Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

ただいま2017年度のシラバス執筆中:計画を立てるときにはこういうふうに考える

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ただいま2017年度のシラバスを執筆中です.

北里大学に来て9年目に突入なんですが,担当してる講義(化学)の内容は毎年マイナーアップデートしていて,その内容がシラバスに反映されます.

毎年1月上旬はこの作業をやってます.

●記憶よりも記録

講義内容マイナーアップデートのときにもっとも参考になるのは,前年度の「記録」です.

講義の終了時刻と,確認問題を回収して退室した時刻とを毎回記録してあって,時間が余った回では,実例としてとりあげる例を1個増やしてみるとか,時間がキツめな回では演習問題を簡単にするとか,そんな調子で微調整してます.

こういうふうに考えて計画を立てれば,「時間が足りなくなっちゃったー」とか「計画どおりに進まなーい」にならずに済みます.

そういうわけで講義にしろ演習(前期木曜2限の大学基礎演習 #リケスタ ・こんどで7年目)も,「進める側」としては最適化された状況にあります.

●人類が科学を進めるので講義の中身を変える

この「最適化」っていうのは,同じことを繰り返すうえでの最適化なんですが,実際には講義にしろ演習にしろ中身は数年ごとに入れ換えています.

たとえば,2016年にはニホニウムNhをはじめ新しい元素が周期表に加わったので,こういうのは「元素と周期表」の回で扱いたいところです.

それから,まもなく「1モル」と「1キログラム」の定義が変わろうとしてるので,このあたりも「モルと化学反応式」で扱いたいところです.

しかしコレの説明をするには「プランク定数」を理解してないとダメなんで,高校物理未履修層が厚いことを考えると詳しい説明はパスだなー.

他にも新しい医薬品が開発されたり,新しい医療材料が開発されたり,生命現象が一歩解明されたりっていう調子で,人類が自然科学を進めているので,ソレに伴って講義内容も更新してます.

化学の講義を担当してるおかげで,ずいぶんと化学に詳しくなりましたよ.

更新したら講義終了時刻も変わるので,ソレも記録しておいて,1年後に計画を立てるときの参考にします.

記憶よりも記録

●高校の復習をしても つまらない

新しい内容を組み込むと,代わりに何かを追い出すことになるわけで,「高校の復習」範囲で「今から学んでも死ぬまで役に立たないものごと」を優先的に追い出し続けてます.

有機化学の「化合物の名前の付け方ルール」とか,無機化学の「単位格子中の粒子の数」みたいなのは医療系の仕事に就くために大学に入学してきた人々が「今から」マスターしても全く役に立たないので最初からパスしてあって,かわりに有機化学なら「石油化学工業」,無機化学なら「薬剤に含まれる多原子イオン」を入れてあります.

石油化学について考えるようになると,ニュースで「ホルムズ海峡」とか「シーレーン」といった言葉をきいたり,ガソリンスタンドでガソリン価格を見たりするたびに世界のことを考えるようになるでしょう.それと比べたら,名前の付け方なんかどーでもいいし.

薬剤についても,自分が風邪を引いたりケガをしたりしたときに薬品の成分表を見て,知ってる物質名が出て来る体験っていうのは人生をちょいとばかり面白くするもの(かもしれないもの)なので,ソレと比べたら,面心立方とか最密充填とかどーでもいいし.

2017年度は前期の化学結合のあたりを圧縮して,代わりに後期の有機化合物の範囲,具体的には私たちの身体を構成している化合物の理解,の回数を増やす計画です.

圧縮したぶんは「家庭学習」+「学習サポートセンター(ASC)」だな.

●こうやって考える

生活の全てを電算化する勢いで生きている私ですが,ものごとを考えるときには機械は使いません.

シラバスの改訂も「考える」ところは紙にペンで殴り書きをして進めています.

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調べたり,整理したり,見た目を整えたりっていう作業にコンピュータは適してますが,「考える」のに2017年のコンピュータ環境は役に立たず,むしろ足手まといっていうのが私の考えです.

そのうちに変わって来るかもしれないけど.

このあたりは昨年の11月に『化学』誌に寄稿した『コンピュータは科学者から何を奪ったか』にも書いてあります.

●乞うご期待

っていうわけで,2017年度「化学 #メディケム 」履修 & モグリのみなさまお楽しみに☆

●リンク

www.tnojima.net
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☆新入生への注意