Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

医療工学科の化学講義(17)浸透と透析と酸と塩基とpH

前回の講義に関する質問コメント感想その他なんでも紹介

くわしくは前回の講義録参照↓

グリーゼ581g

太陽系外に,地球と似た惑星が見つかり,そこには生命が存在する確率がこれまでで最も高いとまで報道されています.この惑星を発見したチームの中には,生命の存在確率が100 %だとまで言い切る人物もおり,これが話題となっています.

本当に100 %と言い切っていいものでしょうか.研究チーム全体での統一された意見なのでしょうか.イロイロと探ってみると,ちょっとこれは言い過ぎだったようです.以下にこの件をわかりやすくまとめた記事があります.

これの日本語版もあります.

議論がTwitter上で展開されているところが,2010年っぽいですね.その内容が和訳されて,はてなダイアリーに掲載され,そのコメント欄でまた議論が展開される,というあたり,実世界とインターネットとは一体化していることを感じます.

●地球以外にも生物がいるかもしれない,ということにいろんな人がいろんな意見をもっていることがわかりました(^^)笑 そういえば,はやぶさの中に地球の物質ではないと思われるものが見つかったというニュースが朝やっていたことを思い出しました.

●地球に似た惑星が気になります.

●人間,ハイテンションになると何を言い出すかわかりませんね.

●20光年離れているのによく観察なあ.将来は行けるようになるのかなぁ.

透析患者数の推移

社団法人透析医学会が毎年,透析患者の人数を公表しています.2009年12月の段階で患者数は290,675人,これを日本の人口で割ると437人に一人が透析患者ということになります.

医療系のコースに入学した1年生も,卒業後に医療機関で働く際に,透析治療が身近で行われている場面を目にすることでしょう.臨床工学技士になると,毎日透析装置を取り扱うことになりますね.しっかりと基本を理解しましょう.

浸透と透析

濃度の異なる2種類の溶液が接していると,均一の濃度になるように自然に溶液が混ざり合います.ここで,2種類の溶液が一枚の膜を隔てて接している場合を考えます.その膜は分子スケールの細かい穴が空いた網で,溶媒は通り抜けるものの,溶質は通り抜けることができないものです.

このような膜の片側に水が,もう片側に食塩水が存在したいた場合,それぞれの液体どうしは混ざりあって均一な溶液になろうとします.しかし,膜の目が細かいために,膜を通り抜けることができるのは,水分子だけです.その結果,食塩水に向かって水が一方的に流れ込んで行きます.このように.溶媒だけが通り抜けていく現象を,浸透と呼びます.

一方,この網がもう少し粗い目を持っていたとします.そうすると食塩やブドウ糖などの溶質も,溶媒といっしょに通り抜けることができるようになります.ただし,もっと大きい分子,たとえばたんぱく質やDNA,さらに分子よりも大きなサイズをもつ赤血球や白血球などは,まだ通り抜けることができません.溶液だけが通り抜けて行く現象を,透析と呼びます.

浸透や透析にはセルロース膜やテフロン膜などが用いられます.目の細かさによって分離対象のサイズを選ぶことができます.浸透に用いるのを浸透膜,透析に用いるのを透析膜と呼べばわかりやすいのですが,言葉の使い分けはあいまいです.

●自分たちCEにとって「透析」は非常に重要なので,よく勉強したいです.

●人工透析をしっかり行えるためにも,濃度計算をちゃんとできるように頑張りたいです.

●透析は将来ものすごく深いお付き合いとなるので,馴れはじめを無事に済ますことができて,よかった.

●濃度計算,かなり重要ですね.人工透析の話を聞いて改めて実感しました.

●透析のしくみなど,将来,仕事に関わるので,しっかりと理解しておきたいです.

●将来扱う人工透析の仕組みを知ることができて,不思議に思っていたところが納得できた.濃度計算を完璧にしないと!

●浸透圧と透析がよくわかりました.

●医療で応用されている人工透析は,老廃物が低分子であるからということを利用しているということがわかった.

●医療現場での透析のことがよくわかりました.

●うちのおじいちゃんも人工透析をしていますが,人工透析ってこういう仕組みなんだ!!と知れてよかったです.1年に1万人ずつ透析患者さんが増えているのには驚きました.

●透析する人がたくさんいることにとてもびっくりした.医療ってすごいなと思った.

●透析のところは記憶に新しいのでなんとかなるといいと思いました.

●透析膜で浸透がおきたり,浸透膜で透析がおきたり,ということで,複雑なんだーと思いました.

●人工透析しかり,化学のある現象をうまく使えばとても人の役に立つのはすばらしい.

●今日の範囲は透析が自分にとって新しい部分でした.でも,高校の先生より分かりやすいです!!

●高校のときに生物でやった浸透圧が大学の化学で出てくるとは思わなかった.

●透析と浸透についてやって,生物でもやったのでとても参考になった.

●透析などのきちんとした理解ができた.

●人工透析とは老廃物除去のためであることがわかった.

浸透圧

浸透に伴い,濃度の濃い溶液に向かって,濃度の薄い溶液側から溶媒が浸透してきます.それに伴って,濃度の濃い溶液が大気圧に逆らって液面を上昇させる圧力を得ます.この圧力を浸透圧と呼びます.

浸透圧は溶液中の溶質の濃度に依存し,溶質の種類には依存しません.このことを利用して,溶液中の溶質の分子量を測定することができます(高分子に限る).

π=CRT

(πは浸透圧,Cはモル濃度,Rは気体定数,Tは絶対温度)

ここで

C=n/V=w/MV

(nは物質量,Vは体積,wは溶質の質量,Mは溶質の分子量)

と変形,最初の式に代入すると,

π=wRT/VM

これを変形して

M=wRT/πV

●浸透圧がとてもとてもとても理解できました.

●浸透圧の図がついに!! 理解できました(笑) 左が空のままで移動すると思っていて,納得いかなかったけど,大気圧が頑張ることとかめっちゃ納得!!

●浸透圧計算は透析をやるうえで重要なことがよくわかったので,きちんとミスのないように計算できるようにしたいです.

●高校で生物をやったときに浸透圧とか高張液,等張液の話があったのでちょっと懐かしかったです.

●高校のとき,化学Iは好きでした.でもIIに入って浸透圧のところから苦手になりました.今日の講義でちょっと苦手意識をなくせたかなと思います.

●浸透圧がすごくなつかしく感じました.

●透析と浸透を学んで,生物に似ているなぁと思ったりしました.全てがつながっていると実感できるととても嬉しくなります.

●浸透圧の意味を初めて知りました.式は簡単なのでがんばって理解したいです.

●コンタクトレンズを入れても痛くないのは,生理食塩水のおかげなんですね.

花粉症のシーズンになると,むずむずする鼻を水で洗いたくなる,という人もいます.しかし水道の水で鼻を洗うと,とても痛い思いをします.プールで誤って鼻に水を入れてしまったときと同じ痛みです.

この痛みは,粘膜細胞内外の浸透圧の差によるものです.そのため,食塩水で鼻を洗ってやれば,痛みを感じなくて済みます.1 %(w/V)程度の食塩水を使えばOK.

●0.9 %食塩水を鼻に入れても痛くないっていうのはびっくりしました.今度やってみます.

●鼻に水をつめるといたかったのは,細胞が死んじゃうからですか・・・.塩水のほうが痛そうです.

●浸透圧の話を通して,花粉症の悩みの解消につながるとは思わなかった.驚いている.自分は花粉症なので,さっそく来春,水に食塩を入れて試してみたい.

●スギが春になると例年の5倍になるらしいから,塩入れて鼻うがいしようと思います.

●鼻の中を水で洗うとき,なぜ食塩を入れるのかわかってスッキリしました.まさか浸透圧が関わっていたなんて思わなかった.生活にも密着すると化学は本当に楽しい.

●自分は花粉症なので今日聞いたことを試してみたいです.

酸と塩基

まず,H+を与える物質が酸,受け取る物質が塩基,という相対的な考え方から理解をスタートします.酸と塩基の間でH+がキャッチボールされています.投げる方が酸,受け取る方が塩基です.たとえば,

NH3 + H2O <=> NH4+ + OH-

(<=>は両方向矢印)

という反応を考えた場合,式の左側ではH2Oが酸,NH3が塩基となっていますが,式の右側ではNH4+が酸,OH-が塩基となります.

酸と塩基は必ずセットで現れます.

●酸と塩基の間でH+のキャッチボールをしているっていう説明が面白いなと思いました.

●酸と塩基の話がわかりやすかったです.できれば演習用のプリントなども欲しいです.

●酸と塩基,高校3年のときに必死でやりました.だから苦手ではないが好きでもないです.

●酸と塩基,今 中3の子に教えてます.先生の教え方,参考にさせていただきます.

●中和の説明がすごいわかりやすかったです.

●中和=酸vs塩基の相殺!

●今まで酸塩基の強弱のことをちゃんと理解していなかった.こんどこそちゃんと理解した・・・.

●高校では公式のようにただ覚えた水のイオン積を説明してもらったのは,初めてだったので,面白かったです.

●酸と塩基は好きだったので来週も楽しみです.

●酸と塩基の辺は高校のときに一番がんばったところだったので,ちょっとはりきっています!

●強酸と弱酸の違いがよくわかった.

●酸と塩基を忘れていたので思い出せてよかった.

水の溶解度積

純粋な水中においては,25 ℃において

[H+]=1.0×10-7 mol L-1

であることが実験的にわかっています.

そしてこれと同物質量のOH-1が存在しているので,

Kw=[H+][OH-1]=(1.0×10-7 mol L-1)2=1.0×10-14 mol2 L-2

が成り立ちます.

このKwを水の溶解度積と呼びます.

pH (p319)

pH=-log10[H+]

で表される数値がpHです*1.25℃において純粋な水ではpH=7になります.

●pHのことが分からなかったけど理解できた.

●胃酸のpHが思いの外高くておどろきました

●pHが苦手だったから,今日からちゃんとまたpHを理解できるようにしたい.

●phがんばります.

●pHの計算は高校時代に苦手だったのでこの際理解できるように頑張りたいです.

全般のコメント紹介

●専門科目のときもそうですが,医療に直接関係することをやると,勉強することに責任を感じます.今日もありがとうございました.

●将来の仕事と直接関係のある内容だったので,すごく集中して授業をきけた.

●医療と関わりのある話があった分野だったのでおもしろかった.

●医療と密接に関わっていると実感した.

●よくわかった.

●後半の内容は理解できた.浸透についてはほとんどわからなかった.

●高校のときにやったけれどわすれかけていたので,ちゃんと思い出していきたい.

●前期に比べて授業中に眠くなくなりました.将来mol濃度を間違えないように今がんばります.

●高校のとき苦手なトコロだったので,復習chなんとしようと思いました.頑張ります.

●わかりやすく興味のある内容だった.

●高校のときはアバウトな知識しかなかったので,はっきりと良くわかった.

そのほか

●男子高校生が彼女の身代わりに命を落としたニュースを朝知り,とても胸が痛んだ.

●1限つらい・・・洗濯ものが!!

●1限はやっぱり朝早くてツラいです.(><;)次回はちゃんと睡眠をとって授業に臨みます!!

質問

●なぜ1 %(w/w)≒1 %(w/v)なのですか?

1 %(w/w)の食塩水は,99 gの水と1 gの食塩を混ぜたものです.これに対して1 %(w/v)の食塩水は,1 gの食塩を水に溶かして100 mLにしたものですが,ここで用いられる水の体積は99 mLと100 mLの間です.その質量は99 gから100 gの間です.

食塩1 gを99 gの水に溶かそうが,100 gの水に溶かそうが,溶かしてしまった後の濃度の違いは微々たるものなのです.一桁%の溶質濃度の水溶液を考えるとき,そういうわけで,%(w/w)≒%(w/v)と近似してOKなのです.二桁になるとやめておいたほうがいいでしょう.

●透析膜ってどうやってつくるんですか? 1つ1つ穴を空けてる訳ないですよね?

イロイロあります.医療に用いられる機能性材料について11月に解説するので,そのときに説明します.

●pHのことで,けがをしたら尿をかけると良いと言っている人がいたのですが,本当ですか? あと,昔は洗濯に尿を使っていたときいたことがありますが,あれもいいのでしょうか?

むかしむかし,石けんがなかった時代,尿を腐らせてアンモニア濃度を高め,洗濯に使っていた模様です.アンモニアは塩基性なので,酸性の脂肪汚れに効果的だったのでしょう.

けがに尿をかけるというのは,傷口の洗浄をするための水が得られない場合の代用物としてでしょう.尿は濾過された体液なので雑菌が混ざっていません.そのため,洗浄用水の代用になるのです.

●スペクトルスコピーって何ですか?

光の分析です.物質にエネルギーを与えた場合に,その物質特有の光エネルギーが吸収されたり放射されたりします.その光の特性を調べて,物質の種類や性質を確かめる分析方法です.

次回予告

緩衝溶液のしくみを考えます.生体はどのようにして体内のpHを一定範囲に保っているのでしょうか? 生化学実験で用いられる緩衝溶液は,どのような仕組みになっているのでしょうか? ちょっとキツめの計算をやってみましょう.これで教科書上巻が終了です.

リンク

www.tnojima.net
www.tnojima.net

*1:厳密にはちょっと違うんですが,今回はこうしておきます