ベンゼン環に複数個の置換基を導入する際の制約について扱いました.有用物質合成ロジックの基礎です.出席74名,履修登録80名,出席率82 %.
前回の講義に対する感想コメント質問その他の紹介
前回の講義録参照.
キーワード
共鳴構造,コルベ・シュミット反応,置換基効果,配向性
フェノールはなぜ酸性なのか
フェノールは水にわずかに溶け,その際に部分的に電離します.これは,イオン化したフェノキシドイオンが安定に存在できるからです.
一般に,共鳴構造を多くもつ有機化合物には安定に存在しやすい傾向があります.フェノキシドイオンの場合にも少なくとも4通りの,エネルギー的に無理のない共鳴構造が考えられます.フェノキシドイオンが安定に存在できるということは,電離によって生じたH+も安定に存在できることを意味します.その結果,フェノールは酸性を示すのです.
フェノールに2個目の置換基が導入される位置
フェノキシドイオンの共鳴構造を考えると,オルトおよびパラの位置にマイナス電荷がまわってくることがわかります.一方,メタの位置にはマイナス電荷はまわってきません.ベンゼン環に対してプラス電荷をもつ粒子が攻撃をしかけてくるとき,マイナス電荷をもった位置が攻撃対象になるので,フェノールにおいてはオルトおよびパラの位置において置換反応が優先的に進行します.
このように,ベンゼン環においては,1個目の置換基が,2個目の置換基の位置を支配します.このことを置換基効果と呼びます.
置換基効果
主な置換基効果を以下に挙げます.
- オルト・パラ配向
- -CH3,-Cl,-Br,-OH,-NH2,-NHR
- メタ配向
- -NO2,-SO3H,-COOH,-COOR
安息香酸エステルの配向性
安息香酸エステルはエネルギー的に無理のない共鳴構造を少なくとも5種類もちます.この際,プラス電荷がオルトおよびパラの位置にまわってくることがわかります.ベンゼン環に対してプラス電荷をもつ粒子が攻撃をしかけてくるとき,プラス電荷をもった位置は攻撃対象から外されるので,安息香酸エステルにおいてはメタの位置において優先的に置換反応が進行します.
一般に,置換基を構成する原子のなかで,ベンゼン環につながった原子が多重結合をもつとき,メタ配向になります.
有用物質合成ルートの設計その1:安息香酸メチル
サリチル酸メチルを合成するためには何を原料にどのようなルートで合成反応を進めて行けばよいのでしょうか.合成ルートを逆行してみましょう.
まず,サリチル酸メチルにはメチルエステルの部位があります.そのため,ここでエステル化反応が行われたことがわかります.前段階はサリチル酸です.
サリチル酸には-OHと-COOHの2種類の置換基があります.どちらが先に導入されたのでしょうか.仮に-COOHが導入されたと考えましょう.すると-COOHはメタ配向性なのでオルトの位置に-OHをもってくることができません.このルートはダメです.
一方,先に-OHを入れたとすると,これはオルト・パラ配向性なので,オルトの位置に-COOHを入れることができます.したがって,こちらが選ぶべきルートです.
フェノールはクメン法によってベンゼンから合成することができます.
以上から,合成ルートは,
ベンゼン→フェノール→サリチル酸→サリチル酸メチル
となります.
有用物質合成ルートの設計その2:p-アミノ安息香酸エチル
p-アミノ安息香酸エチルは局所麻酔剤として用いられている薬品です.これを合成するルートを考えてみましょう.トルエンを原料にして,ニトロ化→メチル基を酸化して-COOH→ニトロ基を還元してアミノ基→COOHをエチルエステル化,というルートが考えられます*1.
コルベ・シュミット反応
フェノールはオルト・パラ配向性ですが,反応条件を上手に設定するとオルト位に-COOHを入れることができます.フェノールからサリチル酸を合成する方法はコルベ・シュミット反応と呼ばれ,これはサリチル酸合成にもっとも広く用いられている方法です.
フェノールをNaOHで処理してから二酸化炭素を作用させ,続いて酸で中和してサリチル酸とします.
感想コメント質問その他の紹介
全般
●ほんとうにパズルみたいで楽しいです.●配向性の話,久しぶりに聞きました.ロジックも分かって良かったです.●置換基効果,高校のときに知りたかったです・・・●今日も楽しかったです!!わかりやすかったです(^w^)おなかがすきましたー!!●配向性がわかったから前よりわかりやすくなった.高校で知りたかった.●今日は大丈夫です●久しぶりにわかりました●わからないー●うーん,わからない・・・なんだかなぁー●わからんです●だんだん高校でならわなかったことが入ってきましたね.●計算よりかなり楽です●トイレの芳香剤から医薬品,果てには爆薬まで作れるなんて・・・ベンゼン環マジ有能! ●つながったり切れたりするのがややこしいです.
青春の誓い
●今日から1日3個,80選の物質を覚えようと想います(^o^)/●しっかり覚えたい●覚えます・・・●だんだん記憶があいまいになってきているので,復習,予習します.
その他
●テスト12月のほうが良かったです・・・.
私もそのほうがよかった.
●実験レポート,別の方法での生成法や検出法を書いてみましたが,考察っぽくないので無視して下さい(笑)●火曜水曜の時間割が鬼畜でつらい来年こわい●遅刻しました.すいません●風邪をこじらせましたーやらかしたー●まだ全部おぼえていないω笑●('・ω・')
質問
●同じ量の爆薬を爆発させたとき,爆薬の種類によって爆発の強さは変わるのですか?また,それが変わるなら,どれはどうやって決まるのですか?
結合エネルギー.
●80コってどのプリントに書かれていますか?
次回予告
窒素を含む有機化合物.配布物で予習してくること.
リンク
www.tnojima.netwww.tnojima.net
参考書籍
- 作者: マクマリー,John McMurry,伊東〓,児玉三明,荻野敏夫,深澤義正,通元夫
- 出版社/メーカー: 東京化学同人
- 発売日: 2009/02
- メディア: 単行本
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*1:別のルートも考えられます.