化学の講義(医療工学科と看護学科)で「ベンゼン環を含む有機化合物」を扱うときに,毎年受ける質問の一つがコレです.
ケクレ構造式でベンゼン環を描くとき,「二重結合はすべて六角形のリングに内接させなければならない」という指導を高校時代に受けたという学生が年に1人はいるのです*1.
結論から言うと,右側の描き方が正しい,ということはありません.
左側の描き方を×にしたら,その採点が間違っています.
●根拠その1
大学入試センター試験平成27年度「新理科2」の「化学」本試験問題では,ベンゼン環の表記が以下のようになっています.
センター試験で用いられている方法が高校理科の範囲で間違い,なんていうことはないでしょう?
●根拠その2
いまの高校化学で使われている教科書では,どちらも使われています.
私,大学1年生の自然科学教育をメイン業務とする部署に勤めていて,高校化学リメディアルも担当しているため,高校化学の教科書も何冊か手元にあるのです.
調べたのは以下の5社の「化学」です.出版社名の五十音順.今年(2015年)春に高校を卒業して大学1年生になった世代が高校時代に使っていた教科書です.
- 啓林館
- 実教出版
- 数研出版
- 第一学習社
- 東京書籍
その結果はこうでした.
というわけで,どっちの描き方が「正しい」っていうことはなくて,ベンゼン環だっていうことが分かればOK.
こういうのは化学の本質じゃないから気にしなくていいよ☆
「ベンゼン環の正しい描き方」について高校で教わったのと違います! って言って来る学生がいる.日本の理科の教科書のベンゼン環がヘンな形をしているところから始まるんじゃないかと #クールジャパン pic.twitter.com/ZkgSLxtHyC
— 野島高彦 Takahiko NOJIMA (@TakahikoNojima) 2015, 11月 16
●タイムライン上のみなさまの反応(追記:2015-11-20)
(1)くっつけるよう指導された
@TakahikoNojima @irobutsu
私もつけなくてバツもらいました。
— Pちゃん (@akechan12miyao) 2015, 11月 16
えっくっつかないのベンゼン環 https://t.co/PpojjLDyV6
— チョビ (@alittletyobi) 2015, 11月 16
(2)くっつけてはいけないと教わった
むしろくっつけてはいけないと教わりましたが…ちなみに授業は昨年です。昔の文献ではたまにくっつけて書いてるけど離して書くのが正式、みたいな説明でした。丸を書くのも好きでしたが、大学の有機化学で共鳴構造の一つを書くよう言われやめました。 https://t.co/UY5X7pFfxw
— ゆづねこ。ミฅ^..^=** (@katze_yuzu) 2015, 11月 17
(3)六角形の中に○が認められなかった
真ん中を「○」にして減点された事はあるな。 https://t.co/AHucwnX8Su
— 駿河屋八兵衛 (@hatchbay) 2015, 11月 19
●別の問題が出てきたのでコレも別に考えてまとめます(追記:2015-11-19)
「高校で習ったベンゼン環の『正しい』描き方」問題が広がって収拾が付かなくなりつつあるので,「二重結合の線2本の長さを揃えるかどうか」問題と,「『六角形に○』とケクレ構造とは表したいものが違うのに前者が正しいという主張がアル』問題とに分けてですね,整理しないと
— 野島高彦 Takahiko NOJIMA (@TakahikoNojima) 2015, 11月 18
●Togetterにまとめができてました(追記:2015-11-18)
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*1:履修登録者は2コースあわせて例年150人前後.出席率はこの時期アレになりがちなので半分くらい.