[演習]手持ちの情報と知識で決断を下す
世の中には主観的に判断を下さなければならない場面というものがあります.「どちらの案も誤っているわけではない.でも,どちらかに決めなければならない」という場面です.科学や法律に基づいて正しさを検証する際に求められる「客観性」とは異なる考え方です.ものごとを「自分で決める」わけです.これを今回からの演習のテーマとします.
- 授業内容解説→ 大学基礎演習B(11)主観的に結論を下す
- グループワーク用シート→ 手持ちの情報で結論を下す
手持ちの情報と知識と思考に基づいて,「やる/やらない」を決めてみるグループワークです.テーマとして選んだのは,「救急車の有料化をするかしないか,決める権限が与えられた場合,『あなただったらどうするか』」です.
グループワークに取り掛かる前に,この問題のバックグラウンドを解説しました.
- (1) 救急車の出動件数が増え続けています
- 救急出動、23年にピークの619万件に 消防庁予測/日本経済新聞 (2013-04-08)
- (2) 総務省は本当に必要な場合にだけ救急車を利用するようにと呼び掛けています
- 救急車を上手に使いましょう/消防庁
- (3) 地方自治体も不必要な救急車出動要請をしないよう呼び掛けています
- 例えば静岡県市長会・村長会はTVCMを制作して放送しています.
- (4) 救急車出動コストは税金から支払われています
- 行政サービスコストの提示一覧表(PDF)/さいたま市のリストの95番に「救急出場業務」があり,1回の救急車緊急出動に対して平成23年度は42,425円のコストがかかったことが記されています.
[演習と講評]グループワークの結果
7グループそれぞれで,「有料化する/有料化しない」を15分間で決め,その結論と根拠をそれぞれ約2分間で発表しました.5グループが有料化に賛成,2グループが有料化に反対,となりました.
- (1) 同じ根拠で相反する結論に至る場合がある
- 「救急車利用が無料だと不必要な呼び出しが減らずに,本当に必要とれている人のところに救急車が出動できなくなるので,救急車を有料化する」という意見を出したグループがあった一方で,「救急車を有料にすると,本当に必要としている人の中には出動要請を控えてしまう人もいて,そこに救急車が出動しなくなるので,救急車は有料化しない」という意見を出したグループもありました.どちらも誤った考えではありませんが,結論は正反対です.
- (2) 条件を付けて賛成/反対する結論もある
- 「有料にするが,あとから必要性が証明された場合には無料とする」とか,「無料とするが,必要性の無い出動要請だった場合には有料とする」といった意見も出ました.双方をちょっとずつ調整すると同じ意見に集約できそうです.スタート地点は異なりますが,同じゴールに向かうこともあるのです.
出発点が同じで合っても,ゴールが正反対になる場合があります.出発点が異なっていても,同じゴールにたどり着く場合もあります.相反する立場の考え方を知ることによって,自分の意見を見直し,修正したり補足したりしなければならない箇所が見つかることもあります.世の中でもめている物事の多くは,双方を満たす解が存在するにもかかわらず,それを探さずに双方が自分の意見だけを押し通そうとして決裂しちゃってるものです.
[ホームワークと次週グループワーク]下した決断を見直す
今回の演習では7グループがそれぞれ「いったん決断を下す」ことをやりました.そして,それぞれのグループは互いにどのように決断を下したのかを知りました.その結果,自分たちの決断を見直す必要性が生じた可能性もあります.また,15分間という限られた時間で下した決断なので,時間をかけて考え直せば,異なる結論に至る可能性もあります.
そこで1週間の時間を取り,下した決断を見直すことにします.
次回の演習で,「この1週間でどのように考え方が変わった(変わらなかった)か」を発表してもらいます.
賛成→賛成,賛成→反対,反対→賛成,反対→反対,の4パターンが考えられますが,7グループはどのような最終決定を下すでしょうか.
参考情報としてオンライン公開されているアンケート結果を2件紹介しました.他にも関連情報が多数みつかります.
[演習の解説]調査レポートと30秒間トーク
大学基礎演習の最終課題は「調査レポート」と,そのレポートで調査対象となっているものごとについての「30秒間トーク」です.レポートは第13回目の演習(7月10日)で提出,この日に30秒トークを行います.その1週間前,第12回目の演習(7月3日)がテーマの届出日です.
1 調査レポートのテーマと内容
テーマは,身の周りの技術/製品/サービス/その他の中から自由に選んでOKです.レポートの内容は次のとおりです.
- それがどういうものなのかを紹介する.
- それが登場することによって「人間生活や社会」がどのように変化したか,影響を受けたか,の歴史を説明する.
- その「技術/製品/サービス」は,「今後10年」でどのように変化/進歩/発展/衰退して行くのか,を予測する.
レポートの体裁は,ガイダンス期間に配付された「レポートガイドブック」を読んで自分で考えてもらいます.枚数は,A4サイズで5枚程度を目安とします.
テーマを決めることも,いま進めている「主観的に結論を下す」演習の一つです.
2 テーマをどのように選ぶか
A4で5枚,というサイズのレポートにするためには,述べる対象もそれに見合ったサイズに絞る必要があります.
たとえば「乗り物」なんていうテーマだと,自動車から舟から飛行機からスペースシャトルからメリーゴーランドまで含まれてしまい,レポートになりません.
そこでたとえば「自動車」に絞りこんでみます.これでもダンプカーなのか軽自動車なのか路線バスなのかレーシングカーなのか限定しないとまとまりません.
そこで「軽自動車」に絞ってみれば,A4で5枚程度のレポートとして手頃でしょう.
もうちょっと絞って「家庭向けの国産軽自動車」としてみると,もっと書きやすくなるでしょう.
3 30秒間トーク
これは「エレベータートーク」と呼ばれるトークをヒントにした演習です.
たとえば10年後のあなたが,何か新しい事業を始めようとしているとしましょう.そのために出資してくれそうな人をたずね歩いています.ある日,あなたは高層ビルで乗り込んだエレベーターの中で,数日前に会った投資家と偶然いっしょになりました.
「あ,この前の話ですけどね,ようするに何をやろうとしているのか,手短に説明してくれませんかね?」
そんなことを急に言われたあなたは,エレベーターのドアが開くまでの限られた時間で,印象的な売り込みトークをしなければなりません.
これから先,限られた時間内でものごとを手短に説明しなければならない場面が必ずやってきます.この演習は,そのときに備えるトレーニングでもあります.今回のレポート課題に選んだテーマは,自分が興味と関心をもっているテーマです.その内容を30秒間で魅力的にアピールすることが次回の演習課題になります.
30秒間というと,日本語では約200文字になります.これくらいの文字数です↓
二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.二百文字というとこの枠内の文字数と同じ.
小学校の頃から使ってきた400字詰め原稿用紙の半分.これまで「どうやって指定枚数ぶんの文字を埋めるか」とか「どうやって枚数を稼ぐか」といったことは考えてきたことでしょうが,どうやって200字に収めるか,なんてことを考えたことはなかったかもしれません.たくさん書くのよりも指定文字数に収めることの方が難しいということを実感する演習になります.