Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

大学をやめたいという学生がときどきやってきます

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大学に入学する年齢は多くの場合18才です.18年間の人生の経験に基づいて自分の適性を判断し,全国に700校以上ある大学の中から(入れてくれる・通える・保護者が首を縦に振ってくれる)1校を選んで入るわけです.

当然,入ってから自分が勘違いしていたことに気づくこともあるだろうし,適性だって思い込みの要素が大きいことでしょう.18年の人生経験って言ったって,乳児や幼児だった数年間を含めての18年間ですからねぇ.大学に入ってから,「これでいいのか!?」と悩むことになっちゃう人は珍しくないわけです.

そういう悩みをもった学生がときどき私のところに来て,「どうしたらいいんでしょうか?」ってなります.そして毎回,以下のようなやりとりをすることになります.

いったん入学した大学で卒業まで過ごすべきなのか迷いがある場合には,以下のやりとりを参考に自分の人生を考えてください.

なお,以下のハナシは一部を変えて数回分を混ぜてあります.登場人物が特定されるとアレだからです.オリジナルの登場人物のみなさまには「あーそれは自分のことだなー」ってわかるかもしれないけどね.

よくあるやりとり

学生:「というわけで,この大学をやめようかと思ってます」
私:「あー,やめたいわけね」
学生:「あ,でも,やめていいものか,やめない方がいいような気もするし,どうしようかわかんなくて相談にのってもらいたくて来たんです」
私:「どーしよーかねー? 君はどーしたいわけ?」
学生:「・・・・・・」
私:「決められないんだよね」
学生:「はい」
私:「じゃ,私がかわりに決めてやるよ.いいかな?」
学生:「はい」
私:「言うとおりにする?」
学生:「はい」
私:「じゃ,大学,やめなよ.退学届けを書くわけ.できるよね? 手続きやりな」
学生:「!」
私:「私の言う通りにするって言ったよね?」
学生:「はい,でも・・・」
私:「やめるべきか,やめないべきか,そこが決められなくて苦しんでるわけだよね?」
学生:「そうです」
私:「いま決めたから,もう苦しくないよ.やめるって決めたわけだからさ」
学生:「はい・・・」
私:「じゃ,次を考えよう.今この瞬間から退学にむけて動き始めるわけ.OK?」
学生:「はい」
私:「退学のタイミングは,今スグってのもアレだから,今度の春が来たとき,3月の最後の日ってことでいいかな?」
学生:「はい」
私:「そこで一つ提案なんだが,どうせやめるんだったら,カッコ良くやめたいもんだろ?」
学生:「まあ,そうですねぇ」
私:「惜しまれつつこの大学を去りたいものだ」
学生:「はい」
私:「この大学で学ぶのは今年度が最後だ.だから,いま履修してる科目ではナイスな成績を取ろうぜ.実験や実習も体育もだ.ぜんぶキッチリやる.来年度が始まったとき同期から『あいつはココに残ってもキッチリやれるヤツだったよな.だけどなんか思うところがあって進路変更したんだよな』って言われたいだろ?」
学生:「はい」
私:「『あいつ,なんかダラダラ学校に来なくなっちゃって,みんなに付いていけなくなっちゃったからやめたんだぜ,だせぇーw』って言われるのはカッコ悪いよな」
学生:「はい」
私:「というわけでだ.残されたこの大学での毎日に最善を尽くすんだ.来年はここにいないんだ.やめるって決めちゃったら楽だろ?」
学生:「はい」
私:「で,もう一つ決めておくことがある」
学生:「なんでしょう?」
私:「今日は退学するって決めたんだけど,もう一回だけその決定を見直す機会をつくっておく.確認するわけ.意志をね」
学生:「?」
私:「退学することを前提に最善を尽くして毎日を過ごすわけだけどさ,念のために一回だけ,決定を変えてもいい日を作るわけ.そこで『「やめる」のをやめ』ってなってもいいわけだよ」
学生:「はい」
私:「そいつは,後期試験の最終日にしようか?」
学生:「はい」
私:「というわけでだ,もう悩むことは無い.今から退学に向けてのカウントダウンだ.グッドラック」

彼らはその後どうなったのか

新年度に入ってから「あのときはどーも.なんか頑張ったらコレはコレでいいかなーって思えてきたんで,ココでこれからも頑張ることにしました!」というような挨拶をして来た学生もいるし,キャンパス内ですれ違って「あーあの学生は確かあのときのー」っていうこともあります.もちろん,大学を去って行った学生だっていたかもしれません*1.去って行った学生に対しては,納得のできる別の進路を進んでいることを祈るばかりです.

結論

「続けるべきか,やめるべきか」の悩みに苦しんでいるとき,続けることが苦しいのでもなく,止めることが苦しいのでもありません.結論が出ないことが苦しいのです.「やめる」と決めてしまえば楽なのです.そのかわり,1回だけ結論を見直す機会をつくっておくのです.具体的な日付も決めておきます.それまでは「コレで最後だ」と考えて最善を尽くしてみるのです.その結果,「やめる」という結論を変える必要が無いということが確信できたらやめればいいし,「やめない方がいい」とか「やめなくていい」とか「やめたくない」ということになったら,やめなければ良いのです.

大学に限らず何ごともね.

追記(2013-05-06)

年度末まで大学での勉強をしっかりやって有終の美を飾るっていうのは,大学以外の進路を考えた人に対するアドバイスです.他大学や他学部の再受験を希望する人は,そんなことやってないで大至急,来年度入試で合格するための勉強にGo!

追記(2016-02-10)


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*1:相談に来た学生の学年,学部,氏名,学籍コードをいちいち記録してるわけではありません.私の担当科目を履修してない学生が友達にすすめられて私のところに来ることもあるし.友達は何をすすめたのか不明.