学祭が終わって最初の水曜日.出席87名(履修91名),出席率88 %.
前回の講義に対する感想コメントその他紹介
前回の講義録参照
配布物
キーワード
BTX(ベンゼン,トルエン,キシレン),共鳴,クメン法,置換反応(ベンゼンの),転位反応,ベンゼン環
ベンゼン環のしくみ
共役二重結合を成す6個の炭素原子がリングになったものとして理解できます.6個のπ電子を6個のC原子で共有しています.6本のC-C結合はいずれも同じ長さをもち,単結合と二重結合の中間的な性質を示します.ベンゼン環を構成する全ての原子は同一平面上に位置します.その平面をπ電子の電子雲が挟んでいます.
ベンゼン環における置換反応
正電荷をもつ粒子をπ電子が捕捉し,H+と置き換えるパターンの置換反応を用いて,ベンゼン環に様々な原子団を導入できます.Feを触媒としてCl2やBr2を反応させると,クロロベンゼンやブロモベンゼンが得られます.
一段階で導入できる置換基,多段階で導入される置換基
ベンゼン環に置換基を導入する際,一段階で導入可能なものと,一段階では導入できない*1ものとがあります.
たとえばニトロ基,ハロゲン,それに多くのアルキル基は一段階で導入可能ですが,アミノ基やヒドロキシ基は一段階では導入できません.このことから,最終生成物の化学構造式を見たとき,ベンゼン環に導入されている置換基がどの段階で導入されたのかを推測することができます.
すべては石油から
有機化合物の大半は石油や天然ガスを原料として合成されています.ベンゼン環をもつ有機化合物の場合,石油から得られる*2ベンゼン,トルエン,キシレンからスタートして合成反応を進めて行きます.これら3種類の化合物をBTXと呼びます.
以下に,医療に関係する物質の合成ルートの例を挙げます.
ベンゼンからスタートする例その1
ベンゼン→クメン→クメンヒドロペルオキシド→フェノール→サリチル酸→サリチル酸メチル(消炎鎮痛剤),あるいはアセチルサリチル酸(鎮痛剤)
ベンゼンからスタートする例その2
ベンゼン→ニトロベンゼン→アニリン→アセトアニリド(解熱剤)
トルエンからスタートする例その1
トルエン→安息香酸(ナトリウム塩にして食品保存料)
トルエンからスタートする例その2
トルエン→シメン→→p-クレゾール(消毒薬)
キシレンからスタートする例
p-キシレン→テレフタル酸→ポリエチレンテレフタレート(PET)(容器,縫合糸,送液チューブ)
クメン法
ベンゼンとプロピレンを反応させてフェノールとアセトンを合成する方法がクメン法です.この反応機構を解説しました.電子不足になった酸素原子をもつ中間体が転位反応を起こす段階があります.
フェノールと医療
19世紀のイギリスで,産褥熱による死亡率の高さが問題となっていました.原因は医師が手も器具も洗浄せずに患者を扱っていたためだったのですが,当時は病原菌という概念がなく,問題を見いだすことができませんでした.
この時代に,ハンガリー人の医師センメルヴェイス・イグナーツは,医師の手に付着している「目には見えない何か」が原因なのではないかと考え,手術前に医師に手を洗うことを要請しました.その結果,産褥熱による死亡率を1/10程度まで下げることに成功しました.しかし,このような成果を挙げたにもかかわらず医療現場からの反対に遭い,最後は精神病院で死亡してしまいました.
その後,イギリスの外科医ジョセフ・リスターが,センメルヴイスの成果を知り,外科手術現場の衛生環境の重要性を再発見しました.彼は外科手術に用いる器具を全てフェノールで処理し,フェノール水溶液を手術室に噴霧しがら執刀を行うことにしました.その結果,死亡事故を劇的に減らすことに成功しました.リスターはイギリス国王エドワード7世から虫垂炎の手術も依頼され,成功させました.センメルヴェイスもリスターも,最終的には考えを認められ,今では医療現場を衛生的に保つことに異議を唱える(マトモな)人はいなくなりました.
フェノールが直接効果を示したというよりは,衛生環境に対する意識向上が成功の鍵だったわけですが,私たちが現在,数百年前と比べて低い事故率で外科手術を受けることができるようになった歴史の中に,フェノールという有機化合物が一定の役割を果たしたことは覚えておきたいものです.
- おすすめ参考記事
- ゼンメルワイスの物語-とらねこ日誌(2011-08-11)
有機化学パズル:芳香族化合物編
感想コメントその他
全般
●ただ暗記されてきただけだったので,いみが分かって,より覚えられるようになった.●いつも答え方を間違える.わろす●すみません気づいたら20分間ほど寝てました.起きたら板書がものすごい進んでいて焦りました.●出来たかな●クメン法や他にもたくさんのフェノール合成経路などもおぼえさせられたことを思い出します.今さらながらよくがんばったと自分をほめたいです.●電子の相関がムズい・・・高校の知識を改めたいです.●ややこしい,ややこしい・・・●休んだ分 高校のノート見返すなりしてとりかえしたいと思いました.●クメン法は難しかった.●クメン法とかすごく懐かしかったです.高校時代からここらへんは好きだったのでこの先楽しみです.●ちょっと周りが明るくてスライドがみづらいです.●書く事が思い浮かびませんで申し訳ないです.●思い出せないものがいっぱいあります・・・●芋煮やりたいです(^^)/●今日のはなんとか!!
早めに手を打て80選
●そろそろ覚えなきゃ・・・●80選おぼえなきゃ(>_<)●暗記大変・・・●まだ半分くらいしか覚えてないです・・・●覚える80選は後期試験に出ますよね・・・?覚えます
青春の誓い
●テストに向けて日頃からコツコツやります!●覚えてきます●有機,がんばって覚えます.●覚えるー●名前を覚えていこうと思います.
質問
●構造式ってそもそもどうやって決まったのですか?
オクテット則から電子2個を結合1本であらわし,原子の配列順序に従って結合線をつないで行く,という方式になっています.
次回予告
ベンゼン環を含む有機化合物についての理解を深めます.フェノールと安息香酸の共鳴構造をもとに,ベンゼン環に2個目の置換基が導入される際の導入部位の予測方法を学びます.また,目的物の化学構造からスタートして,合成ルートを組み立てるロジックを学びます.要予習(配布物使用).
リンク
www.tnojima.netwww.tnojima.net
参考書籍
- 作者: マクマリー,John McMurry,伊東〓,児玉三明,荻野敏夫,深澤義正,通元夫
- 出版社/メーカー: 東京化学同人
- 発売日: 2009/02
- メディア: 単行本
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やきいも来週
11月19日(金)の午後から夜にかけて,学内バーベキュー場で「やきいも」をやります.学部学科学年を問わずどなたでも参加歓迎.企画してくれたのは臨床工学専攻の2年生です.学内のつながりを育てよう.会費は300円から400円くらい.くわしくはまたお知らせします.
昨年もやりました→ 学内バーベキュー場でやきいも(2010-12-04)