Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

大学生がスマートフォンにアクセス制限フィルターをかけられていると困ったことになる理由

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おことわり

  • この記事は「親は自分の子供のスマートフォンにフィルターをかけるべきではない」を主張するものではありません
  • この記事は「スマートフォンのフィルターを外しても全く問題は生じない」を保証するものではありません
  • この記事は私の個人的な考えを書いたものであって,北里大学としての考え方を説明したものではありません
  • あなたがこの記事を読んで行動に移した場合の不利益に対して私は一切責任を負いません.もちろん,利益があっても分け前をよこせなんて言わないけどね.

それと,

  • 説明を簡単にするために用語の厳密な定義は省略してあります.

現状:大学1年生の3割がスマートフォンにアクセス制限フィルターをかけられている

TwitterでURLを知らせて「ココに書いてあるのを見てくれ」って伝えると,「アクセス制限かかっていて見られません泣」って返ってくることがあります.スマートフォンの契約時に未成年を「守るため」にかけられたフィルターが情報を遮断するからです.

どれくらいの1年生がアクセス制限を受けているんだろうって思って,ちょいとTwitterアンケート機能で調べてみることにしました.

投票〆切段階(2016-04-04T15:48)で,投票数334,32 %が「ある」,52 %が「ない」,16 %が「わからない」と回答しています*1*2

この32 %の人々は,フィルターによって何かの危険から守られているかもしれませんが,確実に機会損失をしています.52 %の「ない」と回答した人々が得られる情報を30 %の人々は得られない状況にあるからです.得られない情報の中には,有害な情報もありますが,無害な情報の方が圧倒的に多いのが現実です.

フィルターはどのような情報「も」遮断しているのか

フィルターが判断しているのは,「リンク先のページに記されている内容をチェックした結果,未成年が閲覧するにはふさわしくない内容であることが確認されたから」ではありません.別のロジックでアクセス制限を行っています.

だから,たとえば次のURLが大学1年生のスマートフォンでアクセス制限対象になっていたりします.

http://takahikonojima.hatenablog.jp/entry/140501-periodic-table
【追記2016-09-18】現在はアクセスできます.ココで説明した方法で対処したためです.【追記ここまで】

ココに書かれてるのは『今から周期表を覚えようとしてる医療系大学1年生はとりあえずこのあたりを第一目標にせよ』っていう記事です.なんでコレがダメなんでしょうか?

フィルターは記事の内容を見ていないからです.URL中の文字列 hatenablog.jp だけを見てアクセス制限をかけているからこうなります.

なんでフィルターは hatenablog.jp をダメって判断するのでしょうか?

それは, hatenablog.jp は言論の自由が最大限に発揮できる場の一つだからです.私みたいに化学の基礎の周期表のゴロ合わせみたいな人畜無害な記事を公開している人もいる一方,政治であるとか戦争であるとか宗教であるとか社会問題であるとか,そういった問題に対して考察した内容を公開している人もいます.それから,未成年が見るのにはふさわしくないコンテンツも.

こういう状況なので,各ページの内容に依ることなく,URLに hatenablog.jp が含まれるページをすべてアクセスできなくしています.

同様のことが fc2.com とか,seesaa.jp とか,他のサービスについても起きています.フィルターによっては,アメブロ以外の商用ブログをすべてアクセス遮断していたり.

そうなっている結果,大学生にとってどんな問題が生じるのでしょうか? それを以下に説明します.

「世の中の人々の考えを賛否両論から比較検討して結論を下しなさい」な課題ができない

大学生には,教科書に書かれていない情報を探し,それらを比較しながら,自分自身で結論を下す,という能力が求められます.だからそういうタイプのレポート課題が課されたりします.そういう場合に,一世代前の大学では,まず図書館の蔵書の中に情報を求めに行くのが標準コースでした.

2016年の大学では,図書館に行くところからではなく,インターネット検索から始めるのがスタンダードな手順です.政府や公的研究機関がオンライン公開している,比較的「信頼できる」内容で比較的「中立な」データをチェックしつつ,新聞社であるとか出版社であるとかの,どちらかというと「主観的な」評価を比較しつつ,さらに個人ブログであるとか個人ホームページであるとかもチェックしてみて,「この世界には実に様々な解釈が存在する」ことを学ぶことは重要です.

ここでフィルターがかかっていると,政府,公的研究機関,新聞社,出版社あたりまではアクセスできても,「それらの情報に基づいて人々はどのように考えているのか」にはアクセスできません

たとえば,さまざまな発展途上の医療技術について,政府や医療機関がデータに基づいた中立な情報をオンライン公開しています.それがニュース性の高いものであれば,新聞社や雑誌社が社説に取り上げ,オンライン公開することもあります.

しかし,その医療技術の恩恵を受けられた人々の声が公開されているのは,個人ブログであったり個人ホームページであったりします.恩恵を受けられなかった人々の声も考察には必要ですが,それも公開されているのは個人ブログであったり個人ホームページであったりします.「あなただったらどうするか?」という問いに対して自分自身の結論を下すにあたっては,中立なデータだけでは役に立ちません

あなたのスマートフォンにフィルターがかけられていると,あなたはスマートフォンを使って「世の中の人々の考えを賛否両論から比較検討してあなたの結論を下しなさい」な課題ができません.

この世界は情報を持っていない者から情報を持っている者へチャンスが流れている

世の中には役に立つ情報を公開してくれているブログがたくさんあって,勉強方法もその中にあります.資格試験とか国家試験とかの合格者からのアドバイスっていうのは,ぜひとも参考にしてみたいところです.イロイロな人々がイロイロなアドバイスをしてくれているので,それらの中から自分のフィーリングにあったものを選んで一通り読んでみるのはオススメです.

でも,そういうのにフィルターがかけられていたりするわけです.フィルターかけられていない人が圧倒的に有利です.

友達とSNSでそういうのが話題になったとき,「ちょっとコレ見てごらんURLはコレ!」に対して「アクセスできないよー泣」だと,「じゃ,いいよ(しょうがないな)」ってなっちゃっそれっきりです.

人間は面倒なので,あとでPCルームに行ってPCを起動して,なんてやりません.失った機会はそのままです.そういうのが積み重なって,グランド何周分もの差を付けられて行きます.そしてそのことに気が付かないまま時間が過ぎて行きます.

「あのときフィルターがかかっていなければ!」っていうことにさえ気付かないまま人生が進んで行きます.

知らない間に機会を奪われている

コンテンツフィルター以外にもイロイロなフィルターがあって,掛けられている側には気付かないけれども,人生から様々なチャンスを奪っています.

個人所有のスマートフォンにフィルターをかけるかどうかを判断するのは大学ではありません.フィルターをかけられているために生じる不利益は自己責任です.

メリットとリスクのトレードオフ

フィルタリングは成人向けコンテンツへのアクセスを遮断してくれるかもしれないし,ワンクリック詐欺に引っかかる確率を下げてくれるかもしれません.しかし,すべての成人向けコンテンツがアクセス不可能になるわけではないし,すべての詐欺から守ってくれるわけではありません.安全性を追求して行くためには,結局,次から次へとアクセスできない場所を定めて行くことになります.その結果,得られたはずの情報が得られなくなり,人生から様々な機会が奪われて行きます.

というような,メリットとリスクがトレードオフになっているので,そのあたりを理解してフィルタリングについて考えるのがオススメです.

っていう内容を,「親がアクセス制限解除してくれないんですー泣」な大学生は自分のアタマで理解して,再度説得に向かってくれ.なお,「先生うちの親を説得してください」系のお願いはぜんぶお断りしております.自分で何とかしなさいな.

注意事項再掲

この記事は私の個人的な考えを書いたものです.あなたがこの記事を読んで行動に移した場合の不利益に対して私は一切責任を負いません.

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*1:334票ぜんぶが北里大学1年生によるものだという保証はないけどね.

*2:記事更新前のデータは2016-04-03T11:00時点で290票,ある31 %,ない51 %,わからない18 %でした.