Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

収率の計算はこういうふうにやるのです

化学実験の実験テーマ#3.2「アスピリンの合成」では,「収率の計算」をやるのですが,毎回毎回毎回コレが何だかわかってない人から質問されるので,ココで説明しておきます.

収率ってなんだろう?

あなたが何らかの合成反応を進めていたとします.

その反応が100 %順調に行けば100 gの目的物が得られることになっている,とします.

でも,実際に実験をやってみたところ,得られた目的物が75 gだった,とします.

この場合,収率 は以下のようになります.

得られた量/得られるはずだった量 = (75 g)/(100 g) = 0.75 = 75 %

ここで,実際に得られた目的物の量を 収量 と呼びます.

収量は質量(何グラムか)であらわされる場合もあれば,物質量(何モルか)であらわされる場合もあります.

どうやって計算すればいいんでしょう?

いちばん上の反応式をよーーーーーく見てください.

サリチル酸に無水酢酸が作用して,アセチルサリチル酸ができています.

1個のサリチル酸からできるのは,1個のアセチルサリチル酸ですね?

OK?

っていうことは,1 molのサリチル酸からは,1 molのアセチルサリチル酸ができるっていうことですよね?

OK?

で,サリチル酸のモル質量が138 g mol-1,アセチルサリチル酸のモル質量がが180 g mol-1なので,138 gのサリチル酸からは,180 gのアセチルサリチル酸が得られる,っていうことになります.

OK?

コレがOKじゃないっていう人は,ただちにL2号館1階の 学習サポートセンター(ASC) に行って化学のチューターに説明してもらってください.

コレの意味がわかんないっていう調子では,進級も卒業もピンチです.

では,サリチル酸を138 gではなくて,5.0 g使ってこの実験を行ったとき,アセチルサリチル酸は何グラム合成されるはずでしょうか? その質量をxとして考えてみます.

比例計算.

サリチル酸の質量:アセチルサリチル酸の質量 = 138 g : 180 g = 5.0 g : x

義務教育で習った,「外項の積 = 内項の積」を使えば以下のようになります.

(138 g)×(x )= (180 g)×(5.0 g)

これを計算すると以下のようになります.

x = (180 g)×(5.0 g)/(138 g) = 6.5217・・・ g ≈ 6.5 g

というわけで,5.0 gのサリチル酸を原料に使ってアセチルサリチル酸の合成を行った場合,反応がパーフェクトに進めば,6.5 gのアセチルサリチル酸が得られる計算になります.

コレを理論収量と呼びます.

でも,実際には理論収量が得られるわけではありません.

なんで収率が100 %に達しないんだろう?

100 g得られるはずだったのに,75 gしか得られなかった,なんていうことは珍しくありません.

収量が理論収量に達しない理由はイロイロ考えられます.

例えば,反応が終わった後に,目的物を完全に回収しきれなかった可能性が考えられます.

ほら,フラスコの底とか,ブフナーロートの内壁とか,ろ紙の表面とか,あちらこちらにあなたが残して来たアレがあるでしょう?

ああいうのが失われて行ったから,100 %にはならないんですよ.

100 %を超えちゃったんですけど

100 g得られるはずだったのに,105 g得られた,なんていう場合だってあります.

こういうときに疑うべきなのは,生成物の純度です.

生成物が湿ったままだったら,その湿り気のモトになっている水とか溶媒とかが,測定値の中に含まれています.

収率が100 %にならなくてもOK

っていう具合に,イロイロな理由で100 %にならないのが普通なので,ソレはソレとして実験レポートに正直に記入してOK.

有機合成反応って,そういうものなんです.

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