配布物
グループワークその1:いったん下した結論を再考する
前回のグループワークでは,その時点で知っていること,わかっていること,考えていること,などに基づいてグループごとに「もしもあなたがサマータイムを実施するか実施しないか決める権限を与えられたとした場合,あなたはどちらを選ぶか」をいったん決定しました.そして,2週間かけて情報を集め,再度グループワークを行い,この決定を変更するか変更しないかを決めることにしたのでした.
その結果,どのグループも決定に変更なし,となりました.
2週間前には手持ちの情報と経験と感覚だけで仮決定を下したわけですが,それからその内容を再考してみることによって,広い視点から決断の妥当性を検証できたことでしょう.
このやりかたはレポート課題やエッセイを仕上げるときに有効な方法です.いったん完成させておき,それから「寝かせて」おいて,その間に新しく浮かんできたアイデアを取り入れて,再度つくりなおすのです.いったん完成させておくことによって初めて全体像が見えてきます.その全体像に基づいて様々な抜け落ちが見えるようになるので,そこを補って行くことによって完成度を高められるのです.
〆切ギリギリに課題を仕上げていては,いつになってもクオリティの高い提出物を作り上げる能力は育ちません.
解説:答えは相手が知っている
文章で物事を説明するときも,言葉で物事を説明するときも,自分の都合で一方的な説明をしてしまうことがあります.
あれも説明しておこう,これも説明しておこう,ぜんぶ説明しておこう,という考え方に陥り,情報の嵐を相手に投げつけてオシマイ,ということをやっているヒトも珍しくはありません.
これ,相手の立場に立って考えてみると,とても困ったことです.情報というものは伝える側の都合ではなくて,伝えられる側の都合で考えるべきだからです.ときどき「後で何かケチをつけられるとイヤだから何もかも説明しておこう」などという考えで,次から次へと細かい説明をマシンガンのように相手に浴びせるヒトがいます.こういう困ったオトナになってはいけません.
文章作成講座の一環として,簡潔で効果的な文章表現をひとつ紹介しました.
想定する場面→山にトンネルを貫通させ,トンネルを出てすぐの場所に車を停められる展望所をつくった.ドライバーの多くはトンネルを出てすぐの見晴らしの良い景色を見て,展望所に車を停め,すばらしい景色を眺めるようになった.しばらく景色を眺めてから帰ろうとして,エンジンがかからない状態に陥るドライバーが多発した.トンネルで使ったヘッドライトを消し忘れ,そのまま展望所で時間をつぶしているうちにバッテリーが上がってしまったのだ.
どのように問題解決するか
- 「ライトを消せ」という標識をトンネル出口に出す→夜中にライトを消すドライバーが出て事故を起こす
- 展望所に充電器を設置する→費用と手間がかかる
となると,
- 結論→ドライバーが漏れなくライトの点灯を正しく処理するような掲示を出す
となります.
どんな掲示を出せば良いでしょうか?
「あとで何か言われるとイヤだから,すべての場合を想定して確実な注意書きを掲示しよう」という考えに陥るヒトはこういう掲示を出すことでしょう.
もし今が昼間でライトがついているならライトを消せ
もし今暗くてライトが消えているならライトをつけよ
もし今が昼間でライトが消えているならライトを消したままとせよ
もし今暗くてライトがついているならライトをついたままとせよ
こんな細かい掲示を出したところで,ドライバーが読み取ってくれるわけがありません.読んでいたら事故を起こすことでしょう.
なんでもかんでも言葉にして相手に投げつける,という考え方は,伝える側の自己中心的な考え方です.相手の都合を考えていません.
では,どのような掲示を出せばよいでしょうか?
ライト,ついてますか?
これでOKです.
答えは相手が知っているのです.すでにわかっている結論に相手を導く工夫をすることが大事なのです.
- 参考書籍
- 作者: ドナルド・C・ゴース,G.M.ワインバーグ,木村泉
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グループワークその2:簡潔にものごとを説明する
ものごとを言葉で説明するのは簡単そうで難しい仕事です.たとえば初めて北里大学に来る人に,14時にL1号館玄関で待ち合わせることになったとしましょう.必要な情報を言葉だけで説明するための文章を書いてみましょう.
たとえば少ない文字数で必要情報を表すとなると,次のようになるかもしれません.
小田急線相模大野駅北口1番バス乗り場から神奈中バスに乗って約25分の「北里大学病院」で降りて下さい.
バスの進行方向に歩き,立体駐車場に向かって左折して下さい.
直進して左手に見える白い7階建てビルがL1号館です.
その玄関で14時に待っています.
相模大野駅からスタートする道順を簡潔に表しています.しかし,これを受け取る側にしてみれば,ここに記されているすべての情報をアタマに詰め込んでおけなければ,待ち合わせ時刻に待ち合わせ場所に行くことはできません.
そこで,こんな説明の仕方が考えられます.
キャンパスの奥にあるL1号館という建物の玄関で14時に待っています.
大学の最寄り駅は小田急線の相模大野です.
駅からバスで25分,そこからL1号館まで歩いて5分ほどかかります.
相模大野で改札を出たら,北口のバス乗り場に行き,1番乗り場に来るバスに乗って下さい.降りるバス停は「北里大学病院」です.
バス進行方向向かって正面の立体駐車場に向かって左折し,まっすぐ進むと,左手に白い7階建てのビルが現れます.そこがL1号館です.
まず,「L1号館で14時に待ちあわせ」という情報を伝えます.最低限,ここを覚えておいてもらえれば,すれ違う人に建物の場所を聞くなどして,目的地に到着できるでしょう.続いて,最寄り駅の説明,最寄り駅からの所要時間説明,こまかい道順説明,と続きます.文字数は増えてしまいますが,情報を受け取る側にとっては整理された内容になったので,先ほどの例と比べると待ち合わせ場所に待ち合わせ時刻にたどり着ける可能性が高くなります.
このように,情報を受け取る側の立場に立って情報を渡す,ということが重要です.
先に要約,続いてくわしい説明,というやりかたは新聞でも報告書でも広く使われている手法です.
文章作成方法については名著「理科系の作文技術」がおすすめです.
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次回演習課題の説明
調査レポート
これまでに学んできたものごとのまとめとして「調査レポート」課題を出します.テーマは「身の周りの技術/製品/サービス/その他」です.なんでもいいので,自分の好きなもの,気に入っているもの,関心をもっているものを一つ選び,それらが「どのようなものなのか」を紹介し,「どのような歴史があるのか」を説明し,「これから10年間でどのようになって行くのか」をレポートにしてもらいます.
レポートは次回の授業で提出.A4サイズで表紙を含めて5枚が目安.
30秒間トーク
そのレポートの内容を30秒間で説明してもらいます.約200文字.与えられた時間を自由に使って,自分の好きなもの,気に入っているもの,関心をもっているもののPRをしてもらいます.
「何枚埋める」ではなくて「何文字に抑える」ことのトレーニング.
次回は全員に30秒ずつ話してもらいます.
これまでの授業記録
- (1)授業計画と履修者紹介(2012-04-12)
- (2)インターネットは頼れるパートナー(2012-04-19)
- (3)高校から大学へ(2012-04-26)
- (4)授業ノートは役立つ記録(1)(2011-05-12)
- (5)授業ノートは役立つ記録(2)(2011-05-17)
- (6)文章に記されている内容の読み解き方(2012-05-24)
- (7)実験実習科目を攻略する(1)(2012-05-31)
- (8)実験実習科目を攻略する(2)(2012-06-07)
- (9)実験実習科目を攻略する(3)(2012-06-14)
- (10)伝わる文章の組み立て方(2012-06-21)
- (11)考えをまとめる文章の組み立て方(1)(2012-06-28)