Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

医療工学科の化学講義(20)炭化水素とポリマー合成

有機化学の2回目.電子の動きに注目することによって,有機化合物の反応に対する理解を深めて行きました.

前回の講義に関する感想コメント質問その他なんでも紹介

くわしくは前回の講義録を参照↓

配布物

「有機化学基本反応」と「高分子化合物の合成:付加重合の場合」を配布しました.以下のダウンロードページで公開しています.

有機反応パターンその2:脱離反応

先週はC=Cに対する付加反応の仕組みを紹介しました.これが「有機反応パターンその1:付加反応」です.

今回はこれとは反対に,分子から原子が引き抜かれ,C=Cができる反応を考えました.OH-が引き抜くH原子はどれなのか? それぞれのH原子が置かれた化学的環境の違いに注目して考えます.同じ分子のなかの同じ種類の原子であっても,化学的には異なった性質を持つことを,脱離反応が教えてくれます.

●脱離反応で,Clが2個の方がHを強く引っ張っているから,OH-に引き抜かれにくくはならないのですか?

引っ張られているのはH原子ではなく,H原子とC原子との結合に用いられている電子です.そのため,H原子はH+として抜けやすくなります.

●脱離反応や置換反応を電子の面で見るとちゃんとした理由があるのかと重い,高校では理由まであまりやりませんし,すごい分かりやすいです.
●模型で説明してくれるので分かりやすかった!
●模型を作った説明が立体的で好きです!
●模型を使ってわかりやすかった.

有機反応パターンその3:置換反応

分子内の原子が別の原子に置き換わる反応です.メタンがモノクロロメタンになる反応の仕組みを考えました.ここではラジカル反応と呼ばれる反応が起きます.ラジカル反応はこの場合,光照射によって開始されます.

●このあたり大好きです! 特にメタンの置換反応はテンションがあがります!

なんといっても連鎖反応だからね! 連鎖反応でテンション上げて爆発しようぜ!

●連鎖反応のしくみの話を聞いてて楽しかったです!!この調子でいけば,有機が大好きになる日がやってくるかもしれませんね(笑)
●メタンから四塩化炭素になるまでの反応は,ラジカルによって起きると知って,目からうろこでした.

この反応はメタンCH4→塩化メチレンCH2Cl2→クロロホルムCHCl3→四塩化炭素CCl4,という順に進んで行きます.
クロロホルムCHCl3は有機化学実験でひんぱんに用いられる溶媒の一つですが,世間一般には「ハンカチに染みこませておいて口をふさぐと人を気絶させることのできる麻酔薬」として認識されているようです.TVドラマなどでそのような場面がよく登場するからです.
実際には,ハンカチに染みこんだ程度のクロロホルムでは人間は失神しません.気分が悪くなるくらいでしょう.しかしクロロホルムが強い麻酔薬だとの勘違いが日本国内に広がっているため,ときどき不正に入手したクロロホルムで悪事を働こうとする輩が出ます.ドアポストからクロロホルムを注入して室内にいる人を気絶させてワルサをしようとしたストーカーが,作業の途中で倒れてしまい,お縄になってしまった,という愚かな事件がありました(十年以上前にきいたハナシで真偽の程も定かではないのですが).化学を悪事に使ってはいけませんね.

●クロロホルムを使ったバカな話おもしろかったです.「ケミストリーを悪いことに使ってはいけない」名言や!
●クロロホルムには気をつけます,
●クロロホルムのストーカーさん・・・笑・・・そんな大人にはなりたくないと思いました.
●クロロメタンは気持ち悪くなると言っていましたが,昔,興味本位で風船をふくらませるヘリウムガスを吸って,声が変わるのを楽しんでいたら気持ち悪くなったのを思い出しました.化学物質は遊びで使っちゃだめですね(笑)

付加重合

身の回りには様々なポリマーが存在します.それらポリマーを合成する際に用いられる手法のひとつが付加重合です.高校の教科書では単に「付加重合」とだけ記されているポリマー合成法は,どのようなしくみになっているのでしょうか.

「付加重合」には「ラジカル重合」,「カチオン重合」,「アニオン重合」,「配位重合」,の4パターンが存在します.それぞれ合成するポリマーの種類や,求める化学的・物理的性質に合わせて選ばれます.
ポリマー合成の詳細はテキストには載っていませんが,電子の動きで有機化学反応を追いかける題材として非常にわかりやすい例なので,ここで4パターンを比較してみました.

●付加重合反応を初めて楽しく学ぶことができました.
●付加重合の説明すごく分かりやすかったです! 忘れないように復習してきます.
●アニオン重合ってオニオン重合と間違えそうですね.
●重合は電子の出会いの場なんて,ロマンチックですね.
●ポリマーの結合種類が多すぎておぼえるのが大変だなと思いました.
●重合のしくみがよくわかりました.
●重合のしくみがよくわかった.
●付加重合のしくみがわかった.
●付加重合は少し複雑でややこしかったです.
●重合にもいろいろあって,作り方によって全然違ったものができるとかケミストリーの奥の深さをまた感じました.
●重合にもいろいろな種類,しくみがあって,初めて知ったのでたのしかったです.
●重合体ができるまでの過程は少し複雑なものもあるけど,これを理解することで重合体の反応がよりわかりやすくなった.
●高校までなんとなく覚えていたポリマーにも重合のしくみがあることを知っておもしろいと思った.
●以前までポリマーの作り方やしくみや何もかも全てがわかりませんでした.nが何を表しているのかも・・・ ようは,ドミノみたいにつながっていくことですよね.
●コンタクトを使用しているので,コンタクトがどのようにできているのかわかってよかったです.
●今日はすごく寒かったのでポリアクリロニトリルのセーター着てます! 人工のケミストリーを肌で感じています.
●付加重合の原理がわかってスッキリしました.
●付加重合をここまで深くやるものだとは思っていなかったので驚いた.重合にもいろいろあることが知ることができて良かった.
●ポリエチレン,ポリアクリロニトリル,ポリスチレン,・・・ポリがいっぱいですね.日常生活はポリがポリですね(-v-)
●身の周りにはポリマーがたくさんあるなあと思った.
●重合のしくみがなんとなくわかった.
●配位重合がよくわからなかったです.

●コンタクトレンズはハードもソフトも同じ物質でできているのですか?

違う物質でできていますよ.ハードコンタクトレンズはポリメタクリル酸メチル,ソフトコンタクトレンズはポリメタクリル酸ヒドロキシエチル,が主材料です.

異性体

同じ種類の元素が同じ下図だけ用いられている,異なる分子どうしを異性体と呼びます.マレイン酸とフマル酸はその一例でシス-トランス異性体の関係にあります.また,アミノ酸にはD-体とL-体の異性体があり,天然蛋白質を構成するのはすべてL-アミノ酸です(グリシンをのぞく).L-グルタミン酸には「うまみ」がありますが,D-グルタミン酸は無味です.化学的・物理的に同じ性質をもつ異性体を,生体は判別できることもあるのです.

●化学って紙一重ですね.異性体で性質が変わってしまうのですからね.

サリドマイドはその不幸な例でした.

●シス-トランスがごっちゃになっていたので,これできちんと覚えておきたい.

●マークのないくつしたの左右を見つけられるんですか? もともと左右はあるんですかね?

マークがなければ左右同じ.もともと左右があっても履いていて不自由しなければそういう些細なことは気にしないのが気楽な人生.

●光学異性体を識別するとは,舌ってものすごいセンサー?

ものすごいセンサーです.

ブタジエン

ブタジエンの炭素骨格はC=C-C=Cという構造をしています.単結合と二重結合とが交互につながった構造を共役二重結合と呼びます.共役二重結合においては,単結合も二重結合も1.5重結合の性質をもちます.これが分子に興味深い性質を与えてくれます.詳細は次回.

●1.5重結合って,結合の強さも1.5なのですか?

そうです.結合力を評価する方法として炭素原子間の距離を比べることがあります.ブタジエン分子の中心に位置するC-C単結合の長さは,一般的な二重結合の距離と,一般的な単結合の距離の中間の長さをもつことが,実験により確かめられています.

●共役二重結合は実際1.5重結合のようなものときいておどろきました.

その驚きにはベンゼン環のときにもういちど出会えます.

その他

●身のまわりにあるいろんな性質の物質が,同じCやHなどの元素からできていることが改めてすごいなと思いました.高校のときはテストのために置換とか重合を丸暗記しようとしていました_| ̄|○ が,これからはそれじゃダメだし今日の授業でその反応が起きる理由を考えられるようになった気がします!
●高校の時とは全く別な視点から見ているので,とても世界が広がったように感じました.すごく楽しいです.
●有機って意外と楽しいと思いました.
●有機は暗記だと思っていたが,根本から理解しないといけないと思った.
●電子に注目することの大切さがわかった.
●電子に注目したら,本当にけっこう簡単に理解できるんですね!
●電子について理解したことが有機でも役立つとは思ってませんでした.やはり化学に関してしくみを知るには電子への理解が不可欠だなと感じました.
●高校のときのただ暗記するだけの有機と全然違っていて,おもしろかったです.でも電子についてあまり完全に理解していないみたいだったので,難しく感じました.
●今までの知識とあいまって反応のしくみがよくわかりました.
●少しずつ高校時代の記憶がよみおがえってきたけど,あまり覚えていなかったので新しいものを習うような気持ちで頑張りたい.
●高校のときを違って有機も複雑なものだったのだと思った.
●化学構造式ひさしぶりに書きました.
●結合のしくみの説明がわかりやすくて理解できました.
●しくみまで考えていくと理解できた気がします.
●寒くなってきたので朝早く起きるのが困難になってきました.ふとんでぬくぬくしていたい・・・
●全力で毎日を生きているので少し疲れていましたが,今日もたのしかったです.ありがとうございました.
●目が痛い
●はやめにプリントやろうと思います.
●復習できたらやります.ネムイ
●有機化学楽しいです
●有機が苦手なのでしっかり復習したいと思います.
●高校の時のクメン法の細かい転位反応が知れた.
●今日の授業は色々な内容で盛りだくさんだったような気がします.
●難しかったけど理解できるようにしたいと思います.
●内容が濃くなってきたので,若干しんどくなってきたかんじがします.
●むずかしかったけど,ほんのちょっとたのしかった.
●わかりやすかった.
●危機感が半端ないです.
●商談成立するよう組んでいくようにする.
●明日はいよいよドラフト会議ですね.ハンカチ王子はどこへ行くのやら.

青春の誓い

何か自主的な決まりをつくっても,それを守り通すことは非常に難しいものです.守るためには宣言することが効果的です.1限の講義に間に合わせる,サボらない,眠らない,という誓いをリアクションペーパーに書いたりTwitterにポストしたりして,決まりを守るというのは,ちょっとは,効果があるかもしれません.

●青春の誓いします!! 化学ののこり毎回出席+5分前到着!
●よかった! 誓いを守って遅刻しなかった自分を誉めたい.
●青春の誓いはしてないけど遅刻しませんでした.
●化学の有機のはんいは高校のときよく勉強したので完璧です! 次のテストはまかせてください!!
●次回は遅刻しないように頑張ります!!
●ゆるしてくれてありがとうございました.今日は俺めっちゃがんばった.

質問

●よく石油からプラスチックつくってるといいますが,どういうことですか?

たとえば石油のなかにはエチレンやプロピレンといった有機化合物が含まれます.それらを重合させればポリエチレンやポリプロピレンになります.そういうことです.

●四つの重合で大事ランクとかありますか?四つとも大事ですか?

ぜんぶ大事.それぞれ用途にあわせて使われています.丸暗記しなくてよいので,どんなものなのかは理解しておきましょう.

●先生を見ると「あれ,髪切った?」って思うことが多いです.髪が伸びるのが遅い人ですか? 髪を切る周期が気になります.

不便に感じたときに切ってます.3か月に1回くらいかな.

次回予告

以下の項目を解説しながら,電子の動きで有機化学の世界を見ていきます.

  • 電気を通すプラスチック
  • 芳香環のしくみ
  • 芳香族化合物の配向性はどのように決まるか
  • 有機合成ルート選定のロジック