前回までで炭化水素の骨格について学びました.今回からは,その基本骨格に機能を与える置換基の働きについて学びます.
前回の講義に対するコメント紹介
前回の講義録参照
先週配布した資料
キーワード
アルコール,エーテル,アルデヒド,ケトン,カルボン酸,価数(アルコールの価数),級数(アルコールの級数),フェノール類,発酵,脱水反応,ザイツェフ則,酸化,還元,カルボニル基,共鳴,接触還元,シス付加
香りの化学
大分県別府市にある,大分香りの博物館を紹介しました*1.よい香りのする物質の多くはアルデヒド,ケトン,アルコール,エステルといった酸素を含む有機化合物を主成分とします.天然から芳香成分を得る際,植物からだけでなく,動物の体内から取り出されるものもあります.代表的な香料源と,それらをもつ生き物について説明しました.
●香水の話がおもしろかったです
化学が体系化される前からの人間と香りとのおつきあい.
酸素を含む有機化合物の紹介
(1)アルコール R-OH,(2)エーテル R-O-R',(3)アルデヒド R-CHO,(4)ケトン R-CO-R',(5)カルボン酸 R-COOH,(6)エステル R-CO-O-R',の6種類について一般式を書いて簡単に紹介しました.このうち(6)エステル以外の5項目を今回の講義で採り上げました.
アルコール
ーOH基をもつ有機化合物がアルコールです.ただしベンゼン環に-OHが直結した構造をもつものはフェノール類として別に扱います.
アルコール分子内の-OHの数をそのアルコールの価数と呼びます.-OH基を1個もつアルコールを1価のアルコール,2個もつアルコールを2価のアルコール,3個もつアルコールを3価のアルコールと呼びます.
ーOHの結合したC原子において,Hが炭化水素基に置換されている数をアルコールの級数と呼びます.たとえばエタノールはCH3-CH2-OHなので第一級,2-プロパノールは(CH32-CH-OHなので第二級,2-メチル-2-プロパノールは(CH3)3-C-OHなので第三級,となります.なお,メタノールCH3OHは第一級として扱います.
エタノール製造法
工業的にはリン酸を触媒としてエチレンCH2=CH2に水H2Oを付加させて製造されています.
一方,酒類には古くから発酵が用いられてきました.酵母がデンプンをグルコースに分解し,さらにエタノールとCO2に分解します.
アルコールの反応
エタノールを酸ともに130 ℃に加熱すると,エタノール2分子間で脱水縮合が起き,ジエチルエーテルが生じます.ジエチルエーテルはエーテル類です.
一方,この反応で温度を170 ℃にすると,エタノール分子内で脱水反応が生じ,エチレンが生じます.
ザイツェフ則
アルコールの脱水反応では,-OHの結合したC原子の隣のC原子に結合した-Hが抜けます.しかし,-OHの結合したCの両隣にC原子があり,それぞれに異なる数の-Hが結合していた場合には,生成物として2種類の構造が考えられます.このうち,少ないHと結合しているC原子はHを失いやすい,という法則があります.これをザイツェフ則と呼びます.
たとえばCH3CH2OHから脱水すると,CH3-CH=C(CH3)2が主生成物に,CH2=C-CH(CH3)2が副産物になります.
アルコールの酸化
酸素を受け取る,または水素を失うとき酸化された,と表現します.また,酸素を失う,または水素を受け取るとき還元された,と表現します.
第一級アルコールROHが穏やかに酸化されると水素を失ってアルデヒドRCHOに,さらにアルデヒドRCHOが酸化されると酸素を受け取ってカルボン酸RCOOHになります.
逆にカルボン酸RCOOHを還元すると水素を受け取ってアルコールROHになります.このときはアルデヒドRCHOで還元を止めることができません.
第二級アルコールを酸化するとケトンが得られます.ケトンを還元するとアルコールになります.
第三級アルコールは酸化されにくい構造をもちます.
ベンゼン環に炭化水素が結合した構造をもつ化合物C6H5-Rを酸化すると,安息香酸C6H5COOHが得られます.-Rが-CH2OHの場合にもアルデヒドやカルボン酸にはならず,安息香酸となります.
アルデヒドとケトン
>C=O構造をカルボニル基,カルボニル基をもつ物質をカルボニル化合物とよびます.カルボニル基においては電子が酸素側に分極しています.このことを表現するためには共鳴の考え方が有効です.実際のカルボニル基を,>C=Oという状態と,>C+-O-という構造の重ね合わせと理解するのです.
カルボニル化合物の接触還元
白金触媒を用いるとカルボニル基に水素を付加することができます.このとき2個の水素原子は同一方向から同時に付加します.すなわちこの反応はシス付加反応です.
アルケンの酸化
アルケンを酸化剤で処理するとC=C結合が切断されて,2分子のカルボニル化合物が生じます.
酸素を含む有機化合物と水素結合
アルコール,アルデヒド,カルボン酸は水と水素結合を形成しやすく,これらの化合物のうち炭素数の少ないものは水と任意の割合で混じりあうことができます.
アセトンと世界史
ケトンの代表的物質はアセトンCH3COCH3です.今ではクメン法の副生成物として大量かつ安価に生産されている有機溶剤ですが,第一次世界大戦中は貴重な軍需物資でした.爆薬を製造するためにはアセトンが大量に必要だったからです.しかし,当時の技術ではアセトンを大量に製造することができませんでした.この要請に応えたのがイギリスのユダヤ人化学者ヴァイツマンでした.彼はバクテリアを用いる発酵技術によってアセトンを安価に大量生産可能としました.その見返りに彼が大英帝国から受け取った報酬は,母国建設のための土地でした.この土地が現在のイスラエルとなり,彼はその初代大統領を務めました.アセトンは世界史を変えた有機化合物の一つです.
●アセトンとイスラエルにあんな関係があるとは知らなかった.●アセトンすごいです!おk!
実験科目攻略講座
今週から化学実験が始まるので,ここで「効率よく実験レポートをやっつける方法」を解説しました.この内容は別エントリーにまとめてあります.
配布物をつくりました.
●実験の予習をきっちりやっておきたい!●実験頑張ります!!!●明日の実験から考察がんばってみます・・・.●実験考察参考にします.
有機化学パズル:酸素を含む化合物編
次々回の講義用配布物
その他
●よくわかりませんでした.復習します.●わかりません・・・●風邪ひいて声出ませんww●有機は好きです●クリスマスまで2ヶ月切りましたね・・・.化学そろそろしっかり復習したいと思います.●マルコフニコフがわからないまだ余裕●twitterフォローしました●安息香酸をみたら,高校の時がんばって覚えたなーと思った.●有機化合物の酸化や水素結合などのしくみがわかってよかった.●パズル練習します●80コきつい・・・●分からん!!●んー!?・・・●すみません.ねむかったです・・・.●むりでした.●途中で窓を開けて空気の入れ換えをしてほしかったです●
次回予告
酸素を含む有機化合物のつづきをやります.エステル,油脂,医用高分子といったトピックを扱います.
リンク
www.tnojima.netwww.tnojima.net
参考書籍
- 作者: マクマリー,John McMurry,伊東〓,児玉三明,荻野敏夫,深澤義正,通元夫
- 出版社/メーカー: 東京化学同人
- 発売日: 2009/02
- メディア: 単行本
- クリック: 8回
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やきいも(再掲)
11月19日(金)の午後から夜にかけて,学内バーベキュー場で「やきいも」をやります.学部学科学年を問わずどなたでも参加歓迎.企画してくれたのは臨床工学専攻の2年生です.学内のつながりを育てよう.会費は300円から400円くらい.くわしくはまたお知らせします.
昨年もやりました→ 学内バーベキュー場でやきいも(2010-12-04)
●金曜4限あいてるので やきいも行きたいでーす!!●いも食べたいです●やきいも食べたい\(^o^)/●やきいもいーなーと思った.●多分行く●やきいも楽しみにしてます.●やきいも楽しそうですね!仙台では秋になって芋煮をやります.
*1:一昨年の夏に見学に行ってきた場所です