Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

看護学科の化学講義(27)合成高分子化合物

みぞれが降った朝でした.

前回の講義についての感想コメント質問その他いろいろ

前回の講義録参照.

配布ずみの講義資料

キーワード

CFRP,FRP,GFRP,可塑剤,共重合,重付加,縮合重合,熱可塑性,熱硬化性,微結晶,不飽和ポリエステル,平均分子量,無定形

高分子化合物の分子量

高分子化合物は様々な分子量の分子が混ざった混合物です.そのため,平均分子量で分子のサイズを考えます.

縮合重合と付加重合

モノマーのつながり方には縮合重合と付加重合があります.例えばエチレングリコールとテレフタル酸からPETが合成されるとき,両分子の間では水分子が脱離します.このように重合時に低分子が取れる反応が縮合重合です.

これに対してエチレンからポリエチレンが生じるときには,低分子は取れません.このような反応を付加反応と呼びます.

縮合重合するポリマーの例

PET,6,6-ナイロン,ポリカーボネートなどが挙げられます.これらの重合について説明しました.

付加重合するポリマーの例

ビニル系ポリマーがこれに相当します.「アルケンとアルキン」のところで学びました.今回は省略.

共重合

付加重合反応の際に2種類以上のモノマーを使う方法です.モノマーの割合をうまく調整すると,両者の「いいとこどり」ができます.

たとえば塩化ビニルと塩化ビニリデンと1:4の比で共重合させると優れたラップ材のサランが得られます.

また,アクリロニトリルと塩化ビニルとを共重合させてつくったポリマーは難燃性繊維の材料になります.

重付加

ビニル化合物の付加重合とは異なるしくみで,低分子の脱離が生じない重合反応です.例としてポリウレタンの合成を採り上げました.

熱可塑性と熱硬化性

熱を加えると柔らかくなり,冷ますと硬くなる性質を熱可塑性と呼びます.一方,熱をかけると硬くなり,それ以降は柔らかくならない性質を熱硬化性と呼びます.

ビニル系ポリマーおよびPETは熱可塑性ポリマーの代表例です.

一方,尿素樹脂やフェノール樹脂は熱硬化性を示します.

熱可塑性ポリマーの分子構造

熱可塑性ポリマーの分子は,樹脂中ではところどころで束を形成しています.この領域を微結晶と呼びます.微結晶をつくっていない部分は無定形と呼びます.

熱可塑性ポリマーに熱をかけて行くと,無定形領域が先にほぐれ,続いて微結晶がほどけて行きます.このため,熱可塑性樹脂には明確な融点がありません.

移行

結晶領域を多くもつ高分子は,もろくなります.ここにしなやかさを持たせるために加える物質が可塑剤です.たとえば純粋なPVCは硬くてもろい材料ですが,可塑剤を加えて成型することによって,ソフトな材料にすることができます.

可塑剤には主にフタル酸のエステルが用いられています.

移行

消しゴムを,他のプラスチック製品の上に載せて何日間も放置しておくと,消しゴムがプラスチックの表面に貼り付いてしまうことがあります.この現象を移行と呼びます.

現在一般的な消しゴムには可塑剤を含む塩化ビニルが用いられています*1.この可塑剤は他のプラスチックを溶かすので,溶けたところから塩化ビニルの分子鎖が進入して行きます.そのため,貼り付いた状態になるのです.

そうならないように消しゴムは紙でできたケースに包まれて販売されています.

●今日「移行」の話がありましたが,消しゴムのケースにはちゃんと「くっついたり溶かすことがあります」という注意書きが書かれているのですね.●先生が言ったこと そのまま起きました.CDケースにけしごむくっつきました.●下じきに消しゴムが溶けてしまうことが何回かありました(泣)●消しゴムの話,なるほどでした!

消しゴムは紙ケースに入れておこう.

熱硬化性樹脂

尿素とホルムアルデヒドとを反応させ加熱すると,網目構造をもった分子のかたまりができます.これを尿素樹脂と呼びます.同様にフェノールとホルムアルデヒドとを反応させても網目構造をもった分子のかたまりができます.これはフェノール樹脂です*2.いずれも一度かたまると,それ以降は熱をかけてもやわらかくなりません.

不飽和ポリエステル

例えばマレイン酸とエチレングリコールとを脱水縮合させると,二重結合をもったポリエステルが得られます.このポリエステルをスチレンと混ぜてから共重合させると,ポリエステルの分子鎖どうしがポリスチレンで架橋された分子が得られます.

この重合反応の際に,ガラス繊維や炭素繊維を混ぜておくと,機械的強度に優れた材料をつくることができます.乗り物や医療機器にはこうしてつくられたパネルが使われています.

ガラス繊維を含む場合がGFRP,炭素繊維を含む場合がCFRPです.両者をあわせてFRPと呼びますが,主にGFRPがFRPとみなされつづけてきました.

ナイロン開発物語

6,6-ナイロンは1935年に米国デュポンの科学者だったカロザースによって開発された,人類初の合成繊維です.論理的な分子設計,市場展開,カロザースの人生,そして2011年の合成繊維について紹介しました.

ナイロンの発見

ナイロンの発見

 

テスト

感想コメント質問その他いろいろ

試験は来月

●覚えること多そうなので,テスト,心配です!!!●テストがんばります●心配ですテスト・・・でもなんとか頑張ります!!プレプリントたくさん解きます.●頑張ってテストベンキョーします.●テストに向けてそろそろ勉強開始します.先生に聞きに行きます.●合成高分子化合物は化学式まで書けなくても大丈夫ですか?●来週からテストが始まり,トホホです・・・.化学は冬休みに頑張ります!●テスト怖いです.

全般

●スライドのモデルがかわいかったです.今日はいろんな高分子化合物がでてきて,センターで苦戦してたことを思い出しました.●今日はモデルさん使いがはげしかったですね●先生って画像選びがびみょうにウマいですよね.カワイイ

化学繊維の説明に使った例は,いずれも国内メーカーのものです.

●高分子はごちゃごちゃしていて難しい●例えば同じPETでもペットボトルと繊維とでは全く質が違って驚きました.●自分にとっての幸せは他の人にとっての幸せと違う.深いーー.●ゴミ分別でプラとして捨てているものにも色々なものがあることに,人間はすごいと思いました.●ナイロンなどすごい発明をする人は,やることや考えることが常識をこえているなと思いました.

質問

●消しゴムがプラスチックに反応し,移行するのは室温に関係しているのですか?

温かい方が移行が速く進みます.

●今日,熱いお湯をペットボトルに入れたら,ペットボトルが小さくなってしまいました(笑)水の中に何かが溶け出しているということはないのですよね!?

ペットボトルの耐熱温度は50 °C付近なので,それより温度を上げると柔らかくなります.今回学んだ「熱可塑性」です.何かが溶けてくるのではないかという心配は必要ありません*3

●温かい飲み物用のペットボトルは普通のペットボトルと比べて何が違うのですか?

肉厚になっています.それと,内面に酸素を通しにくくするための処理が施されている場合があります.

●なんで寝なくてはいけないのか?

なぜ生き物には睡眠が必要なのか,という問は,睡眠を専門とする医師にお尋ねください.いろいろある理由の一つは,身体のメンテナンスのために必要だという理解です.

●$300万って日本円でいくらですか.

今の相場だと$1 = \78で換算して2億3千400万円.

ナイロンが開発された時代は$1 = \2付近だったので,600万円.

その時代と今とではだいたい物価が1000倍くらいになっているので,600億円くらいかな.

日々のできごと

●明日から学祭の慰安旅行です!いってきまーす!!●今日は部活の納会なので楽しみです!●今日は雪ふってたみたいですね!!●もうすぐ授業おわりですねー.さびしいですー.●クリスマスがどんどん近づいてきてますね.●都会では店の外でケーキをクリスマスに売るんですね・・・.●寒くて雨が降るくらいなら,いっそ雪に降ってほいしいです.●今日は授業おわったらパパとママと六本木ヒルズ行ってきまーす.わくわく.早く冬休みにならないかなー●痛すぎる.字が書けない.●レポート大量(泣)●ちーん●今日は寒いので手袋が欲しいです.●アルパカさんからお手紙ついた●今日3限後にアフター6パスポートでディズニーシー行ってきます.でも寒くて死にそうです・・・●もう寒くていやです(笑)●今日は非常にねむい!●1年あっという間!!ずーーーっと学生でいたいのにーー.●12月に入ってから時間が経つのが早い(ToT)●今日はとっても寒いです.バスが30分も来なくて激しい怒りをおぼえました.テストがんばります!!●教室が暖かいのはいいのですが,乾燥がはんぱないです!!!もう顔とか目がカピカピして辛かったです(;_;)●雨の中自転車頑張ったら,調子悪くなりました.一人暮らしいやだ.早く実家帰りたい-.●少し難しくなってきたけど頑張ろうと思います.●今日寒いです.自転車で来たとき顔が凍りそうでした.

f:id:hrmoon:20111210125940p:image

f:id:hrmoon:20111210125939p:image

次回予告

バイオテクノロジーを支援する有機化学について学びます.配布物を読んで予習してくること.

リンク

www.tnojima.net
www.tnojima.net

参考書籍

マクマリー有機化学〈下〉

マクマリー有機化学〈下〉

 

*1:消しゴムと呼ぶよりは消しプラスチックと呼ぶべきでしょう

*2:芳香族化合物のところで紹介した.

*3:PETには可塑剤が用いられてないので可塑剤の心配は不要です.