風邪が流行っているようで欠席が目立ちました.出席84名(履修94名),出席率89 %.
前回の講義に対する質問コメント感想その他いろいろの紹介
くわしくは前回の講義録を参照↓
配布ずみの講義資料
キーワード
BTX(ベンゼン,トルエン,キシレン),共鳴,クメン法,置換基効果,置換反応(ベンゼンの),転位反応,配向性,ベンゼン環
ベンゼン環のしくみ
共役二重結合を成す6個の炭素原子がリングになったものとして理解できます.6個のπ電子を6個のC原子で共有しています.6本のC-C結合はいずれも同じ長さをもち,単結合と二重結合の中間的な性質を示します.ベンゼン環を構成する全ての原子は同一平面上に位置します.
ベンゼン環における置換反応
正電荷をもつ粒子をπ電子が捕捉し,H+と置き換えるパターンの置換反応を用いて,ベンゼン環に様々な原子団を導入できます.Feを触媒としてCl2やBr2を反応させると,クロロベンゼンやブロモベンゼンが得られます.
一段階で導入できる置換基,多段階で導入される置換基
ベンゼン環に置換基を導入する際,一段階で導入可能なものと,一段階では導入できない*1ものとがあります.
たとえばニトロ基,ハロゲン,それに多くのアルキル基は一段階で導入可能ですが,アミノ基やヒドロキシ基は一段階では導入できません.このことから,最終生成物の化学構造式を見たとき,ベンゼン環に導入されている置換基がどの段階で導入されたのかを推測することができます.
すべては石油から
有機化合物の大半は石油や天然ガスを原料として合成されています.ベンゼン環をもつ有機化合物の場合,石油から得られる*2ベンゼン,トルエン,キシレンからスタートして合成反応を進めて行きます.これら3種類の化合物をBTXと呼びます.
以下に,医療に関係する物質の合成ルートの例を挙げます.
ベンゼンからスタートする例その1
ベンゼン→クメン→クメンヒドロペルオキシド→フェノール→サリチル酸→サリチル酸メチル(消炎鎮痛剤),あるいはアセチルサリチル酸(鎮痛剤)
ベンゼンからスタートする例その2
ベンゼン→ニトロベンゼン→アニリン→アセトアニリド(解熱剤)
トルエンからスタートする例その1
トルエン→安息香酸(ナトリウム塩にして食品保存料)
トルエンからスタートする例その2
トルエン→シメン→→p-クレゾール(消毒薬)
キシレンからスタートする例
p-キシレン→テレフタル酸→ポリエチレンテレフタレート(PET)(容器,縫合糸,送液チューブ)
置換基効果
ベンゼン環においては,1個目の置換基が,2個目の置換基の位置を支配します.このことを置換基効果と呼びます.
主な置換基効果を以下に挙げます.
- オルト・パラ配向
- -CH3,-Cl,-Br,-OH,-NH2,-NHR
- メタ配向
- -NO2,-SO3H,-COOH,-COOR
有用物質合成ルートの設計:安息香酸メチル
サリチル酸メチルを合成するためには何を原料にどのようなルートで合成反応を進めて行けばよいのでしょうか.合成ルートを逆行してみましょう.
まず,サリチル酸メチルにはメチルエステルの部位があります.そのため,ここでエステル化反応が行われたことがわかります.前段階はサリチル酸です.
サリチル酸には-OHと-COOHの2種類の置換基があります.どちらが先に導入されたのでしょうか.仮に-COOHが導入されたと考えましょう.すると-COOHはメタ配向性なのでオルトの位置に-OHをもってくることができません.このルートはダメです.
一方,先に-OHを入れたとすると,これはオルト・パラ配向性なので,オルトの位置に-COOHを入れることができます.したがって,こちらが選ぶべきルートです.
フェノールはクメン法によってベンゼンから合成することができます.
以上から,合成ルートは,
ベンゼン→フェノール→サリチル酸→サリチル酸メチル
となります.
クメン法
ベンゼンとプロピレンを反応させてフェノールとアセトンを合成する方法がクメン法です.この反応機構を解説しました.電子不足になった酸素原子をもつ中間体が転位反応を起こす段階があります.
フェノールと医療
19世紀のイギリスで,産褥熱による死亡率の高さが問題となっていました.原因は医師が手も器具も洗浄せずに患者を扱っていたためだったのですが,当時は病原菌という概念がなく,問題を見いだすことができませんでした.
この時代に,ハンガリー人の医師センメルヴェイス・イグナーツは,医師の手に付着している「目には見えない何か」が原因なのではないかと考え,手術前に医師に手を洗うことを要請しました.その結果,産褥熱による死亡率を1/10程度まで下げることに成功しました.しかし,このような成果を挙げたにもかかわらず医療現場からの反対に遭い,最後は精神病院で死亡してしまいました.
その後,イギリスの外科医ジョセフ・リスターが,センメルヴイスの成果を知り,外科手術現場の衛生環境の重要性を再発見しました.彼は外科手術に用いる器具を全てフェノールで処理し,フェノール水溶液を手術室に噴霧しがら執刀を行うことにしました.その結果,死亡事故を劇的に減らすことに成功しました.リスターはイギリス国王エドワード7世から虫垂炎の手術も依頼され,成功させました.センメルヴェイスもリスターも,最終的には考えを認められ,今では医療現場を衛生的に保つことに異議を唱える(マトモな)人はいなくなりました.
フェノールが直接効果を示したというよりは,衛生環境に対する意識向上が成功の鍵だったわけですが,私たちが現在,数百年前と比べて低い事故率で外科手術を受けることができるようになった歴史の中に,フェノールという有機化合物が一定の役割を果たしたことは覚えておきたいものです.
- おすすめ参考記事
- ゼンメルワイスの物語-とらねこ日誌(2011-08-11)
有機化学パズル:芳香族化合物編
感想コメントその他
●高校でやったのは覚えているのに内容忘れてしまいましたー.●化合物の名前が覚えられません・・・.●よくわからーん●覚えよう!!●テスト頑張りまーす!!●難しいです!●有機化合物の名前を予想以上に覚えていなかったので,覚え直します.●お疲れ様でした.●むずかしい●難しかったです.●テストに向けて頑張って覚えます.●今日はなんだか薬学部の講義をきいているようでした.●有用物質合成ルートが分かるようになったらおもしろそうだと思いました!!!頑張りたいです!●今の問題はいつもよりできた気がします!!ベンゼンは好きなので頑張って復習します.●パズルとか苦手です.●だんだん有機化学が理解できるかもしれないという希望が見えた気がします.あとは努力ですね.努力苦手です・・・.集中力が上がるものはないでしょうか?●もうテストの時期ですか・・・1年って早いですね.焼きイモ食べた-い!!!●「クロロベンゼン」の響きが好きです.●私はイブ派です(頭痛薬)●化学の期末やばーい!!むずかしい!!●テストが着々と近づいてきてます!!勉強しなきゃです(T_T)●最後の消毒の話おもしろかったです!!●授業の最初のほうがうるさかったです・・・.●今日は薬と関わっていて楽しかったです.ただ内容はよくわかっていないので・・・復習しないとです.六角形を書くのが難しいです.●私の知らないところで日々化学が進んでいるのですね.●ベンゼンが薬に多く使われていることがわかり,将来お世話になるなと思いました.●未知ってこわいと思った!!●声が治ってよかったですね!Cl+FeCl4-のCl+がきもちわるいです(笑).●先生クリスマスは何してすごすんですか?●もうすぐクリスマス!
日々のできごと
●今日は鍋パー楽しみ♪●今日は天気がよくてきもちいいですね!おせんたくしてきました.そしてごちにく行きます!食べてきますぜ!!●明日は良いことあるといいなー.頭痛いー.寒い-.36.6 ℃なう.金曜2限来たぜ,ドヤ●明日ひさしぶりにディズニーランド行きまーす☆楽しみ♪楽しみ
質問
●o,p-配向とm-配向かどうかをどうやって見わけるのですか?
ベンゼン環に直結している原子に多重結合があればメタ配向.そうでなければオルト,パラ配向.
●有機化学って覚えることは覚えないと何もできないんですね.逆に覚えちゃったら簡単って思えるのですか?
覚えないとダメなところもありますが,覚えたからといってわかるというわけでもありません.
●メタ配向とオルト・パラ配向のものは各々どちらに入るか覚えるべきですか?
おぼえなくておk.
●オルト,メタ,パラってなんですか?
要復習.
次回予告
窒素を含む有機化合物について学びます.先週配布した資料で予習してくること.
リンク
www.tnojima.netwww.tnojima.net
参考書籍
- 作者: マクマリー,John McMurry,伊東〓,児玉三明,荻野敏夫,深澤義正,通元夫
- 出版社/メーカー: 東京化学同人
- 発売日: 2009/02
- メディア: 単行本
- クリック: 8回
- この商品を含むブログ (15件) を見る