私が担当してる医療工学科および看護学科の「化学」では,後期に有機化学をやるんですが,2012年度以降,ここでは有機化合物100個のリストを作っておいて,後期試験で有機化学の問題をやっつけるときに「名前と構造の関係」がわかっていなければならない化合物はその100個に限定しています.
具体的な100個のリストはコレ↓
講義も試験もこの100個から引っ張り出してます
講義で適当な有機化合物を引っ張り出してきて反応パターンを説明するときも,特別の事情が無い限りそのリストの中の化合物を使うことにしています*1.化学を専攻するわけでもない医療系の1年生が,今から根性を入れて有機化合物の暗記に労力を注ぐのは意味がないと判断するからです.意味が無いという点では「有機化合物命名法」もやりません.アレ,役に立たないですからねぇ.
暗記のためにTwitterボットを運用しています
Twitterボットのアカウントは @OC100_bot です.100個が一定時間おきにランダムに流れてきます.試験範囲じゃないけど性質とか合成法とか用途なんかも併記してあります.
Togetterまとめもつくりました→医療系の大学1年生が覚えておくとよい有機化合物100選(2014年度)/Togetter
@TakahikoNojimaさんの「医療系の大学1年生が覚えておくとよい有機化合物100選(2014年度)」が2500viewを超えたよ。話題になってるよ。見てない人いないよね。 http://t.co/qByBIi8gSJ
— まとめのお知らせ (@togetter_pr) 2014, 9月 8
100個の中身を改定しました
で,その100個なんですが,今年は中身をちょこっと入れ替えました.
- エチルベンゼンを加えた
- 6-ナイロンとカプロラクタムを加えた
- ジメチルホルムアミド(DMF)を加えた
- アミンの置換基をエチルからメチルに変えた
- 100個を超えたんだけど姑息な手段で100個って主張することにした
以下,説明.
エチルベンゼンが無いと説明が不便
身の回りの有機化合物は元をたどれば石油に行き着く(ぜんぶじゃないけど),っていうストーリーで有機化学を説明していて,そのためには石油化学基礎製品からストーリーが始まるわけです.
で,エチレン,プロピレン,ブタジエン,BTX,ってなるのですが,BTXにエチルベンゼンを加えてBTEXとして資源エネルギー関係のニュースになってることが多いのと,スチレンを製造するためにエチルベンゼンを経由していることがあって,エチルベンゼンがリストに入ってないと不便なんです.で,追加.
ベンゼン→エチルベンゼン→スチレン→ポリスチレン→使い捨てシャーレ,っていう具合に医療に関係してるんです石油化学.
6-ナイロンも加えておきたい
ナイロンはカローザスが発明した6,6-ナイロンだけ扱っていたのですが,日本が誇る6-ナイロンもセットで紹介したいところです.欧米と比べて6-ナイロンのシェアが高めだし.ナイロンにバリエーションがあるっていうのも扱っておきたいところです.で,材料のカプロラクタムとあわせて2点追加.
困った,何を削ろう?
3点追加するためには3点カットする必要があります.しかしもう削れない!
っていうわけで姑息な手段を考えました.o-, m-, p-異性体を「1点」と数えることにしたのです.具体的にはキシレンとクレゾール.ここで枠を4個分確保☆
オトナってズルいよね!
1個追加できるぞ
4個分確保した枠に3個入れて,もう1個分の余裕ができたので,ジメチルホルムアミド(DMF)を入れてみました.生命系ではよく使うんだよね,この溶媒.
アミンを入れ替え
一級アミン,二級アミン,三級アミン,四級アンモニウム塩,を説明するときに,アンモニアを基準に水素をエチル基に置き換えて言った場合を去年までは説明ネタにしていました.トリエチルアミンが緩衝溶液に使われるし.
しかし,単純な化合物で説明したくなり,今年度はエチルやめてメチルにしました.腐敗臭の原因とか,貝のもつ毒とか,生命系のネタもあるしね.トリエチルアミンをカットしたのがちょっと悔やまれる.
ホントはもうちょっと増やしたい
100個のリストの中には一般式で扱っているものもあって,「アミノ酸」とか「蛋白質」とかがソレにあたります.ホントはアミノ酸は20種類ぜんぶやりたいわけですが,そのためにリストから19個をハズすのはムリです.
グルコースは入れてあるのですが,セルロースとかでんぷんとかは入れてありません.セルロースは人工透析膜の材料に使われるし,でんぷんは人体の重要エネルギー源なわけですが,押し込むのがキツイ.スクロースも入っていません.スクロース入れるとなるとフルクトースも入れなければならなくなって,100個制限だとムリ.
っていうわけで,100個じゃなくて150個あたりに枠を緩和すればイロイロできるわけですが,むやみやたらと暗記するのもどうかなーっていうのと,生化学とか分子生物学とかの講義もあるわけで,そっちで勉強してもらえばいいかなって思って,今年も100個です.
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*1:試験ではこのリスト以外の化合物を問題に使うこともありますが,それは名前と構造の関係がわかってなくても困らない問題に限ります