Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

医療工学科の化学講義(25)バイオテクノロジーを支援する化学

今回と次回は教科書の内容を離れて,「いま」の化学で何ができて,「これから」の化学で何ができるようになるのかを考えて行きます.医療技術を支える化学技術とその原理を紹介しました.後期履修者83名中,73名出席.出席率88 %.

配布物

  • 後期試験模擬問題と解答例
  • バイオテクノロジーを支援する化学

以下のダウンロードページにて公開しています.

前回の講義に関する感想コメント質問その他なんでも

詳細は前回の講義録参照↓

NASAが発表した「ヒ素バクテリア」

今月の2日,NASAが「ヒ素存在下でヒ素を体内に取り込んで生きるバクテリア」の発見を報告しました.NASA公式発表内容に基づいて,この発見の意義について解説しました.

このバクテリアはリンのかわりにヒ素を体内に取り入れて生活している可能性が高く,取り入れられたヒ素がDNA分子に取り込まれている可能性が示されました.これが本当なら,ヒ素を構成要素とするDNAが存在可能であることを示します.

これまでDNAを構成する元素はC,H,O,N,Pだけと考えられてきました.他の元素を含むDNAは一例も見つかっていません.今回の発見によって,ヒ素がDNA分子内に取り込まれているとすると,DNAを構成するために必要な条件が広がることとなり,さらに生命の誕生に求められる元素の条件も,これまでに考えられてきたものより緩く考えて良いことになります.生命の誕生についてのイメージがふくらむ発表です.

関連リンク

●ヒ素の湖のバクテリアの話,知らなかったです.まだまだ新たな発見があるんですね.

●NASAが発表した生物,ヒ素を食べて生きているってどこかで聞きました.

なお,その後にこの発表に対しては疑問が浮かび上がっています.実験条件が不適切だった可能性や,バクテリアがヒ素を「食べて」いるのではなくて,単に体内に「ためこんで」いるだけではないか,など.まだまだ検証の余地が残されています.

関連リンク

(1)ペプチドの化学合成

アミノ酸がアミド結合で複数個つながった分子がペプチドです.「短い」鎖長のものをオリゴペプチド,「長い」鎖長のものをポリペプチドと呼んでいますが,両者の間に明確な境目はありません.

ポリペプチドのうち,機能と特異的立体構造をもったものがたんぱく質です.

ペプチドを記す際にはアミノ基を左側に,カルボキシル基を右側に置きます.それぞれN末端,C末端と呼びます.

液相法と固相法を説明しました.液相法は20アミノ酸残基程度のペプチド合成に利用できます.それよりも長い鎖長のペプチドには固相法合成が用いられています.固相法合成は自動合成機を用いて行われる方法です.

副反応が起こらないよう,脱水縮合に関係しない官能基を保護基で守っておくことがペプチド合成のポイントです.細胞内でペプチドはN末端から合成されますが,化学合成はC末端から進められます.

●メリフィールド法を発明した人がすごいと思った.

●実験が下手だった故に合成を自動化してしまったDr. メリフィールドはすごいなぁと思った.化学に限ったことではないけど,いかに楽にできるかを追求していくと新しい発見,開発につながって行くのだなぁとしみじみ思った.

●反応にビーズを使うという発想には驚いた.

●メリフィールドさんはとてもすごいと思いました.自分が実験下手くそだから簡単にできる実験にするなんて発想,一般の人にはとてもできないと思いました.ノーベル賞は限られた人にしか手に入れられないんだなと思いました.

(2)DNAの化学合成

DNAはデオキシリボヌクレオシド三リン酸が重合した高分子です.

ペプチド固相合成法と類似した手法でDNAも合成されています.固相合成法では50残基程度までの一本鎖DNAが得られます.これは後述するPCRやDNAシーケンシングに用いられます.

DNAの方向性をあらわすために5'-末端,3'-末端が定義されています.細胞内でDNAは5'-末端から合成されますが,化学合成では3'-末端から合成が進められます.

参考図書

DVD&図解 見てわかるDNAのしくみ (ブルーバックス)

DVD&図解 見てわかるDNAのしくみ (ブルーバックス)

 

●今の化学技術でDNAをつくることができるなんて初めて知った.

●DNAが簡単につくれるなんてびっくりです.

(3)DNA増幅(PCR)

特定配列のDNAを特異的に増幅する手法がPCRです.

参考ムービー

PCRは犯罪捜査,感染症診断,遺伝子工学実験など広い範囲に応用されている技術です.鋳型となるDNA,4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸,化学合成された一本鎖DNA(プライマー),耐熱性DNA合成酵素,そしてプログラマブルな温度コントローラーが必要です.

●増幅効率すごーい!!!

●DNAを増幅するのがあんなに簡単にできるなんてすごいと思った.

●デート中にひらめきが起きて,そのままノーベル賞をもらってしまうところが発明家らしいと思う.

●あのPCR法の開発のきっかけに驚いた!

●彼女とドライブしているときにPCR法を思いつくなんて化学者って不思議・・・

●アイデアというのは思いもよらないふとした瞬間に思いつくものだなと思った.

●DNAの増幅反応PCRは,犯罪捜査にものすごく貢献していることに驚きました.2014年になると自分のDNAがわかるようになるのは楽しみです.2020年の医療,楽しみです.

●DNA増幅反応を考えた人はとてもすごいと思った.科学の進展はすばらしい.

●遺伝子ってすごい.

●髪の毛一本でもDNAが増幅できて人が確定できるなんてすごいと思った.

●キャリー・マリスさんを見習いたいと思いました.

●髪の毛一本で犯人がわかるのは,技術が発展したため,少しのDNAでもわかるようになったのかと思っていました.DNAを人工で増やす,しかも価格競争になっているのはとびすぎですが,人身売買みたいに思いました.

●化学は犯罪,医療いろいろなところで活躍しているなと思いました.

●DNA増幅,こんなところでも機械化が・・・とびっくりしました.

●ちょっとしたことで個人が特定できるということにびっくりしました.悪いことは考えない方がいいと思いました.

●大学の2次試験の生物で「PCR法を説明せよ」という問題があったことを思い出しました.発見した人ってとってもおもしろい人だったんですね.そんな人の彼女になった人をある意味尊敬します.

●DNAの話おもしろかった.

●DNAは奥が深い

(4)DNA配列解読

サンガー法を解説しました.蛍光標識されたジデオキシリボヌクレオシド三リン酸を反応液に混ぜておくことがポイントです.DNAの解読効率は年々高くなっています.2003年にはヒトのゲノムDNAを読み取る作業が完了しています.その他の生物に対してもゲノム読み取り作業が次々と完了しています.

参考ムービー

●32億5400万文字も塩基の数があるなんて,全部読み取った人,すごい努力ですね.

●自分の遺伝子の配列?コード?がわかったら先天性の病気とかもすぐにわかっちゃうのか・・・?

●DNAを読むことで副作用に対して反応が大きいか小さいかがわかれば,すごくいいです.こんなことができるのは,はじめて知りました.

●1万円以内でできるのなら,自分のDNAを読んでほしいと思った.

●今この瞬間にも遺伝子の塩基配列が測定されているのですね.

●ゲノムの解析など,DNAというものの分析があっていろいろなことがわかってきたことがよくわかりました.いろいろな化学者の研究成果の紹介も,何人かでてきたので,この人たちのおかげで今の世界ができているということも感じることができました.

●ゲノムプロジェクトはすごいことだなと感じます.たくさんの生物ゲノムを知ることによって,何かに将来役だっていってほしいです.

●ゲノムの解読はすごいことだと思った.しかし,個人情報の流出したときはとてもおそろしいことになりそう.

●遺伝子の話がとても興味深かった.

●遺伝子診断でアルコールに強いかどうかや病気についてもわかることに驚いた.遺伝子の情報っていわれる意味がよくわかった.来週楽しみ.

●DNAをよみとるのには色々な倫理的問題がつきまといそうですね.

●一人でいろいろな配列決定法を開発してしまうなんて,サンガーさんはすごいなと思った.

●ノーベル賞をダブル受賞しているなんてすごすぎる!! ぜひトリプル受賞してほしいと思いました.

●ノーベル賞を2度も受賞している人がいることに驚いた.

●サンガーさんのノーベル賞2つ受賞はスゴいですね.こういった偉人のおおかげで生活は成り立っているし,僕らの目指す医療系の職種ができたわけですし.

●ノーベル賞3つとってもらいたいです!!

●サンガーさん,行きてる間にはやくノーベル賞トリプル受賞が達成できるといいですね.

遺伝子工学による有用物質の生産

PCRを用いて目的遺伝子を増幅・単離し,ベクターに挿入してからホストに導入,大量発現させてから精製,という流れを説明しました.

●大腸菌がすりつぶされちゃうのは少しかわいそうでした・・・.

しょうがないのです.

その他のコメント紹介

●今何をやっていて,どこを目指して講義をやっているかわからない授業が多いなかで,化学は今回のように今までの総まとめの話をしてくれると,今までの1回1回の講義の知識.習ったことがつながる気がして良いですね.

●化学も工学も科学もすごいと思った.良いことにも悪いことにも応用できる気がするから,科学をどう利用するかは自分たち次第なのですね.

●最近の化学について知らなかったことが多く,技術は日々進歩していることがよくわかった.

●今日はいろんな知識が頭につまった感じがします.

●普段より難しい内容だったけど,面白かった.

●今回の講義とても面白かったです(いつもよりちょっと難しかったです.)

●今日の講義とても興味深かったです! 板書してないのにめっちゃノート取っちゃいました(・V・)b

●今までの化学の偉業もその偉業を達成した人のストーリーときくと,身近に感じることができました.

●今日の話は難しかった.サイエンスの必要性と面白さは伝わってきた.

●未来に向けて,日々技術が進歩していることが実感できた.

●化学はすごい,DNAはすごい,人間はすごいなと感じた.

●最近,自分の知らないところで様々な技術がものすごいいきおいで発展していて,驚くことが多いです.

●すごい!! なんとなくアタマで理解していたコトを今日ちゃんと理解しました!

●今更ながら工学分野に進んだコトを後悔なうです.化学はやっぱ面白いなー

●化学も残すところあと1回ですね.あと1回気合い入れてがんばります.

●いよいよ次がラストですね.野島先生に会えなくなるなんて・・・でも,2年生になれるようにします.

●毎回学生のコメントのスライドをつくるのは大変そうですね.これからもがんばってください.

●とてもおもしろかった.

●今日の授業はスライドを効果的に利用して非常にわかりやすかったです.内容はやや難しいものが多かった気がします.

●スライドで眠くなってしまいました.反省します.

●ノートをとらないとねむかった.すごーいねむかったです.

●DNAの合成についてや,ゲノムの解析など興味をひく内容ばかりでおもしろかったです! 沢山のゲノムを解析すればするほど,医療にも使える事が増えればいいなと思いました.

●科学の進歩ってスゴいなー.DNAレベルが完全に解明できるなんて逆に恐ろしい・・・.

●カエルの子がなぜカエルなのかもわからなかったのに,今ではDNAの合成や増幅までできていて,科学の力はすごいと思った.

●化学と生物は分けられているけれど,実はつながりをもっているということが分かりました.

●もうムリです

●有機は苦手なので,きちんと合格できるようにテスト勉強頑張りたいと思います.

●今回の授業の内容は難しくてわかりにくいところもあった.特に固定法と液相法がよくわからなかった.

●いつの間にやら模擬試験問題が配られる時期になっていました.勉強します.

●テストを頑張ろうと思う.

●模擬試験ありがとうございます.とーっても助かります.

●模擬問題,なかなかのレベルですね.しっかりテストまでに全部やっておきます.

●今日は自転車がパンクしてしまってちこくしてしまいました.すみませんでした.

●これからどんな世の中になっていくのか気になる.

●生命システムのプログラムにアクセスできることはすごいと思った.

青春の誓い

「青春の誓い」については以下の記事を参照.

●来週先生がこのリアクションペーパーを読み上げるときにこの教室にいることをここに誓います.最後こそは!

●残り1回,遅刻せず居眠りせず,頑張ります.

●次は寝ません! 遅刻もしません! 頑張りますっ!

●やっとプリントやりました

●初青春の誓い:来週は睡眠バッチリ状態で来ます.

●もう授業があまりないのでテストまでしっかりがんばりたいとおもう.

質問

●前から思っていた疑問ですが,生物から見たDNAと化学から見たDNAの違いって何ですか?(DNAの見方とか・・・.)

これは良い質問です.生物学的には,DNAにどのような情報がコードされているのかが重要なので,DNAを構成する元素が何であろうと問題にはされないことが大半です.一方で化学の視点では,水素結合を用いた可逆的な二本鎖の解離と会合とか,配列と鎖長が完全にコントロールされた分子として興味がもたれるので,そこに記録されている情報には関心が向けられません.ナノテクノロジーの視点では,機械加工不可能なサイズの微小構造体としてとらえることができます.また,情報工学的には水溶液環境で演算を並列処理可能なシステムとしてとらえるこころみがあります.

このあたりは私の研究領域と非常に近いところです.DNAの関わる生化学反応を試験管内でシステム化して,論理判断機構を組み立てる,なんてことをやっています.くわしくは以下のリンク参照.

次回予告

医療や生命科学に関連する化学は今どこまで進展しており,これから先の10年間でどのように発展するのでしょうか.2020年の化学(医療関連)を考えます.2010年度の水曜1限化学講義は最終回になります.

リンク

www.tnojima.net
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