キーワード
アルカン,異性体,エナンチオマー,官能基,原油,構造異性体,ジアステレオマー,シクロアルカン,示性式,石油化学基礎製品,脱離反応,置換反応,転位反応,ナフサ,付加反応,不斉炭素原子,立体異性体
今回でてきた有機化合物で,構造と名前を覚えておかなければならないもの
エタノール,エタン,エチレン,オクタン,m-キシレン,o-キシレン,p-キシレン,クロロホルム,クロロメタン,酢酸エチル,四塩化炭素,シクロヘキサン,ジクロロメタン,ジメチルエーテル,トルエン,ブタジエン,ブタン,1-プロパノール,プロパン,プロピレン,ヘキサン,ヘプタン,ベンゼン,ペンタン,ポリエチレン,メタン
講義内容要約
- Cを含む化合物が有機化合物.でもCO2とかHCNとかは含めない.
- 種類は多い:6000万種類以上ある.
- 構成元素の種類は少ない:C,H,O,Nがメインで,他にS,P,ハロゲン,その他がたまに出て来る.
- 基本骨格はCとHで,ここにイロイロな官能基が付いて構造バリエーションを広げる.
- 有機化学の反応パターンは4種類だけ:付加,脱離,置換,転位.
- 分子を描くときに全部の原子のつながりを描くのは面倒だから,炭素と水素とをまとめて描くとか,示性式を使うとか,折れ線で結合をあらわす方法を使うといった,イロイロな方法がある.
- 異性体がイロイロある:まず構造異性体と立体異性体に分ける.4種類の異なる原子あるいは原子のグループを結合したC原子を不斉炭素原子と呼び,コレがある分子には立体異性体が存在する.立体異性体はエナンチオマーとジアステレオマーに分類される.鏡に写った構造どうしがエナンチオマー.そうじゃないものどうしがジアステレオマー.
- 人間の身体は立体異性体を見わける.たとえば2種類あるグルタミン酸のエナンチオマーの片方に「うま味」を感じるが,もう片方には味を感じないし,やはり2種類あるリモネンのエナンチオマーの片方はオレンジの香り,もう片方はハッカの香りを感じる.薬剤の場合,立体異性体の一つだけが有効な成分で,他の立体異性体が有害だったりするから注意が必要.
- 基本骨格がCどうしの単結合で組み立てられているのがアルカン.炭素数が増えるに従って常温常圧で気体→液体→固体と変わって行く.
- アルカン分子内のHが外れて他の原子とか官能基とかが入る反応がアルカン分子の置換反応.アルカンが関係する反応は置換反応がメイン.他には燃焼反応くらい.
- 油田から取れる原油をタンカーで石油備蓄基地に運び,熱をかけて沸点の違いで数種類の成分に分ける.その一つがナフサ.ナフサを熱とか触媒とかで処理して得られるのが石油化学基礎製品(エチレン,プロピレン,ブタジエン,ベンゼン,トルエン,キシレン)で,化学合成される有機化合物の大半は,コレを出発材料としている.
これからやらなくていい努力
- 細かい反応を片っ端から暗記しなくてよい
- たとえば高校化学では「フェノールの合成法3種類」なんてのを暗記させられるのですが,こういうのは今から暗記しても役に立たちません*1.フェノールは「クメン法」で工業合成されるものがほとんど全てで,ソコから薬品だとか樹脂だとかを生産しているので,「フェノール→クメン法で工業合成」って覚えておけばOK.
- 名前の付け方のルールはマスターしなくてよい
- 高校の化学でも大学の基礎的化学でも,有機化合物に名前を付ける方法(IUPAC命名法)ってのをマスターさせられるんですが,こんなの無駄だからスルーしてOK.化学の専門家になるわけでもないのにこんなのを苦労して覚えたところで,今後の人生で使うことはありません.この方法に従わない呼び方をされる物質の方が日常生活でも医療でも圧倒的に多いのが現実です.「なまえのつけかた」なんかをマスターすることに無駄な労力を注ぐより,基本的な化合物の構造と名前を暗記しちゃった方が生産性が高いのです.
有機化合物の構造と名前を覚えよう
というわけで,医療に関係ある化合物を中心に100種類の化合物を選んでおきました.先週配布.ココに出ている化合物に関しては,名称と構造とが対応づけられていることを前提に後期試験を出題します.
確認問題
ジアステレオマーとエナンチオマーの区別がついているかどうかを確かめる問題と,石油化学基礎製品の化学構造を見わけられるかどうかの確認問題.
- (21)有機化合物の世界
コメント
●エナンチオマーとジアステレオマーが苦手なので復習が必要だと感じた.
●むずかしいです.でもがんばります.
●まあいいや.よくわからないけど.略号は高校でも使ってましたよ.
●有機化合物って,ちと,多すぎません?
●ちゃんと復習します.
●ざせつ
●有機は本当に苦手.
●かなり忘れてるので効率よくやりたい
●スライドで出てきた看護師の人がめちゃきれいでした.
●よく理解できなかったので復習がんばります.
●高校のときを思い出しました.自信はありませんが.
●石油化学基礎製品がこんなにも世界のあらゆるところにあふれていることが改めてわかった.
●途中で寝てしまいました.友達にノート見せてもらって復習します.
予習のほうが重要.予習してわかんない概念や手法を講義で確認する,というやりかたをしないと,ホントにワケがわかんなくなる.
●野島先生の化学はホント分かりやすいです.高校の時,苦手だった有機化学,克服できそうです.
私は化学が「医療技術や生命科学にどのように役だっているのか」という視点で講義をしています.「どのように役だっているのか」は実際にバイオテクノロジーやバイオサイエンスの研究をしてきた経験から判断しています.高校では学習指導要領に縛られて中途半端な内容をやっていて,それが原因で化学を苦手科目にしてしまっているのが現状ですオーマイガー.
イベントのおしらせ:学内BBQ場でヤキイモ!
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(11)61→(12)75→(13)72→(14)67→(16)59→(17)59→(18)50→(19)53→(20)57→(21)60
次回予告
「(22)アルケンとアルキン」を学びます.医療現場で用いられる様々な化合物の工業合成法とそのしくみ,身の周りの樹脂や繊維の原料の多くを占める「ビニル系ポリマ−」や,電気を通す有機化合物について学びます.配布物で予習してくること.予習してこないと恐らく付いて来られません.高校の教科書には載っていない内容が多く出てきます.
有機化学のSNS/web連動企画を始めたよ!
@TakahikoNojimaさんの「化学講義21回目に登場した有機化合物 #tnchem」が100viewを超えたみたいだよ。ちょっとでも多くの人に見てもらいたいね。 http://t.co/A7BaTs2IEg
— まとめのお知らせ (@togetter_pr) October 19, 2013
これまでの講義録
- 医療工学科の化学講義(1)ガイダンス+序論(2013-04-10)
- 医療工学科の化学講義(2)原子〜この世界をかたちづくっている材料〜(2013-04-17)
- 医療工学科の化学講義(3)化学とエネルギー(2013-04-24)
- 医療工学科の化学講義(4)元素と周期表(2013-05-10)
- 医療工学科の化学講義(5)原子と原子のつながり その1(2013-05-15)
- 医療工学科の化学講義(6)原子と原子のつながり その2(2013-05-22)
- 医療工学科の化学講義(7)原子軌道と分子の形(2013-05-29)
- 医療工学科の化学講義(8)化学反応式とモル(2013-06-05)
- 医療工学科の化学講義(9)濃度の表しかた(2013-06-12)
- 医療工学科の化学講義(10)物質の性質と状態(2013-06-19)
- 医療工学科の化学講義(11)気体の性質(2013-06-26)
- 医療工学科の化学講義(12)化学反応と熱エネルギー(2013-07-03)
- 医療工学科の化学講義(13)化学反応と化学平衡(2013-07-10)
- 医療工学科の化学講義(14)酸化と還元(2013-07-17)
- (15)前期試験(2013-08-01)
- 医療工学科の化学講義(16)水と溶液(2013-09-11)
- 医療工学科の化学講義(17)浸透圧と透析(2013-09-18)
- 医療工学科の化学講義(18)酸と塩基(2013-09-25)
- 医療工学科の化学講義(19)pHと緩衝溶液(2013-10-02)
- 医療工学科の化学講義(20)放射線と放射能(2013-10-09)
このブログを書いている人
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教科書で扱っていない内容の解説プリント(すべてPDF):すべて後期試験範囲
*1:すでに暗記している人は無理に忘れなくてOK.