Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

東北大震災の学生の安否確認に在学生Twitterユーザーも活躍しました:Twitterの利用

【追記:2013-05-01】おことわり:この記事は東日本大震災があった2011年3月11日から1週間後の2011年3月18日に公開した文章を不定期にアップデートし続けているものです.そのため,当時の様子と現在の情報とが混ざって記載されている箇所もあります.【追記終了】

はじめに

2011年の東日本大震災に関連して,北里大学が把握している安否情報は以下のページに集約されています.

この震災で被害を受けた在学生や,その他の北里大学関係者の安否確認に,在学生Twitterユーザー集団も大きく貢献してくれました.そのことをここに記録しておきます.

次に何かの災害が起きて,安否を確かめなければならなくなったときの参考になるとも考え,私たちが具体的にどのような行動を取ったのかを記録しておきます.

三陸キャンパス

今回の震災で特に深刻な状況に陥ったのが,海洋生命科学部(旧 水産学部)の置かれた三陸キャンパスです.

三陸キャンパスのある岩手県大船渡市では大規模な津波により,壊滅状態となった地域もあります.現地の様子はTVでもたびたび放映されていました.

電話回線は遮断,電力供給は不安定,電子メールによる連絡も困難,という状況でした.

北里大学では,地震発生直後から相模原キャンパスに学生安否確認係を置いて,情報の収集に全力を注いでいました.安否確認の電話をあちらこちらにかけまくって状況把握に努めていた教員もいます.

大学としても,公式サイトに被災状況や安否情報を公開してきました.

しかし,「安否確認係が置かれた」という情報や,「北里大学が被災状況を公開している」という情報は,「北里大学ホームページ」を見ない限り知りようが無い情報です.

情報を必要としている人には,必要な情報を誰かが届ける必要があります.

というわけで私は,Twitterを使って安否確認や情報提供をしようと思い立ちました.その時期,別の目的で北里大学公式Twitterアカウント開設を担当していたからです.

人力アクティブサポート開始

Google検索で「北里大学」をサーチ,オプションは「リアルタイム」.ここに並ぶ検索結果が,世界でもっとも新しい「北里大学」を含むツイート.

【追記:2016-04-14】Googleは「リアルタイム」検索機能の提供を取りやめましたが,Yahoo!が「リアルタイム」検索機能の提供をしています.ここで紹介する方法と似た方法を利用することができるかもしれません.【追記終了】

ここに安否情報をツイートしている人,それをリツイートしている人,に向けて片っ端から,北里大学の学生安否確認係連絡先や,北里大学の公式サイトURLを知らせて行きました.

リアルタイム検索結果はエンドレスに流れて行きます.すべてのツイートに対応するのは物理的に不可能です.

特定キーワードに反応するボットを使うという手も考えましたが,確実に情報を必要としているところに必要な情報を届けるためには,自動化は向いていません.で,人力作業.

北里キャンパスナビゲーターの学生が合流

人力作業をやっていたところに,#キャンナビ @KitasatoNavi の学生が1名,援護射撃してくれることになりました.以下,やりとり.

@ruray71:
やってみよ。RT @TakahikoNojima 人力アクティブサポート実行中.三陸キャンパス在籍者の安否についてのツイートをみつけて,大学公式サイトに情報があると一件ずつ知らせる作業.ココに書いておいた方法でツイートをみつけてます→

@TakahikoNojima:
Thanks! じゃ,小生は一時撤退する.ツイート先は,(ログアウトしてから)小生のタイムラインを見てくれればわかる.

@ruray71:
了解です( ̄^ ̄)ゞ務まるかわかんないけど、やってみます。

というわけで,リアルタイム検索結果に表示されるIDにメッセージを届けるという人力作業を2名で続けることになりました.

三陸キャンパスに友人がいる相模原キャンパス通学の学生が合流

@saaaaaaat0:
北里三陸キャンパスも連絡とれない人や安否確認できない人がまだいます。何か情報あったら協力してください。

本人の承諾を得て @saaaaaaat0 からのポストを @KitasatoUniv および @TakahikoNojima からリツイートして行きました.

この学生は浦安市復興のボランティアをやりながら,合間をぬって情報を届けてくれました.

三陸で被災した学生が合流

三陸キャンパスの学生からリプライがあり,自分自身で見た被災地の様子を知らせてくれました.

@uedamira:
@TakahikoNojima @KitasatoUniv 崎浜浦浜で撮影した写真を公開しました。自分の方ではどのような影響が出るか予測できないので、公開していてもよいものなのかの判断を宜しくお願いできたら幸いです。

本人の承諾を得て @uedamira からの情報を @KitasatoUniv および @TakahikoNojima からリツイートして行きました.

どのような効果があったのか

「北里大学」でリアルタイム検索をかけると,上記4地点からのポストがリツイートされ続けていることがわかりました.そのうちに,安否情報が届くようになりました.

海洋生命科学部2年の**くんを探していた者です。無事見つかりました!

情報ありがとうございました。****、大学側で準備していただいた白金行きのバスに無事に乗れたとの連絡が入りました!

いとこの安否確認できました!無事でした!情報本当にありがとうございました!!

ありがとうございました!友達が確認取れました。

@ruray71,@uedamira,@saaaaaaat0 のもとにも安否情報が届いていたようです.

このようにして,従来の通信インフラでは到達不可能な場所/人々にも,Twitter経由で必要情報が届けられました.

インターネットが人々の新しいつながりを形成する

私は @saaaaaaat0 とは全く面識がなく,@uedamira は化学実験のときに会っているはずなのですが,記憶にありません(会えばわかるかもしれません.).そういう関係です.そういう人々と協力していくことができました.インターネット,特にSNSは,人々の新しいタイプのつながりを形成します.

インターネットの利用が人間関係を希薄にするというのはウソです

【追記:2013-03-11】 @saaaaaaat0 は2011年のある日,突然Twitterからアカウントを削除してしまいました.結局,私とは一度も会うことがありませんでした.【追記終了】

学長からのメッセージ公開【追記:2011-03-21】

SNSガイドライン制定【追記:2013-03-03】

2013年度に北里大学は 「SNSガイドライン」 を制定しました.

全国の大学が様々なSNSガイドラインを設けていますが,それらの多くは「注意しましょう」とか「問題行動を起こさないように気をつけましょう」といった点にフォーカスされています.

それに対して北里大学のガイドラインは「責任をもって積極的に利用しましょう」という呼びかけを行っています.これは,北里大学建学の精神の一つ「事を処してパイオニアたれ」に沿ったものであるとともに,東日本大震災で在学生のSNSユーザー集団が情報伝達に大きく貢献してくれた事実も関係しています.

@uedamira との「再会」【追記:2013-05-01】

@uedamira とは,彼が卒業するまでの間にいちど会ってみたかったのですが,その機会を逸したまま2012年度の卒業式を迎えてしまいました,しかし彼は大学近くに就職し,引っ越しもしなかったことがわかりました.彼が新社会人となった4月の下旬,大学近くでいっしょに食事をしながら,震災から現在までの出来事をイロイロと聞かせてもらいました.

2009年度の化学実験で会っている可能性大なのですが,互いに面識はなく,Twitter上で出会ってから2年以上過ぎてからの「再会」ということになりました.

震災の直前に北里大学では入学センターが公式Twitterアカウント @KitasatoUniv をオープンし,暫定的に私が運用することになりました.本来は大学広報用のアカウントだったのですが,アイコンに大学のロゴを使っているこのアカウントは,北里大学関係者のタイムライン上では目立つ存在だったはずです.事後承諾を得ることにして(勝手な行動として何らかのペナルティがある可能性も考えましたが,当時の入学センター長をはじめ,大学はこの行動を承諾してくれました.)私はこのアカウントを使い,大学の公式ホームページで更新が続く震災関連情報のURLや,情報連絡先電話番号などをツイートして行きました.

この時期にTwitterに公式リツイート機能が装備されたことは,安否情報の整理に大きく役立ちました.北里大学ロゴを残したままツイートが次々と転送されて行ったため,情報の信憑性を担保できました.また,必要のなくなった情報はツイートを消すことによって一斉にタイムラインから消去することができるようになり,求められている安否情報だけをタイムラインに残すことができるようになったからです(非公式リツイートも残っていましたが).

@uedamira は被災地からの被災状況を写真入りツイートで淡々と送ってくれました.撮影地点と撮影日時だけが併記された,記録画像としてのツイート.それもまた公式リツイートでweb空間に広がって行きました.想像を絶する規模の震災を多くの人が現実のものとして理解することに彼が貢献したのは確かです.

海洋生命科学部のキャンパス移転【追記:2013-05-01】

海洋生命科学部では留年者や休学経験者などの例外を除いて,1年生から4年生まで,三陸キャンパスでの生活を知らない世代になりました.来春入学希望者に対しても北里大学は平成29年度までは相模原キャンパスで教育を行うと公表しています.

海洋生命科学部及び大学院海洋生命科学研究科の平成26年度入学者については、学部・研究科の各課程を修了するまで(平成29年度まで)相模原キャンパスで教育を実施する。

発展:北里つながろうプロジェクトへ【追記:2014-02-12】

このときの出来事も,「北里大学のみんなのユルく広くつながったインフラ」を建設しようという #北里つながろう プロジェクトに 続いています.
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事業報告書への記載【追記:2018-10-01】

平成22年度学校法人北里研究所事業報告書39ページに,次のように記載されました.

"本学では、この1年でソーシャルメディアの活用が一気に進んだ。これは北里大学キャンパスナビゲーター <中略>ならびに<中略> 一般教育部・野島高彦講師(入学アドバイザー)の努力に負うところが大きい。"

ソーシャルメディアの活用は、入学広報への効力以外にこのたびの東日本大震災の学生・教職員安否確認にも大きな力を発した。大学ホームページに公式発表した内容をTwitter、Facebook、ブログを利用し再三にわたり情報拡散を行った。
特に本学の公式Twitterには現在700人を越えるフォロワーが存在しており、このフォロワー達のリツイートの結果、当初行方不明であった学生4名の安全が確認されたことは、このメディアの爆発的な情報伝播力、広報力を示す証となった。この点においても新たな試みに対し高い評価をしている。

https://www.kitasato.ac.jp/houjin/jigyoukeikaku/download/22zigyogyoseki.pdf

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