有機化合物の反応を理解するためには,その反応に伴って電子がどのような動きをするのか,を理解する必要があります.
そのため,大学レベルの有機化学では,電子の動きを矢印を用いて表します.
たとえば,高校化学でも出てくる,酢酸とエタノールから酢酸エチルと水ができる反応は,
というように説明するのですが,この矢印を使った表し方は,高校までの化学で(正式に)学んでいないこともあって,慣れるまでがタイヘンです.
っていうのを助けてくれるアプリが登場しました.
大学1〜2年生の有機化学の勉強に最適な学習アプリ!「有機化学 基本の反応機構 Organic Chemistry Reaction Mechanism」iOS→ https://t.co/NP8HOr6wdU Android→ https://t.co/xhBrPr0c9C
— 新・有機化学 基本の反応機構(日・英版) (@organic_chemist) 2017年3月29日
東京農業大学の 松島芳隆先生 @matsushima_y が開発された『「有機化学」基本の反応機構 Organic Chemistry Reaction Mechanism』です.
iOS版とAndroid OS版があります.
「有機化学」基本の反応機構
アプリを起動すると最初にメニューが表示されます.以下,iOS版のキャプチャ画像で説明して行きます.
これより下に,17章までのメニューが続きます.
1章では矢印の使い方の「おやくそく」を説明しています.
パワーポイントのアニメーションのように,一段階ずつ必要事項が表示されて行きます.
一段階ずつ説明が進んで行くため,理解しやすくなっています.ここが印刷物よりも圧倒的に分かりやすい点の一つになっています.
以下,同じようにして「曲がった片矢印(釣り針形矢印,片羽の巻矢印)」,「直線形矢印」,「両頭矢印(双頭矢印)」の説明が続きます.
反応機構説明の例:アルケンへの水付加
有機反応の説明例としては,アルケンに水が付加する反応を紹介しましょう.
私の担当している化学講義 #メディケム でも後期に類似反応を取り上げています(私の場合はエチレンやプロピレンへの水付加:医療に関係するアルコールを例にとってるので).
まず最初に反応の まとめ が表示されます.
画面をタップすると,反応機構の説明が始まります.2-メチルプロペンが出てきて,
触媒となるプロトンH+が現れて,
このプロトンH+に,π電子が流れて行って,
右側のC原子と共有結合をつくります.化合物の右側が =CH2から -CH3に変わっています.
そこに水分子H2Oがやってきて,
H2OのO原子上の非共有電子対が,正電荷をもつC原子にアタックしてきます.
これによってC-O結合ができます.
正電荷をもってる酸素原子は,H+を切り離すことによって電気的中性になります.
そして主生成物(major生成物)である,tert-ブチルアルコールが生じます.
以下,プロトンH+の処理が1段ずつ紹介されて行きます.
途中省略します.
このように,情報が理解しやすいサイズで少しずつ積み重なって行く構成になっています.
途中で説明文や図や記号が消えることがなにので,安心して先に進めて行くことができます.
確認問題も組み込まれています→ minor生成物についても反応機構を描いてみよ.
この反応で2-メチルプロパノールではなく,tert-ブチルアルコールが主生成物となるのはなぜでしょうか? 実際に自分の手で反応機構を書いてみると気付くポイントがあります.
アプリの画面を見ているだけでは気づきにくい箇所は,自分の手を使って見つけ出すようにとの指示です.
この後,この反応についての説明が続きます.
こんな具合に,大学レベルの有機化学の反応のしくみについての説明が続いて行きます.
画面左下には一時停止ボタンがあるので,途中でアニメーション進行を止めて考える時間を確保することもできます.
また,画面下部にはプログレスバーがあるため,説明の残り時間を見積もることができます.
ちょっと気になったのは,アニメーション効果の使い分けです.矢印がワイプ効果で滑らかに表示されるのですが,他の説明文や構造式の多くがアピール効果で表示されるため,まばたき前後で違いが分かりにくい場合があるかもしれません.
この点について作者の松島先生にお尋ねしたところ,現在のバージョンでは敢えて効果をこのように使い分けておられるとのことでした.ここはアップデートの際に変更されるかもしれませんし,このままかもしれません.
扱われている反応一覧
全17章までのタイトルは次のようになっています.
1. 有機化学における矢印の意味と書き方
2. 有機化学反応の基礎的事項について
3. 共鳴
4. アルカンのハロゲン化(ラジカル反応)
5. アルケンの反応:求電子付加反応
6. アルキンの反応:求電子付加反応
7. 求電子芳香族置換反応
8. 求核置換反応(ハロゲン化アルキル)
9. 脱離反応(ハロゲン化アルキル)
10. アルコールの反応
11. エーテルの合成とエーテルに関する反応
12. カルボニル基への求核付加反応(アルデヒド・ケトン)
13. エステルに関する反応
14. エノール・エノラートアニオンの関与する反応(アルデヒド・ケトン)
15. エノラートアニオンの関与する反応(エステル)
16. Michael付加
17. Robinson成環反応
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