアルコール(2-メチル-2-プロパノール)は最も単純な構造をもつ第三級アルコールである.


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(43)エチレングリコールはラジエーターの不凍液に用いられる.人体に有害である.この物質を脱水縮合して得られる(44)ポリエチレングリコール(PEG)は人畜無害な高分子であり,細胞への遺伝子導入や化粧品の乳化剤として用いられている.(45)グリセリン(グリセロール)は医薬品の原料や保湿剤などに用いられる.


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3.2 アルデヒド,ケトン,カルボン酸,エーテル

(46)ホルムアルデヒドは人体に有害であり,シックハウス症候群の原因物質の一つである.これを体積パーセント濃度で37 %含む水溶液はホルマリンと呼ばれる.(46)ホルムアルデヒドを酸化すると(47)ギ酸になる.(39)エタノールが酸化されると(48)アセトアルデヒドになる.これは悪酔いの原因物質である.


(48)アセトアルデヒドがさらに酸化されると(49)酢酸になる.酢酸は食酢の主成分である.酢酸2分子が脱水縮合すると(50)無水酢酸*4 が得られる.(51)アセトンは(70)フェノールを合成する際の副産物として得られる安価な溶剤であり,水と任意の割合で混合可能である.塗料の溶剤やマニキュア除光液に用いられている.


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(52)シュウ酸は2価のカルボン酸である.体内でカルシウム塩を形成すると,尿道結石の原因となる.(53)フマル酸(54)マレイン酸は互いにシス-トランス異性体の関係にある.(53)フマル酸は生化学のTCA回路に出てくる.


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酸素原子を挟むかたちで炭化水素基が結合した物質がエーテルである.(55)ジエチルエーテルは以前,麻酔薬として用いられていた化合物である.単に「エーテル」と言った場合,ジエチルエーテルを指す場合が多い.(56)ジメチルエーテル(DME)には近年,燃料としての利用が期待されつつある.


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3.2エステル

(49)酢酸と(39)エタノールを脱水縮合すると(57)酢酸エチルが得られる.一般に「○○酸△△」という名称のエステルは,○○酸と△△アルコールが脱水縮合して生成されたものである*5.(51)アセトンと同様,塗料の溶剤やマニキュア除光液に用いられる.エステルの多くはフルーティな香りがする.


(58)油脂は炭素数が16や18のカルボン酸とグリセリンとのエステルである.R1,R2,R3は同じ場合もあるし,異なる場合もある.


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炭水化物を(59)乳酸に変える微生物が乳酸菌である.乳酸菌はヨーグルト,チーズ,バターなどの製造に用いられる.これらの食品は乳酸を多く含む.(59)乳酸を脱水縮合して得られる(60)ポリ乳酸(PLA)は生分解性プラスチックの原料であり,(61)グリコール酸から合成される(62)ポリグリコール酸(PGA)と共に,抜糸の必要がない縫合糸として外科手術に利用されることがある.


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5 ベンゼン環を含む化合物

5.1 一置換ベンゼン


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石油から得られる(63)ベンゼン(64)トルエン(65)o-キシレン(66)m-キシレン(67)p-キシレン*6はBTXと呼ばれ,ベンゼン環を含む様々な有用物質合成の出発材料に用いられている.


(63)ベンゼンの水素原子を1個塩素原子に置換した(68)クロロベンゼンからは,殺虫剤が合成されていた.ベンゼンを(18)プロピレンと反応させて得られる(69)クメンからは(70)フェノールと(51)アセトンが得られる.


フェノールからは(71)サリチル酸が得られ,(71)サリチル酸を(50)無水酢酸と反応させると,鎮痛作用のある(72)アセチルサリチル酸*7が得られる.


一方,(71)サリチル酸を(38)メタノールと反応させると,消炎作用のある(73)サリチル酸メチル*8が得られる.


(63)ベンゼンから(74)ニトロベンゼンを経由して合成される(75)アニリンも,様々な医薬品合成の原料となる.たとえば(75)アニリンと(50)無水酢酸とを反応させて得られる(76)アセトアニリドは,かつて解熱剤に用いられていた化合物である.(64)トルエンを酸化すると得られる(77)安息香酸には抗菌作用があるので,安息香酸のNa塩が食品の保存料に用いられている.(70)フェノールと(46)ホルムアルデヒドからは熱硬化性樹脂のフェノール樹脂が合成されている.(63)ベンゼンに水素を付加すると(78)シクロヘキサンが得られる.


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5.2 二置換ベンゼン

(79)o-クレゾール(80)m-クレゾール(81)p-クレゾールは消毒薬として用いられている.ベンゼン環が2個つながった(82)ナフタレンは防虫剤として用いられている.パラの位置に2個の-COOH基をもつ(83)テレフタル酸は,ペットボトルやポリエステル繊維の原料である(84)ポリエチレンテレフタラート(PET)の材料である.ポリエステル繊維は医療従事者の作業着,ベッド,担架などに用いられている.


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6 窒素を含む有機化合物

アンモニアのH-を1個ずつCH3CH2-に置換して行くと(85)エチルアミン(86)ジエチルアミン(87)トリエチルアミンとなる.(87)トリエチルアミンは生化学実験において緩衝溶液に用いられる.(87)トリエチルアミンが配位共有結合によってさらにCH3CH2ー基と結合すると(88)テトラエチルアンモニウム塩となる.


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(89)尿素は保湿剤に用いられており,生化学実験では蛋白質や核酸の変性剤として用いられる.尿素をホルムアルデヒドと反応させると,熱硬化性樹脂の尿素樹脂が得られる. (90)アセトアミドは様々な薬品合成の出発材料に用いられる.(91)ホルムアミドは生化学実験の変性剤に用いられる.(92)アセトニトリルは極性をもつ有機溶媒として,生化学実験に利用されている.


(93)アミノ酸が脱水縮合により多数つながった生体高分子が(94)蛋白質である.不斉炭素原子*9に結合したRには20種類のものがある.


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(95)6,6-ナイロン*10は,(96)アジピン酸(97)ヘキサメチレンジアミンから脱水縮合によって合成される.機械的強度に優れ,ストッキングやスポーツウェアに用いられている.医療分野では,外科手術の縫合糸に用いられている.人類が最初に合成した人工高分子である.


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ニトロ基(NO2-)をもつ有機化合物には爆発性のものが多い.(45)グリセリンと硝酸から得られる(98)ニトログリセリンは爆薬であるとともに,狭心症の治療薬でもある.(99)2,4,6-トリニトロトルエンはTNT火薬の主成分である.


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7 糖類

医療に携わる者にとって(100)グルコース(ブドウ糖)は身近な化合物である.グルコースが脱水縮合でつながるとセルロースやデンプンになる.セルロースとデンプンとは分子内におけるグルコースどうしの結合構造が異なる.どちらも加水分解すればグルコースになる.


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このブログを書いている人


私はこういう人 - 大学1年生の化学(北里大学・野島高彦)

はじめて学ぶ化学

はじめて学ぶ化学

*1:100種類すべてが医療に関係しているわけではない.他の重要物質を説明するために比較対象としてとりあげているものもある.

*2:塩化ビニルと塩化ビニリデンの共重合体をサランと呼ぶ.

*3:日本薬局方ではイソプロパノールとなっている.

*4:氷酢酸とは異なる物質である.

*5:エタノールはエチルアルコールとも呼ばれる.酢酸とエチルアルコールのエステルなので,酢酸エチルとなる.

*6:オルト(o-),メタ(m-),パラ(p-)の位置関係を正しく覚えよう.

*7:別名はアスピリン.頭痛薬バファリンの主成分.

*8:消炎鎮痛剤サロメチールの主成分.

*9:93の構造式中で*の付いた炭素原子.4種類の異なる置換基をもつ炭素原子を不斉炭素原子と呼ぶ.

*10:ナイロン66と表記される場合もある.