Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

医療工学科の化学講義(3)エネルギー

状態変化とか反応熱とかイオン化とかを理解するために必要な「エネルギ-」の基礎.ここがわかっていないと,エネルギーが関係してきたときに何だかよくわからない状態になります.配布資料も作成.これを読んで途中の問題も解いてみよう.枚数が多いのは,省略せずにこまかく書いたからです.

単位換算のやりかた初級編

縦・横・高さのわかっている直方体の体積をm3,cm3,L,mLであらわす計算を完全解答できた学生は6割でした.残り4割のほとんどは,1 Lが何m3になるのかを計算できない状態だったため,ここで計算方法を解説しておくことにしました.

単位を変換できない理由は,これまでに誤った理解の仕方を続けてきたからです.例えば,1 Lが何m3なのか,とか,1 m3が何mLなのか,という関係をやたらと丸暗記することにエネルギーを注ぎ込むやり方.こういう関係は,必要に応じて求めればよいものです.中途半端に暗記しているからケタを間違うのです.

次のように考えればOK.

1 Lとはどのようなサイズなのか.縦・横・高さがすべて10 cmの箱があったとき,その体積が1 Lです.だから次のようになります.

1 L=(10 cm)(10 cm)(10 cm)=(10)3(cm)3=103 cm3

次に,10 cmをmであらわすと10-1 mになります.だから次のようになります.

1 L=(10-1 m)(10-1 m)(10-1 m)=(10-1)3 m3=10-3 m3

さらに,1 Lの1/1000が1 mLなので,次のようになります.

1 L=1000 mL=103 mL

単位換算のやりかた中級編

世の中のすべての単位がSI単位系で記述されているわけではありません.たとえば,血圧計には非SI単位のmmHgが用いられています.健康診断の結果,血圧が120 mmHgと測定されたとき,これをSI単位であらわすにはどうすれば良いでしょうか.こういうときには「その単位では何が『1』なのか」,あるいは「その単位を何倍すれば別の単位で『1』になるのか」を考えます.

大気圧の大きさを1気圧と考え,1気圧=760 mmHgという関係があります.一方,大気圧の大きさはSI単位で1013 hPaなので,1気圧=1013 hPaです.というわけで,760 mmHg=1013 hPaになります.だから120 mmHgをhPaであらわすのであれば,次のような比例式を立てればOKです.

760 mmHg:1013hPa=120 mmHg:□

ここで□に単位を付けてはいけません.□の中にすでに単位が含まれているからです.←超重要

この式を変形すると次のようになります.

(1013 hPa)(120 mmHg)=(760 mmHg)□

□=(1013 hPa)(120 mmHg)/(760 mmHg)=(1013×120/760)(hPa・mmHg/mmHg)=160 hPa

ヘクトパスカル(hPa)を使うのは天気予報くらいのものだからキロパスカル(kPa)にしておこう.

□=16.0 kPa

単位換算のやりかた上級編

近日中に登場予定.

エネルギーとは

何かの仕事を成し遂げる能力をエネルギーと呼びます.運動エネルギー,位置エネルギー,熱エネルギー,電磁エネルギー,などがあります.他のエネルギーはここでは扱いません.

エネルギーをあらわすSI単位はジュール(J)です.ジュールは1 Nの力で物体を1 m動かすことのできるエネルギーです.したがって1 J=1 N mになります.

1 Nは1 m s-2の加速度で質量1 kgの物体を動かす力の大きさなので,1 N=1 kg m s-2です.

以上から,SI組み立て単位を用いて1 Jをあらわすと次のようになります.

1 J=1 N m=1 kg m s-2 m=1 kg m2 s-2

熱エネルギー

物体を構成する粒子(原子や分子)の持つ運動エネルギーの尺度が温度です.物体を構成する粒子それぞれは異なる運動エネルギーを持っているので,この尺度は平均値になります.

物体の温度を上げてやるためには,熱エネルギーを与えてやる必要があります.しかし,同じ質量の異なる物質に,同じ大きさのエネルギーを与えても,温度上昇の大きさは同じにはなりません.たとえば1 kgの液体の水に対して温度を1 K上昇させるために必要な熱エネルギーは4.2 kJです.しかし,1 kgの液体のエタノールに対して温度を1 K上昇させるために必要な熱エネルギーは2.4 kJです.水よりもエタノールの方が温まりやすいのです.

このことを表した物理量が,比熱あるいは比熱容量と呼ばれるものです.液体の水の比熱は4.2 kJ K-1kg-1,液体のエタノールの比熱は2.4 kJ K-1kg-1となります.

比熱Cのわかっている物体が質量mあり,この温度を欲しい温度ΔTだけ上昇させるために必要となる熱エネルギーEは次のように計算できます.

E=CmΔT

たとえば,250 gの水を25℃から100℃まで加熱するために必要な熱エネルギーは次のとおりです.

(4.2 kJ K-1kg-1)(0.25 kg)(75 K)=79 kJ

エネルギー保存の法則

エネルギーは突然湧いて出てくることも,消え去ってしまうこともありません.エネルギーの形態が変わることはありますが,エネルギーの量は不変です,これをエネルギー保存の法則,または熱力学第一法則と呼びます.

エントロピー

エネルギーの総量は不変ですが,エネルギーは最終的には熱エネルギーになり,拡散してしまい,有効利用しにくい状態に向かって行きます.このように自然界では何か仕事が行われると,それに伴って乱雑さが増えて行く傾向がみられます.乱雑さが増えて行くことを「エントロピーが増大する」と言います.この世界ではエントロピーは増大する一方です.これを熱力学第二法則と呼びます.

コメント

  • 物理化学

●今回の講義は高校物理の内容だったので,物理も大切だと実感しました.

●物理の授業をやっているみたいで楽しかった.

●今回物理みたいで楽しかったです.

●化学っていうよりも物理みたいでした.

●少し物理が入ってきていたので分かりやすいです.

●物理みたいで楽しいです.

●今日の化学は高校でやった物理と似ていた.

●高校で物理をやったので今日の内容は理解しやすかったです.ただ,やっぱり単位は苦手です.

●高校でやったことも忘れていたりして,復習にもなっていい授業だと思う.

  • 物理量=数値+単位

●単位をつけて計算することの重要さがよくわかりました.

●単位の話がとてもわかりやすかったです!

●今日から計算に単位をつけて計算するようにします.

●1 N=1 kg m/s2など知らないことがでてきて焦りました.

●単位が多くて大変なのでGWで慣れようと思う

●単位を書きながら計算するとこんなに楽に計算できるなんてびっくりした.もっと早く知りたかった.

●今までやってきた考え方より,さらに問題が解きやすくなった気がする.

  • 計算能力の問題

●計算やばい

●やりかたがわかっていても,計算が苦手なので心配です.

●割り算ができなくて焦った

●計算のとき,よくケタを間違うので気を付けたいと思う.

●早く単位換算を完璧にできるようになりたい.

  • 電磁波

●ストーブの赤外線にびっくりした.

●こたつの話が楽しくて思わず笑ってしまいました.

●分かりやすかったです! 電子レンジ使いながら無線LANでパソコン使うのは控えようと思った.マイクロ波マイクロ波w

●比較的波長が長いのにマイクロ波だなんて面倒くさいネーミングだと思いました.

電磁波のなかでは短い方ですが,電波の中ではもっとも短いからこういう名前でOK.

  • 全般

●わかりやすいです!

●わかりやすかった.このままがんばって行きたいです.

●勉強する目的が分かりやすい講義でした

●エネルギーがちょっと分かりました!!

●今日の授業もまた楽しかった.

●まだなんとかなるけどこれより複雑になったら危なそう

●計算問題でも,きちんと日本語や単位を書いて相手にわかるようにしたい.

●大変でした.

●いつもわかりやすい説明をありがとうございます.少しずつですが化学が好きになりそうです.

●LAN無線がL1で使いたい放題なんて初めて知った.

●電磁エネルギーにおいて無知だったので復習しておく

●復習しっかりします.

●復習がんばります

●今回もわかりやすくて楽しかったです.

●今日もわかりやすい講義でした.エネルギーのプリントしっかり読んで理解しておきたいです.

●今回も楽しかったです.先週よりはちゃんと理解できました.単位のところの計算をしっかりできるようにしたいです.

●化学は苦手だけど,化学のときだけ時間が早く感じる.このまま行くと,化学が苦手ではなくなるかもしれない.これからもわかりやすい授業お願いします.

●今日の授業はよく理解できた.エネルギーというものがよくわかった.

●今日のところは覚えていたところだったので大丈夫でした.

●演習が必要だと思う.

●今日から暗記やめます!!

ものごとを暗記することそれ自体は悪くないし必要な場合もあります.しかし,誤った内容を暗記するとヘンなクセがついてしまい,ものごとを理解する能力が育ちません.定義に基づいて結論を導き出す技術を身につけ,自分が暗記している内容を常に検証できるようにしておくこと.特に公式の類.

●授業の中で一番おもしろい

1年間で一番,ではなくて4年間で一番,をめざしています.

●前回のテストの自分の結果が知りたいです.

希望者には次回講義のあとで返します.

  • 質問

●エントロピーの説明で出て来た系とは何なのですか?

問題にしている現象に関係している互いに関係をもった要素,といったところ.

●単位を組み立てる時どの単位をどれでわればいいかわかりません.

物理量どうしを割っていれば単位どうしも割る.物理量どうしを掛け合わせていれば単位どうしも掛け合わせる.

●熱い水に冷たい水を入れてぬるくするとき,どういう現象で温度が下がるのですか?

50人のクラスが二つあって,片方の化学のテスト平均点が30点,もう片方が70点.両方を一つのクラスにしたら平均点は? これと同じ.

●高校の物理ではCを熱容量,cを比熱として扱っていました.比熱をCで表しても問題ないのでしょうか?

それが何をあらわすのか先に断っておけばOK.

次回予告

「原子の構造」に進みます.今回学んだエネルギーの概念を使って原子の世界にせまります.

課題

  • 教科書「3 原子の構造」を読んでおくこと.
  • 今回配布した「エネルギー」のプリントを読み,例題を解き,内容を理解しておくこと.

リンク

www.tnojima.net
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