看護学部1年の「統計学」を担当されているY先生が「授業参観」.残念ながら私は,看護学部の統計学の時間が化学実験実習と重なるので参観に行けません.
前回の講義に対する質問コメント感想その他なんでも
ここに書かれている感想コメント質問その他ひととおりに答えました.詳細は前回の講義録参照→第21回(2009-11-13)
化学トピック: 月に水分あり
10月上旬にNASAが宇宙船をの南極に衝突させ,舞い上がるであろう水蒸気の量を見積もる実験を行いました.
衝突実験の後,得られたデータの分析作業が続いていましたが,このたび確かに水をとらえたとの発表がありました.
補足資料配付
酸素を含む有機化合物が関係する反応について,時間の都合で解説できない反応機構などを解説した資料を配付しました.
酸素を含む有機化合物
(1)アルコール,(2)エーテル,(3)アルデヒド,(4)ケトン,(5)カルボン酸,(6)エステル,の6種類について一般式を書いて簡単に紹介しました.
このうち(6)エステル以外の5項目を今回の講義で採り上げました.
アルコール
第一級アルコール,第二級アルコール,第三級アルコール,エチレングリコール,グリセリン,フェノール,について説明しました.
また,アルコールの製法として(i)アルケンへの水付加,(ii)アルデヒドもしくはケトンに水素付加,というような方法があることを紹介しました.
水素付加にはPt触媒が用いられます.
Pt触媒の表面にH2が捕らえられ,ここにC=Oが接触する際に還元反応が起こると考えられています.
Ptは貴金属なので反応に関与することなどなさそうに思われがちですが,表面は別の世界なのです.
Ptの話は少しショックでした。でも確かに表面は結合がとぎれてるのだから、どうなってもおかしくはないですね。
続いて,アルコールの反応として,分子内脱水反応,分子間脱水反応,酸化,について解説しました.
この過程で,(2)エーテル,(3)アルデヒド,(5)カルボン酸,(4)ケトン,も紹介しました.
飲酒の化学
体内ではエタノール→アセトアルデヒド→酢酸,という順に酸化反応が進みます.
多くの日本人がアルコールに弱いのは,アセトアルデヒドを分解する酵素の遺伝子が遺伝的に変異を起こしているためです.
これの酵素は4個のサブユニットから成っており,4個のサブユニットがすべて正常でなければ機能しないことが知られています.
そのため,両親のいずれか片方からしか正常遺伝子を受け継がなかった場合,体内の正常酵素存在確率は1/16になります.
年齢を重ねるとお酒が弱くなると聞きますが、本当ですか? 本当ならなんでそうなるんですか.
これは多くの人がそう感じていることだし事実です.歳とともに身体の機能は低下して行くのです.アルコールの処理能力も同じです.
アルデヒド
第一級アルコールをマイルドな条件で酸化するとアルデヒドになります.
超(CHO)アルデヒドって覚えたな。
ケトン
第二級アルコールを酸化するとケトンが得られます.
ケトンの代表的物質はアセトンCH3COCH3です.
今ではクメン法の副生成物として大量かつ安価に生産されている有機溶剤ですが,第一次世界大戦中は貴重な軍需物資でした.
爆薬を製造するためにはアセトンが大量に必要となったのですが,当時の技術ではアセトンを大量に製造することができませんでした.
この要請に応えたのがイギリスのユダヤ人化学者ヴァイツマンでした.
彼はバクテリアを用いる発酵技術によってアセトンを安価に大量生産可能としました.
その見返りに彼が大英帝国から受け取った報酬は,母国建設のための土地でした.
この土地が現在のイスラエルとなり,彼はその初代大統領を務めました.
参考リンク→ハイム・ヴァイツマン(Wikipedia)
アセトンに世界史を動かす力があったんですね。マニキュアの除光液に入ってるけど、なかなか落ちない・・・
世界史との連動,すっごく面白かったです!
エーテル
以前、手術で麻酔を使った時,私には効き過ぎたらしく、なかなか目覚めなかったらしいです。麻酔から目覚める時のメカニズムって何ですか? それも遺伝的要素があるのでしょうか?
麻酔が作用するしくみはまだ理解されていません.そのため,麻酔から覚めるしくみもわかっていないことでしょう*1.
麻酔の効き具合に個人差があり,それが遺伝的なものであるという動物実験の結果は知られています.
かつて麻酔というものがなかった時代,外科手術の際,痛みで患者が絶叫していました.それをかき消すために手術室の近くで楽団が大騒ぎをしていたそうです.
楽団で悲鳴かき消すって(^o^)/なんてはっぴー(^o^)/なんかもう生きるとか死ぬとかどうでもよくなりそう(^o^)/
麻酔にエーテルが使われていたことや、第一次世界大戦でアセトンが爆薬に使われていたことから,化学は歴史を動かすのに大きな役割を果たしたことがわかりました。
ところどころで化学と人類史が深く関わってきました.
全般
有機化学は覚えることばかりで苦手だったけど、そんなに難しいことは覚えなくていいと言ってくれるのは助かります。
覚えようとすればいくらでも覚えるネタがあるのですが,一般教育の選択科目の化学としては暗記するよりは理解することを重視します.
有機化学の付加反応や酸化反応って不思議ですね。でもその不思議さがたのしいなーと思います。
実に奥が深い世界です.そして細かいことがまだわかっていないところも魅力的です.
有機はたくさん反応があって難しい。
まだまだ数例を紹介しただけです.基本的には付加,脱離,置換,転位,の4パターンです.
有機化学反応の仕方は無数だが,大別すると,
置換,付加,脱離,転位
の4種にすぎぬといういい方がある.
ーーーーー井本 稔,有機電子論解説第4版,1990,東京化学同人,p103
高校思い出しますねなつかしい化学やん!
有機なつかしい・・・。昨年やったなぁ・・・。半分くらいすっかり抜けてますが・・・。
有機化学は教科書の後半で扱われているので,時間切れになりがちです.そのため省略されがちだし,速いペースで授業が進んだりして,しっかりと理解する機会がないまま卒業,ということがあります.頭に半分残っていればよく覚えている方です.
今回は看護の授業でも聞いたことのある単語もあって、さらに詳しく知れてよかったです。
途中、関連のある話があってわかりやすい。
特に有機化学の領域は人体や医療に関係する事柄が多いのです.
前回休んでしまったので、おくれをとりもどしたいです。
大丈夫です(たぶん).
しし座流星群のために早起きしました。残念ながら見えなかったですが・・・私たちも宇宙に生きる生物.この手につかむ空間も宇宙の一部であるように思える.
残念ながら悪天候でした.私も5時台に起きて空を眺めたのですが雲に覆われていました.
それはそうと試験そろそろ心配ですよー_| ̄|○
後期のテストが心配です。とてもとても。
テストは心配するほどのものでもありません.
ねむくてごめんなさい.
暖房が入って教室が非常に暖かくなりました.眠くなる季節です.
次回予告
酸素を含む有機化合物の続きをやります.
リンク
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*1:麻酔専門医に尋ねるのが良いと思います.