Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

医療工学科の化学講義(20)緩衝溶液のしくみ

久しぶりの雨で交通機関のダイヤが乱れている模様.最終的に出席78名,履修91名,出席率85 %.今回のところは期末試験に(たぶん)出題するし,聞いてないと理解が難しいところです.

●やっぱり水曜日って雨の日が多いですよね.

ええい,理由にならぬ理由にならぬ!

配布資料

数式がイロイロ出てくるので配布資料を用意しました.

前回の講義に対する質問コメント感想その他いろいろの紹介

前回の講義録参照

今回のキーワード

pH,緩衝溶液,緩衝作用

生体の緩衝系

私たちは様々なものを食べ,様々なものを飲んで暮らしています.酸性のものもあれば塩基性のものもあり,いったん口にすれば体内に広がって行きます.それでも,生体内の[H+]は一定の範囲に保たれています.これにはどのような仕掛けがあるのでしょうか.

体内の[H+]を一定の範囲に保つ仕掛けが生体の緩衝系です.炭酸系とリン酸系が主に活躍しています.炭酸系では呼吸を利用して炭酸ガスを排出することによって[H+]の変化を和らげています.また,尿からのHCO3-1排出も利用しています.ここにはルシャトリエの原理がはたらいています.リン酸系ではH2PO42-を尿から排出することによって[H+]を保っています.じつにうまくできた仕組みです.

緩衝溶液のしくみ

ビーカー内の純水1 Lに,1 mol L-1の塩酸1 mLを加えると,[H+]=10-3 mol mol L-1となり,pH=3となります.このときのpH変化量は4になります.

しかし,これと同じことを酢酸(25 mM)-酢酸ナトリウム(50 mM)緩衝溶液に行っても,pHは0.02程度下がるだけです.この違いがどのようにして生じるのかを,平衡条件,すでに与えられている酢酸のpKa,化学種の量的関係,に基づいて導き出しました.

緩衝溶液の性質は高校化学IIの教科書でも扱われています.[H+]=KaCa/Cbというような公式だけ覚えている学生が多いのですが,この公式が適用可能な緩衝溶液の濃度には制限があります.それを理解するためには,公式がいくつかの近似計算を経て導かれていることを忘れてはなりません.近似計算は計算を簡略化してくれる強力な手段です.化学に限らず,様々な場面で計算困難な状況から救ってくれるテクニックです.それをマスターするために,緩衝溶液の[H+]変化計算は,よいモデルになっています.

講義内容関連トピック:ハンガリーで有毒泥土流出事故発生・pH13

ハンガリーでアルミニウム精錬工場の大型貯水池の堤防が決壊し,6億リットルから7億リットルの有毒汚泥が周辺に流れ出しました.汚泥のpHは約13で,きわめて危険な状態です.実際,死傷者の出る大惨事となっており,廃液はドナウ川にも到達しています.環境汚染が黒海まで広がる恐れが出てきました.

次回予告

有機化合物の世界について理解を深めて行きます.

以下の資料を配布しました.

ちゃんと勉強しているかたしかめる計算問題

濃度不明の硫酸H2SO4水溶液がある.ここに100 mMのNaOHを加えて中和滴定を行ったところ,15.0 mLを要した.試料中に含まれていた硫酸の質量を求めよ.H2SO4のモル質量は98.0 g mol-1とせよ.

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●しっかり勉強します●time up!●中和滴定わかりにくいです.連休で復習します.●ざせつ●お手上げ●計算やばいです.●計算がきついです.ありうる範囲でまちがえたとき.●ざせつ●ざせつ●勉強してるつもりじゃダメっすね.●?●ざせつ.ちゃんと勉強します●久々でわかりません.●計算してると何を求める必要があるのかわからなくなるから気にして計算したい.●pHの計算は計算がややこしく大変だし,これからの有機は覚えることが多くなるので,今のうちにできるようにしておきたいと思った.●電卓忘れました.ざせつ.●ざせつ●ちゃんと勉強していないので分からないです.●価数がよくわからない●んー●わからないでーす

コメント

●予習復習をきちんとします!絶対に!●ちゃんと勉強してきます.●有機化学楽しみです.次回までに高校で習った分復習してきます.●むずかしかったです●ノート一面が計算でうまった.●そろそろやばい・・・●[宣言]次回までに有機化合物覚えてくる!!

次回予告

酸や塩基が加えられても水溶液中のpHを一定範囲に保つ「緩衝溶液」のしくみを考えます.

リンク

www.tnojima.net
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