Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

化学講義(19)アルケンとベンゼンとフェノール

前回の講義に対するコメント質問その他の紹介

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詳細は前回の講義録参照→第18回(2009-10-28)

ヘキサンの構造異性体

前回の確認テストの答えを配布しました.水素も炭素も記す方法,水素は炭素とひとまとめに記す方法,折れ線で記す方法,も紹介し,効率よく有機化合物の構造を描く方法を説明しました.

「高校化学で習った主な有機化学反応のしくみ (1) 」プリントの配布

「メタンへのラジカル反応による塩素の付加」と,「酢酸とエタノールの脱水縮合による酢酸エチルの生成」について各ステップに分けて説明したプリントを配布しました.続編は作成中.後日まとめて説明します.

化学トピック:「青いバラ」

昨日が発売日でした.テレビなどで採り上げられてはいたようです.

青いバラのしくみがわかって面白かったです。青いバラの話はテレビで見て値段にびっくりした覚えがあります。もっと完全な青のバラができたら、すごいなと思いました。

「青」が可能になったので,あとは徹底的な条件最適化でしょう.引き続き研究が行われているようなので,徐々に色が紫っぽい青から青に近づいて行くことでしょう.

「青い」バラや「青い」発光ダイオードなど,科学的に「青」を表現することは難しいのですか?

これはたまたまです.青い色素はいろいろあります.ちなみに,古い映画のポスターが青味を帯びてくるのは青系色素が分解しにくいからです.他の色素が日光で分解した後も,青系統の色素が残るのです.

光学異性:リモネン

リモネン異性体の入ったボトルと偏光板2枚とを回覧しました.また,これとは別ににおいをかぎ分けるためのボトル2本も回覧しました.

授業中にまわってきた黒いフィルムのものが90°回転させるとどちらかのビンが黒くなるのでしょうか?あまりちがいがわからなくて残念でした。

それは残念.2枚の偏光板に挟んだ2本のボトル,偏光板を回転させて行くと,片方ずつ光を通さなくなるのです.

ポリアセチレン:電気を通すプラスチック

テレビの液晶などに最近になって有機ELというのを聞くようになりましたが、プラが電気を通すのはこれと関係ありますか?

今回紹介したポリアセチレンと有機ELとは別の仕組みです.有機ELには電気を通すと光を出す低分子有機化合物が用いられています.

芳香族

共役二重結合3個が環状になることによって生まれる,芳香環特有の性質を紹介しました.

今まであやふやなイメージを持っていたベンゼンの構造がよく理解できた。

こういうしくみなのです.そして我々の体内にあるDNAや蛋白質にも同じ構造のリングがたくさん埋め込まれているのです.

フェノールにはなぜオルトとパラにしか結合しないのかがわかってよかった。

電子の動きに理由あり.そのしくみを説明しました.

ベンゼンは付加反応を起こしにくいのはなぜですか?

芳香環が非常に安定な構造なので,これを崩してまで別の構造を取らせるのはタイヘンだからです(エネルギー的に).付加反応としては触媒存在下における水素付加(シクロヘキサンが生成)と,ラジカル反応による塩素の付加(ベンゼンヘキサクロリドが生成)が代表的なものとして挙げられます.二重結合1本だけに付加させることは非常に困難です.環全体でπ電子を共有しているためです.そのため,付加反応は一気に6個の原子が導入されるものになります.

ベンゼン環を考えた人って、ヘビが自分のしっぽをかむ夢を見てベンゼン環を思いついた人ですよね?

そうです.ケクレという化学者です.ベンゼンの六角形構造を提案した人です.ただし,ヘビが自分のシッポを噛んでリングになった姿から着想を得てベンゼンの環状構造を思いついたというのは,後からつくられたストーリーだという説もあります.

しかし、本当にケクレがこれらの夢を見たかについては疑うむきもある。

-----アウグスト・ケクレ(Wikipedia)

「ニュートンのリンゴ」と同じようなものです.

リンゴの木からリンゴが落ちるのを見て万有引力を思いついた、という有名な伝記があるが、これはニュートンの家の窓からリンゴの木が見えることから作られた話である。

-----アイザック・ニュートン(Wikipedia)

全般

いつも楽しいスライドをありがとうございます。

そう言ってもらえると何よりです.

高校の内容と似てる。

高校でやった内容をさらに詳しく聞けてよかった。

高校で学んだことの理由がよく分かりました.

高校のときあやふやだったものが明瞭化されて良かったです。

高校よりも分子間でのしくみや結合をくわしく理解しきるかなぁと思った。

高校のときに化学を履修した学生には,その頃に蓄積した知識に意味付けをしてもらおうと思います.化学未履修者には,高校とは違ってあれこれと例を引っ張り出すのではなく,限られた分子と反応についてのしくみを理解することによって,有機化学の基礎を学んでほしいと思います.

難しかった。

どれくらい?

その他

先生の血液型ってAですかBですかその他ですか?

その他です.

次くらいは爆発ですかね〜

ベンゼンを基本骨格に持つ爆薬として,2,4,6-トリニトロトルエン,通称TNTがありあます.これ,行きましょう.

次回予告

置換ベンゼンの電子論についての説明を終わらせ,「ほしい分子を作るルートをデザインする」ロジックについて簡単な例を挙げて解説します.高校化学の教科書に出てきた有機化学に関しての断片的な知識を統合します.

参考図書

有機電子論解説―有機化学の基礎

有機電子論解説―有機化学の基礎

 

リンク

www.tnojima.net
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