Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

医療工学科の化学講義(24)酸素を含む有機化合物その2

カルボン酸とエステルがテーマです.学祭を週末に控え,出席率が低下.81名履修,出席69名,75 %.

先々週配布した資料

キーワード

エステル,共重合,けん化,酸無水物,生分解性ポリマー,セッケン,プロドラッグ,ポリエステル,油脂

カルボン酸

一般式はRCOOH.代表的なものは台所にある酢酸CH3COOHです.ついでに,もっとも単純な構造のHCOOH,医薬品合成の出発材料ともなる安息香酸C6H5-COOH,二価のカルボン酸であるシュウ酸(COOH)2を覚えておきましょう.

カルボン酸の反応

還元すると一級アルコールになります.途中でアルデヒドを経由するのですが,アルデヒドからアルコールへの反応が高速に進行するため,アルデヒドを取り出すことはできません.

酸無水物

カルボン酸2分子から水1分子を脱離させると酸無水物RCOOCORが得られます.これは水と激しく反応する物質です.

エステル

カルボン酸とアルコールが脱水縮合してできる物質がエステルです.一般式はR1COOR2です.
エステルに日本語で名前を付けるルールがあります.○○酸と□□アルコールが脱水縮合すれば○○酸□□,です.たとえば酢酸とエチルアルコールから酢酸エチル,サリチル酸とメタノールからサリチル酸メチル,という具合です.
医薬品の成分一覧を見たとき,○○酸□□,という名称のものがあれば,それがエステルだとわかります.そして,それを製造するために,○○酸と□□アルコールが用いられたこともわかります.

セッケン

脂肪を水酸化ナトリウムで加水分解すると,RCOONaであらわされる塩が得られます.これがセッケンです.Rの炭素原子数は18から20程度です.
セッケンは炭化水素と塩との両者の性質を組み合わせた構造となっています.炭化水素の部分で油脂汚れと解け合い,塩の部分は洗浄水に溶けます.こうして油脂汚れと洗浄水とが分離しないような状況をつくりだし,洗浄操作を可能にしています.

プロドラッグ

医薬品のなかにはカルボン酸構造をもつものが少なくありません.そしてこの構造は細胞膜を透過しにくい構造でもあります.そこでいったんカルボン酸の部分をエステルにそておいて投与し,体内のエステル分解酵素に加水分解させて,本来の構造に戻す,という戦略がとられます.このような薬品のことをプロドラッグと呼びます.インフルエンザの季節に処方されるタミフルもその一例です.

生分解性ポリマー

ポリ乳酸やポリグリコール酸は,体内で徐々に加水分解が進み,分解後のモノマーは代謝系によって最終的に二酸化炭素と水に変えられます.こうしたポリマーで縫合糸が作られています.抜糸の必要が無く便利な材料です.

ポリエステル

エステル結合をもつ頑丈なポリマー,ポリエチレンテレフタレート(PET)は,飲料ボトル,衣類,医療機器の配管や人工血管に用いられている優れたエンジニアリングプラスチックです.

アルコール代謝の生化学

アルコール飲料として体内にとりいれられたエタノールは,アルコールデヒドロゲナーゼという酵素によって酸化されてアセトアルデヒドとなります.アセトアルデヒドは人体に有害な物質で,悪酔いや二日酔いの原因となります.しかし,これを分解する酵素アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼによって酸化されて酢酸になれば,代謝系によって二酸化炭素と水に分解されて体外へ排出されます.
日本人の45 %は,父親もしくは母親からうけついだアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子のどちらかが異常を起こしています.さらに日本人の5 %は,両親から受け継いだ遺伝子の両方が異常を起こしています.そういうわけで,日本人の半数近くはアルコール飲料によって悪酔いするしくみになっています.
酒は飲んでいるうちに強くなる,などと言って無理強いしてくる困ったヒトがいますが,それは間違いです.
ひと昔前まで新入生歓迎と称して大学に入りたての学生に酒を飲ませて悪酔いさせる習慣がありました.これによって死亡事故が繰り返し起きていました.事故が起きた場合には,その場に居合わせた者も過失を問われることになります.学生なら退学処分の対象となり得ますので,くれぐれもご注意ください.
アルコール飲料は二十歳を過ぎてから.

●お酒飲むとすぐ赤くなるので飲む量には気をつけたい●アルコールについてくわしく知れて良かった.自分はお酒を飲まないので,強要されてもやっぱり断る等,気を付けようと思った.●下戸がお酒を飲むとどうなりますか?翌日だるくなるんですか?●お酒は本当に怖いですね・・・(((°o°)))●私の高校の先生は,アルコールを分解する酵素が一般人の34倍あるみたいで,麻酔が効かないそうです・・・.

有機化学パズル:酸素を含む化合物編その2

●ねむいです●むずかしいです●お手上げです●むずかしいです●出来たのかな!●どこにどれをくっつければ良いのかわからないです●複雑です●覚えられません←●名前がわからないです.●わからないです●名前をまだ覚えてないです.●分からないよ

あっという間に後期試験がきますよ.

コメント

青春の誓い

●やるべきことをすぐ終わらせる●連休中に復習してきます.がんばります.全部覚えてきます.●高校で有機は学んだけれど忘れているのでどんどん思い出して行きたい

次回予告

芳香族化合物について学びます.医薬品から医療材料まで,芳香環をもつさまざまな化合物が使用されています.その構築原理を理解します.先週配布した資料を読んで予習してくること.

これまでの講義録

www.tnojima.net

参考書籍

有機電子論解説―有機化学の基礎

有機電子論解説―有機化学の基礎

マクマリー有機化学〈上〉

マクマリー有機化学〈上〉

  • 作者: マクマリー,John McMurry,伊東〓,児玉三明,荻野敏夫,深澤義正,通元夫
  • 出版社/メーカー: 東京化学同人
  • 発売日: 2009/02/01
  • メディア: 単行本
  • クリック: 8回
  • この商品を含むブログ (9件) を見る
図解でわかる 有機化学のしくみ

図解でわかる 有機化学のしくみ

やきいも(再掲)

11月19日(金)の午後から夜にかけて,学内バーベキュー場で「やきいも」をやります.学部学科学年を問わずどなたでも参加歓迎.企画してくれたのは臨床工学専攻の2年生です.学内のつながりを育てよう.会費は300円から400円くらい.くわしくはまたお知らせします.
昨年もやりました→ 学内バーベキュー場でやきいも(2010-12-04)

●やきいも,カウンセリングがなければ行きます.実験レポがとても気になる.●やきいも出たいです

どなたでも歓迎しますよ.

リンク

www.tnojima.net

このブログを書いている人

www.tnojima.net