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化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

「地球上には何種類の元素があるのか? 」っていうのに答えるのは難しい

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昨年(2016年)の11月30日に原子番号113,115,117,118の4元素に正式名称が与えられ,最新の周期表には原子番号1番から118番までの元素が並んでいます.

しかし,これら全てが地球上の自然環境でみつけられたわけではありません.

たとえば原子番号113のニホニウム113Nhは,加速器を用いて亜鉛30Znをビスマス83Biに衝突させる実験を行い,人工的な環境の中で,短い時間(344マイクロ秒)だけ存在することが示された元素です(他の複数の方法でも確認されています).

今回 正式名称が与えられた残りの元素も同様に加速器で合成されたものであり,他にも加速器や原子炉を用いて合成された元素とか,原子爆弾の爆発後の生成物の中から見つかった元素とかもあります.

っていう状況を考えると,「地球上には何種類の元素があるのか?」っていう疑問が出てくるわけですが,これに対して一言で「何種類だ」って答えるのは簡単ではありません.なぜなら,この質問には,それ自体に曖昧な点があるからです.

っていうことを説明するために,人類がどのように元素を発見し,あるいは合成してきたのか,を振り返ってみることにします.

周期表に118番までの元素が埋まるまでの道のり

(1)天然からみつけた元素は89種類

人類は地球上の様々な物質を分離したり分析したりして周期表を埋めてきました.

その結果,20世紀前半には水素1Hからウラン92Uまでの92元素のうち,次の3元素を除く89元素を見つけ出しました.

  • テクネチウム43Tc
  • プロメチウム61Pm
  • アスタチン85At

ここには,見つけ出したものの,半減期が短いラジオアイソトープで存在量が極微量なため,いまだにどんな化学的性質をもつのかよくわかっていないフランシウム87Frも含まれます.フランシウム87Frは,ウラン233Uや235Uが崩壊して行く途中で姿を現し,崩壊していく元素で,地球上には深度1 kmまでの範囲で150 g程度が存在すると考えられています.

なお,プロメチウム61Pmについては次項参照ねがいます.

(2)人工的に合成した後,天然からも見つけた元素が5種類

次の5元素は,最初に原子炉とか加速器とかを用いて他の元素からつくりだした元素です.

  • テクネチウム43Tc
  • プロメチウム61Pm
  • アスタチン85At
  • ネプツニウム93Np
  • プルトニウム94Pu

これらの元素は,人工的につくられた後に,地球上に極わずかに存在することがわかった元素です.

たとえばアスタチン85Atはウラン92Uの崩壊系列の途中で姿を現します.

ウラン92Uに宇宙線の中性子が当たると,核分裂が起き,その結果としてテクネチウム43Tc,プロメチウム61Pm,ネプツニウム93Np,プルトニウム94Puなどが生成することがあります.

また,ウラン92Uは自発的に核分裂を起こすことがあり,その場合にもこれらの元素が生じることがあります.この現象については興味が持たれているものの,よくわかっていない模様です.

こうした現象はウラン鉱石中で起きています.この鉱石の中では,様々なラジオアイソトープが生成と崩壊を続けています.

なお,プロメチウム61Pmについては人工的に合成される前に天然試料中から検出した報告があるっぽいのですが,私は面倒なので文献調査していません(原典にあたってみた方からの連絡を歓迎します☆)*1

(3)人工的に合成した後,天然からは見つかっていない元素が24種類

アメリシウム95Amからオガネソン118Ogまでの24元素は人工的につくられた元素で,天然からは見つかっていません.すべてラジオアイソトープです.

加速器の中で一瞬だけ存在した元素もあれば,半減期が数百年とか数千年とかのものもあって,放射線源とか,原子力電池の材料などとして使用されているものもあります.

何種類なのか?

っていう状況なので,「地球上には何種類の元素があるのか?」という疑問に対しては,「ある」の意味するものごとを明確にしなければ答えることができません.

(a)天然に存在していて単離することが可能な状態

地球上に天然に存在していることがわかっていて単離することが可能な状態を「ある」と考えるなら,上記(1)の89種類のうち,フランシウム87Frを除く88種類と答えるのが妥当でしょう.

(b)天然に存在していて検出することが可能な状態

どのような状況であれ,地球上の天然の試料中から検出可能な状態であれば「ある」と考えるのなら,上記(1)+(2)の94種類と答えるのが妥当でしょう.

この場合,崩壊系列の途中で一瞬だけ姿を現すような短い半減期をもつ元素であっても,その瞬間には存在していると考えます.

(c)その他の可能性

天然には存在していなくても,人工的に合成して実用化している元素もあります.

たとえばアメリシウム95Amは煙感知器に利用されており,日常生活で使われている人工ラジオアイソトープとなっています.

イオン化式感知器は過去に煙感知器の主流として使用されており、煙検出用として放射性物質であるアメリシウム241を使用しています。

これを「ある」に含めると,(a)や(b)よりも「ある」の数が増えます.

アメリシウム95Amの他にも,心臓ペースメーカーの電源に用いられていたキュリウム96Cmとか,がん治療に応用が期待されているカリホルニウム98Cfなども「ある」に含めていくと,その数は増えて行きます.

中性子源として用いられている人工ラジオアイソトープもあるし.

結論

っていうわけで,「地球上には何種類の元素が『ある』のか?」という問いに対しては,何をもって「ある」と考えるのか,を明確に定めてからでなければ答えることができないのです.

「存在していることを確認した」のか「単離して何かに利用しているのか」で変わってきます.別の元素が崩壊して生成し,直ちに別の元素に変わってしまうために取り出すことがムリな場合も「ある」なのか.

それから,ここで「天然に」っていう場合には,地球上に限定しておく必要があります.他の天体で何が起きているのかほとんどわかっていないからです.

なお,よくある答え方としては「80種類以上」とか「90種類くらい」といったものがあります.「身のまわりにあるのはせいぜい80種類くらい」とか.

参考書籍

元素111の新知識 第2版増補版 (ブルーバックス)

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元素についてはこれがわかりやすくまとまっています.タイトルは111元素になっていますが,改訂されてオガネソン118Ogまでの元素が紹介されています.

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元素ごとにくわしい説明があります.ただし,地球上に存在量が少ない元素については説明が省かれています(そもそも化学的性質がわからなければ教科書に記しようがない).

おまけ

元素化学専門の方からのツッコミをお待ちしております.いただいたツッコミをとりいれ,このページを更新させていただきます.

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*1:天然試料中から検出したっていう報告例があっても,現在,その内容が正しい検出だったと認められているのかっていうあたりが不明.