これまでに学んできた化学は,生命科学や医療においてどのように応用されているのでしょうか?「いま」の化学で何ができて,「これから」の化学で何ができるようになるのでしょうか? 今回はバイオテクノロジーを支える化学技術とその原理を紹介しました.履修者90名中,75名出席.出席率83 %.
前回の講義についての感想コメント質問その他いろいろ
前回の講義録参照
↑先週 回覧した試料の改訂版.見損ねた学生のためにもういちど回覧しました.
配布ずみの講義資料
キーワード
DNAシーケンシング,DNAシンセサイザー,PCR,液相法,蛍光標識,ゲノムプロジェクト,固相法,耐熱性DNAポリメラーゼ,脱保護,デオキシリボヌクレオシド三リン酸,ペプチドシンセサイザー,プライマー,保護基,メリフィールド法
(1)ペプチドの化学合成
アミノ酸がアミド結合で複数個つながった分子がペプチドです.「短い」鎖長のものをオリゴペプチド,「長い」鎖長のものをポリペプチドと呼んでいますが,両者の間に明確な境目はありません.
ポリペプチドのうち,機能と特異的立体構造をもったものがたんぱく質です.
ペプチドを記す際にはアミノ基を左側に,カルボキシル基を右側に置きます.それぞれN末端,C末端と呼びます.
液相法と固相法を説明しました.液相法は20アミノ酸残基程度のペプチド合成に利用できます.それよりも長い鎖長のペプチドには固相法合成が用いられています.固相法合成は自動合成機を用いて行われる方法です.
副反応が起こらないよう,脱水縮合に関係しない官能基を保護基で守っておくことがペプチド合成のポイントです.細胞内でペプチドはN末端から合成されますが,化学合成はC末端から進められます.
(2)DNAの化学合成
DNAはデオキシリボヌクレオシド三リン酸が重合した高分子です.
ペプチド固相合成法と類似した手法でDNAも合成されています.固相合成法では120残基程度までの一本鎖DNAが得られます.これは後述するPCRやDNAシーケンシングに用いられます.
DNAの方向性をあらわすために5'-末端,3'-末端が定義されています.細胞内でDNAは5'-末端から合成されますが,化学合成では3'-末端から合成が進められます.
(3)DNA増幅(PCR)
特定配列のDNAを特異的に増幅する手法がPCRです.
参考ムービー
PCRは犯罪捜査,感染症診断,遺伝子工学実験など広い範囲に応用されている技術です.鋳型となるDNA,4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸,化学合成された一本鎖DNA(プライマー),耐熱性DNA合成酵素,そしてプログラマブルな温度コントローラーが必要です.
(4)DNA配列解読
サンガー法を解説しました.蛍光標識されたジデオキシリボヌクレオシド三リン酸を反応液に混ぜておくことがポイントです.DNAの解読効率は年々高くなっています.2003年にはヒトのゲノムDNAを読み取る作業が完了しています.その他の生物に対してもゲノム読み取り作業が次々と完了しています.
サンガー法を開発したサンガーは蛋白質のアミノ酸配列解読法と,DNAの塩基配列解読法でそれぞれノーベル化学賞を受けています.これらの他にRNAの塩基配列解読法も開発しており,これもノーベル化学賞級の成果なので,待っていれば人生3度目のノーベル賞受賞というチャンスがあります.1918年うまれのサンガー博士は,まだまだ生き続けなければならないのです.
●ノーベル賞を早くあげてほしい.
あげなければ長生きするかも.
参考ムービー
2011年にゲノムが解読された生き物の紹介
生命のしくみをゲノムの視点から理解するためには,ゲノムの塩基配列を解読する必要があります.そのため,さまざまな生物種のゲノム解析を人類は続けています.2011年には,たとえば以下のような生物種のゲノムが解読されました.食肉動物や野菜のゲノム解析は,品種改良に応用されて行きます.寄生虫のゲノム解析は人類の健康を守るために重要です.
2月,ミジンコ
2億塩基対,遺伝子30,900個
7月,じゃがいも
8億4400万塩基対,遺伝子39,031個
8月,ハクサイ
2億8000万塩基対,遺伝子26,000個
8月,サンゴ
4億2000万塩基対,遺伝子23,700個
11月,ブタの回虫
2億7,300万塩基対,遺伝子18,500個
まもなく? 見島牛
昨年度期末試験問題と今年度期末試験模擬問題,そして試験心得
確認問題
感想コメント質問その他いろいろ
●授業もあと1回なんですね・・・野島先生の授業すごく楽しかったです.テストがんばります.●近代的な化学を学べてとても面白かった●化学はすごいと思った●すごい面白かったです〜!ても覚えてなかったです(笑)●DNAって言葉をよくききますが,やっぱり自分という存在がDNAで決められた存在と実感することは難しいですね.●今日の講義,すごく面白かったです!テストがんばります!●授業が次々と最後になって,すこしさみしいです●正直自信ないです.●スライドだととても眠くなります.●きいているようできいてない(笑)●前期忘れましたー●きいていたはずなのに・・・.笑 いかに集中力がないか分かりました.●過去問あざっす!!!
誓いの言葉
●テストに向けてコツコツと!!●テスト頑張って優とります!とりあえず80個覚えます←●
●授業もっと聞きたかったです・・・.次回は最終回なので有終の美を飾りたいと思います.
質問
●将来,このDNA関連の技術を使って臓器を複製できれば,ドナーを待たずとも臓器移植が可能になるのではないでしょうか.クローン技術に触れるためどこまで許されるかわかりませんが
臓器の複製は再生医療がとりくんでいる課題の一つです.受精卵を使う方法でない限り,いまのところ倫理的な問題は生じません.
●DNAの配列がわかった生き物は人間の手でかんぺきにつくれるってことですか?
そういうわけではありません.遺伝子が決めるのは蛋白質のアミノ酸配列だけだからです.人間ができあがるまでには細胞環境も必要です.それはまだつくれません.
次回予告
医療や生命科学に関連する化学は今どこまで進展しており,これから先の10年間でどのように発展するのでしょうか.2021年の化学(医療関連)を考えます.2011年度の水曜1限化学講義は最終回になります.
リンク
www.tnojima.netwww.tnojima.net
参考書籍
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- 作者: マクマリー,John McMurry,伊東〓,児玉三明,荻野敏夫,深澤義正,通元夫
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