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Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

医療工学科の化学講義(7)原子の結合その3

医療工2010

履修者84名中,81名出席.96 %.
今回の目標は,電子の挙動に基づいて分子の「かたち」が決められる理由を説明することです.これまでの講義が高校化学の復習だと感じていた人にも,大学らしさを感じてもらえる箇所です.狙いは電子の挙動について今までよりも深く理解するところから始め,軌道の様子を理解し,それが分子の「かたち」と「極性」につながる,という流れを捉えることです.ただし,化学を専攻しない学部1年生を対象としているため,数式を使わない説明を試みました.そのため,正確さに欠ける部分があります.また,ところどころ説明のために故意に偏った表現をしています.

前回やったこと・質問・コメント・その他紹介

くわしくは前回の講義録後半参照.

電子はどこにいるか?

これまでは,正電荷を持った原子核のまわりを,負電荷を持った電子がクルクルとまわっている,というモデルで原子の世界を説明してきました.しかしこれはあくまでも説明のためのモデルであって,実際の電子の振る舞いは,もっと奇妙なものです.
電子スケールの世界では,粒子の位置と運動量を同時に正確に決定することができません(ハイゼンベルグの不確定性原理).そのため,電子が「だいたいどのあたりにいることが多い」という理解しかできません.水素原子の場合,原子核から一定の距離範囲に電子が見つかることがもっとも多い,という理解が可能です.この,電子が見つかりやすい空間がK殻であり,1s軌道と呼ばれているものです.
ヘリウムの場合,この空間に2個の電子が共存しています.1s軌道には2個までの電子が存在可能です.

●丸い軌道上にあるのは電子にかかる力がつりあっているから(クーロン力と遠心力?)だと思っていたんですけど,量子論的にはこの考えは間違っているんですか?

もしこのような釣り合いだけで電子と原子核とが引き合っているとすると,電子は原子核から任意の距離を回転することになります.これは実験事実に合いません.電子と原子核との間の距離には様々な制約が存在するのです.

●電子はどこにいるのか分からないということは,教科書などに載っている原子核の周りにあるあの電子のモデル図は嘘なのか?軌道上にあるとは限らないのか?

原子核の回りを電子が回っているというモデルは,それなりに物質の仕組みを理解する助けになるモデルです.そのため,「嘘」と切り捨ててしまうには惜しい考え方です.ではどのような図を描けば「真実」なのか,ということを考えると,この考え方は「図示できる」ことが前提になります.図示できない,という現実を前にしたとき,私たちは理解を進めるために様々なモデル図に頼ることになります.今回紹介した電子雲の絵も,そうしたケースのひとつに過ぎません.

●e-を見えないのにどうして存在するって言えるんですか?

実験事実からです.物質にエネルギーを与えると負電荷をもった微小な粒子が飛び出してくることがわかっています.それが電子です.

●そもそも電子の移動速度ってどれくらいなんですか?・・・って,それすら観測できないんですかね?

特定の速度を持っているわけではありません.そして原子内では電子の移動速度という考え方自体がなりたたなくなっています.

●軌道と殻って同じ意味ですか? けっこう難しかったです.
●s,px,py,pzは電子殻のK,L,M,N殻とは違うのですか?

ちがいます.K殻が1s軌道から成るという場合を除き(これも正確には違うんですが),複数の軌道から殻が構成されているというしくみになっています.

●高校のときに電子雲やったんですが,全くわからなかったんです.でも今日の講義でわかりました.
●量子論,ハイゼンベルグの不確定性原理は放射線物理学の教科書でもいた気がします.
●電子のいやすい位置を,飼っている犬にたとえていたのがわかりやすかったです.
●量子的モデルの考え方がいまいち分かりませんでした.
●電子がK殻などの軌道上だけを回っているのではないと知って驚いた.

分子ではどうなるか

H2分子の場合は,2個のH原子が1s軌道を重ね合わせることによって結合をつくります.ここでK殻が閉じます.


同じです.

L殻から先

L殻は2s,2px,2py,2pzの4個の軌道から構成されています.L殻に電子が収まって行くときには,まず2sに2個,続いて1個ずつ2px→2py→2pzと収まり,さらに1個ずつ2px→2py→2pzと収まって行きます.ここまで収まったところでL殻は閉殻になります.これがNeの場合です.
それぞれの軌道の「かたち」を,以下のプログラムを用いて説明しました.

●2s軌道と2px,2py,2pz軌道は必ずかぶりますよね?

はい.完全に空間的に分離しているというわけではありません.

●共有結合するのにs軌道が必要なワケをもう一度説明して下さい.

いくつかの理由があります.ひとつの理由は,s軌道が原子核を中心に等方向に電子の存在確率をもっているのに対して,p軌道は原子核を含む平面上の電子存在確率がゼロだという違いです.そのため,電子を引きつけておく引力が,p軌道よりs軌道の方が強くなります.この結合力が,電子の交換にもとづく共有結合に必要である,というものです.

●sとかpって何の略?

sharp,principal,diffuse,fundamental,の頭文字からs,p,d,f ,をとった経緯があります.分光学測定で得られるスペクトルの形です.fから先はアルファベット順にg,h,・・・となります.

●sとかpxとかの意味がわからなかったです.座標を表しているのですか?sはどこで使えばいいのですか・・・.

pxのxはx軸を表しています.任意の3次元直交座標をとってx,y,zとします.s軌道はたとえば水素分子の共有結合で直接使われている軌道です.

●2p軌道も八の字に沿って移動する訳ではないんですよね?

そうです.そのように移動するわけではありません.あくまでも存在確率の高い空間,という理解です.

●s軌道,あるいはp軌道しかない原子ってH以外にもあるのでしょうか?

s軌道だけはHとHe.p軌道だけというのはありません.

●s軌道やらp軌道やら,どういうものなのか分かりませんでした.s,pというのは電子が存在しやすい空間のことですか?

そう考えてかまいません.

●黒板には電子がほとんどの場合にみつかる空間を「電子軌道」を書いてあったのですが,「原子軌道」ではないのですか?もし違うのならその違いを教えて下さい.

今回の内容は「原子軌道」に統一しておいてください.ごちゃまぜになりやすいふたつの言葉なのですが,厳密には違います.詳細省略.

●s軌道が共有結合に必要,という意味があまりよく理解できなかった.けれど,立体的にかんがえることによって,極性の生じるメカニズムがより分かりやすくなった.
●実は軌道は受験期にちょっとやりました.久々で楽しかったです.
●分子モデルを使った電子のかたよりによる分極の説明が分かりやすかった.
●電子軌道s,pは聞いたことがあったが,仕組みがよくわからなかったので,よく理解できよかった.
●高校で使っていた便覧に軌道の図が載っていてギモンに思っていました.もう一度そこを見てみようと思います.
●高校の時,電子軌道にちょっとふれといてよかった〜
●s,p軌道など新しいことが出てきたので難しかったです.
●映像があったので,px,py,pzがよく分かりやすかった.反発しないようにずらすのもよく分かった.
●L殻の2sとか,2pxとかがいまいちよくわからなかった.むずかしい>< 今日はなんだか長く感じた.
●軌道と聞こえたので,宇宙の内容とまちがえました.分子って奥が深い.
●軌道のかたちが少しイメージしにくい所もあったけれど,最後の映像でなんとなくわかりました

メタンCH4分子が形成されるとき

メタンCH4の場合を考えてみます.中心の炭素原子の価電子は次のような配置になっています.
2sに2個,2pxに1個,2pyに1個,2pzはカラ
しかしこの電子配置では4個のH原子と結合することができません.また,炭素原子がオクテット則を満たさなくなります.さらに,実験的な根拠から,4本のC-H結合が等価なものであることもわかっています.こうした処条件を満たすための解釈が,混成軌道の生成,です.
2s軌道の2個の電子のうちの1個を2pz軌道に移すことによって,共有結合に参加可能な電子を4個とすることができます.さらに,2px,2py,2pzを,エネルギー的に等価なものに再編成することによって,等価な4本のC-H結合をもつメタンCH4分子を構成できるようになります.この際に生成される軌道が4本のsp3混成軌道です.

●混成軌道生成のとき,エネルギーはどのくらい使いますか?

炭素原子が一個だけあって,それが軌道の形態をかえる,という場面は想定できません.エネルギーの変化は別の角度から考える必要があります.そのため,ここで単純に○○ J mol-1とは答えられません.

●sp軌道と部屋分けの話は抽象的で難しかった.なぜsp3,sp2,spに分かれるのかがイマイチだった.

後期,炭化水素のバリエーションを説明するとき,エタン,エチレン,アセチレンの違いを例に説明します.

●混成軌道のところが,まだイマイチわからないので復習しておきたいと思います.
●sp,sp2の仕組みは分かったけど,どんな場合になるのかがわかりませんでした
●混成軌道の出来方は意外だった.なかなか軌道の話は難しい.
●混成軌道のできるメカニズムに感動した.
●なかなかの強敵でした.特に混成軌道には,やられました.生成されるときがよくわかりませんでした.
●混成軌道ができるまでのイメージがよくわからなかったけど,ムービー見たらなんとなくわかった.
●混成軌道での映像が難しかった.
●軌道の「かたち」が何パターンもあるのにびっくりした.
●良い動画をおもちですね.どこで取りましたか? 何度も見てspを頭に植え付けたいです.

アンモニアNH3と水H2O

Cよりも電子が1個多いNを中心にもつアンモニアNH3の場合は,4本のsp3混成軌道のうち一つがすでに2個の電子で埋まっています.残りの3個のsp3軌道を用いてN-H共有結合がつくられます.このため,NH3分子内には等価な3本のN-H結合と,1箇所の非共有電子対が存在します.その結果,NH3分子全体で電子の偏りが生じ,これがNH3分子を極性分子としています.
さらに電子が1個増えた酸素原子をもつ水H2Oの場合,2本のsp3混成軌道が非共有電子対で埋まっています.残りの2本がO-H結合に用いられます.この場合も同様に,分子は極性を持ちます.

●「非極性」ですか?「無極性」ですか?

おなじものです.

●なぜ水分子があんな形をしているのかわかってスッキリしました!
●電子の数によって構造があんなに変わるとは思わなかった.とても小さな電子もそれなりに頑張っているんだ〜〜
●NH3ついて今までの見方と変えて考えることができてよかった.先生のおかげなのか思ったより理解しやすかったです.ありがとうございました.
●分子のかたちも,前までは暗記で「ん??」って思ってましたが,理屈がわかって納得できました!
●極性のことがよく理解できました.
●極性がどういう原理で発生しているのかがわかって良かった.
●電子1個の違いによって偏りが生じるということがわかりました.
●今まで極性,無極性は暗記していただけでしたが,これからは考えて極性,無極性を識別できるので嬉しいです!!
●今まで極性・非極性は暗記でしたが,軌道の電子の配置によって決まっていくことにちょっと感動しました.今まで知らなかったことを知るってわくわくしますね(笑)
●極性がなぜ生じるのかがとてもよくわかった.

sp2混成軌道とsp混成軌道

s軌道とp軌道とを再編成して混成軌道をつくる方法は,3通り存在します.
s軌道1個に対して3個のp軌道を混成させる場合がsp3混成軌道,
s軌道1個に対して2個のp軌道を混成させる場合がsp2混成軌道,
s軌道1個に対して1個のp軌道を混成させる場合がsp混成軌道,
となります.詳細は次回.

今回の内容に関する全般の感想

ここは意見が半分に分かれることを予想していました.今回は前もって予告していたため,理解に挫折したという声はなかったのですが,難しかったという声も多数寄せられました.逆に,こういうのを待っていたという声も.
まずは「Exciting!」というような感想から

●どうして今日の内容を高校でやらないのだろうかと不思議でなりません.絶対にこっちのほうが理解しやすいのに・・・
●仕組みがおもしろかった.内容が今までのよりも濃いように感じた.
●難しかったけどわかりやすかったです.
●わかりやすかったです.
●めっちゃ理解です.すげー面白かった! 久しぶりに急いで楽しくノートをとりました!!
●今回の授業は大学生になったな〜と思う授業でした.
●すごく化学をやっている気分だった.難しかったけど楽しかった.
●大学の講義っぽくて楽しかった.復習の範囲がおわり,次も楽しみです.
●これからの化学が楽しみです.
●高校の授業でも習ったところでしたが,あやふやだったところがちょっとすっきりしました.
●少しイメージしにくいところがありましたが,わかりやすかったです.やっぱり新しいことを習うのはワクワクします.
●大学っぽいと思った.分子の構造について高校までの自分の知識が少し深くなったと思う.
●今日みたいな(もしくはそれ以上の)内容が続くといいです.
●ついて行けるか不安だったけど少しは分かった.「それぞれの軌道のかたち」のところが混乱した.でも,化学が前より好きになった.
●新しい内容で難しかったけど楽しかった.
●難しかった分,今までで一番楽しい内容でした!!
●何となくわかった.今までの授業で一番集中できた.
●とても楽しかった.
●今回の内容は初めてやることだったので,面白かったです.
●新しいことを学んだ新鮮な感じがしました.家でしっかり復習して身につけたいと思います.
●お〜!!大学の授業受けたな!っていうかんじでした.

続いて,理解困難であったという声

●今日の単元は割と発展的な内容だったので,難しく感じた.
●難しくて理解できなかったのですが,最後のビデオでちょっとわかりました.
●今回の講義は最初こそ理解できたが,後半の分子の極性,非極性のところから難しくてあまり理解できなかった.来週までには見直しをしておきたい.
●今日は結構内容が濃くて,難しい所もありました.今日,家に帰ったら復習しようと思います.
●なんとなく理解できた.もう限界.
●やっぱりちょっと難しかったです.
●いや〜難しい!!
●今回から少し難しく感じました.
●今日から一気に内容がムズかしくなりおどろきました.
●今回の講義はかなり難しかった.やばいかもしれない.
●急激に難しくなって理解に苦しむ(泣)
●今回は内容が難しくてよくわからなかった.
●今回の講義は速くて難しかった.
●今日の話は今までより難しかった.
●前回と比べると急に難しくなった気がして混乱しています.
●今日のところはちょっとむずかしかった1 ちゃんと家で復習しようと思いました.
●新しいことばかりで理解がおいつかなかったです.
●今日は難しかったです・・・.でも最後の映像での説明で,ちょっと納得!! あれ,イイ!!
●予告の通り,よくわからなくなってきました.授業が進むにつれて更にわからなくなってしまったので,焦っています.来週は今回よりも理解できたらいいなぁ・・・と思います.
●今日のところはとても難しかったので,きちんと復習しようと思います.
●やっぱり難しかったです.1回の説明じゃ全然理解できなかった(泣) 復習がんばります.どこから分からなくなったのかもわかんないです(;_;)
●なかなか難しい授業だった.
●今日の内容は難しかった.しっかり復習してきます!
●今日から突然難しかった.前回よりは大学に入ったと思ったけど,よく分からなかった.

両者の中間的な声も

●わかったようなわかんないような感じでした.
●すごく分かった気がする.しかし分からないような気もする.今日のことろは復習したほうがよさそうだ.
●e-や結合について言っているのは分かったけど,何を言っているのかよく理解できませんでした.

●この内容はどんなことに役立つんですか

たとえば,分子の構造から分子の反応性を予測するときに使います.

その他

●ボンベの色が法で決まっているのは知らなかった.驚き.

ガスボンベの色の話です.

●カメラがあって少し緊張した.

公開するわけではありません.いったいじぶんは毎回毎回どのような講義をやっているのか,自分でみてみようと思ったまでです.

●#ってどんな意味で使ってますか?

追記事項とかコメントとか.

●共有結合がわかった.

次回予告

原子の結合についての最終回にする予定です.多重結合を原子軌道から説明した後,金属結合,水素結合,配位結合と進みます.