Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

看護学科の化学講義(20)放射線と放射能

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キーワード

α線,β線,γ線,逆二乗則,吸収線量,結合エネルギー,原子力発電,原子爆弾,原子炉,自然放射線,質量欠損,診療放射線,半減期,崩壊系列,崩壊速度,放射性核種,放射性同位体,放射線,放射能,ラジオアイソトープ,臨界質量,連鎖反応

講義内容要約

  • 放射線を出す能力が放射能.
  • 放射能をもつ元素が放射性同位体(ラジオアイソトープとか放射性核種とも呼ばれる).
  • 主な放射線はα線(ヘリウム-4の原子核),β線(核から放たれる電子),γ線(電磁波).
  • ラジオアイソトープは放射線を出しながら崩壊していく.
  • 中性子をウランやプルトニウムなどの原子核に衝突させて壊すと,原子核内で粒子を結びつけるために使われていたエネルギーが放出される.このエネルギーをコントロールしながら取り出して発電機を動かすのが原子力発電,コントロールせずに反応を暴走させるのが原子爆弾.
  • 放射線をはかる尺度として,原子核の崩壊速度(Bq),物体が受けるエネルギー(Gy),人体への影響度(Sv)がある.
  • 地球上で暮らす人間は,地面,空気,食物,宇宙線などから世界平均2.4 mSv(日本は1 mSv)の放射線(自然放射線)を1年間に受けている.
  • 主な診療放射線の強度(1回あたり):全腹部CTスキャンが6.8 mSv,胸部レントゲン検査が0.2 mSv.
  • 年間20 mSvまでは安全,合計100 mSvで生涯のガン発生リスクが0.5 %上昇,一度に200 mSvは確実に危険,と考えることになっている.
  • 電力供給の炭素資源への依存度を下げることも原子力発電を進めてきた理由の一つだったが,福島第一原発の事故の後,電力供給をどうするのかは不明瞭.

該当する教科書のページ

第15章,177ページから188ページ.

はじめて学ぶ化学

はじめて学ぶ化学

関連トピック

(1) 診療放射線についてくわしくは北里大学病院放射線部のサイトをチェックせよ!

具体的な数値や,技術の解説,データが揃っています.

(2) 軍拡と核兵器開発

最初に実用化された原子力エネルギーは原子力発電ではなく,原子爆弾でした.1945年7月にアメリカは世界最初の原子爆弾の実験をニューメキシコ州で成功させています.その模様はカラーフィルムに記録されています.

このときの実験に関わった物理学者が,母親に宛てた手紙では,実験の成功を報告するとともに,次のターゲットが日本であることを述べています.

僕らは皆飛んだり跳ねたり大声でわめいたりし、駆けまわって互いの肩をたたきあったり握手したりして祝いあったのです。
ただ一つ、その目標を除いては 何もかも完璧でした。次の目標はニューメキシコではなく日本です。
僕の下で働いた連中は一同広間に集まり、息をのんで僕の話を聞きました。
僕らがやり遂げたことを、一人残らず心底誇らしく思ったのです。
ひょっとすると間もなく世界大戦を終結させられるかもしれません。
-ファインマンの人生/北海道大学高等教育機能開発総合センター

この考え方は,被曝国に暮らす2014年の私たち大多数の考え方とは逆のものです.人間は立場と時代が異なれば,異なる結論を下します.2014年の日本では「核兵器は一般市民に対する無差別殺戮兵器」との考えが主流でしょう.1945年のアメリカでは「核兵器は世界大戦を終わらせるための最終兵器」との考えが不自然ではありませんでした.
この実験の翌月には広島と長崎に原子爆弾が落とされています.1952年,広島市に作られた原爆死没者慰霊碑には,「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と記されています.

しかし,その2年後,ビキニ環礁で行われた水爆実験に日本の漁船が巻き込まれ,乗組員が被曝する事故が起きています.

威力の大きな核爆弾を開発する競争は1960年代まで続いていました.次の動画は1961年にソビエト連邦が行った,人類史上最大規模の核爆発実験です.「爆弾の皇帝:ツァーリ・ボンバ」.

ここまで核開発をエスカレートさせた人類でしたが,核兵器の威力比べを続けることを選びませんでした.各国は核軍縮に努め,2009年にはオバマ大統領の「核なき世界についての理念や取り組み」に対してノーベル平和賞が与えられています.

しかし,それから5年が過ぎた今も,人類はまだ核兵器を廃棄していません.

(3)原子力利用の課題

電力供給は我が国の生命線です.24時間365日,電力が安定して確実に供給されなければ,私たちの社会は成り立ちません.医療機関には,人工透析装置,人工心肺装置,人工呼吸装置によって生命を維持している患者がいます.電力供給がシャットダウンすると,何十万人もの人々が即死します.

安定して電力を供給するために,日本はエネルギー源を一種類に頼らず,水力,火力,原子力などに分散する戦略をとってきました.

2010年,日本は発電量の3割を原子力でまかなっていました.しかし,2011年3月11日の震災で福島第一原子力発電所が事故を起こして以来,原子力発電所は次々と稼働停止して行きました.2014年10月現在,我が国の原子力発電所はすべて停止しています.節電と,工業生産力の低下,老朽化した火力発電所の再稼働で電力をまかなっているのが現状です.

原子力発電所を再稼働するのか,再稼働しないのか,しないならどのようにその分の電力をまかなうのか,事故を起こした発電所をどのように処理するのか,見通しが立っていないのが2014年10月の日本です.
原子力発電に対しては反対する人々と賛成する人々とがいます.国内には原子力発電所の誘致に積極的な自治体もあります.

原子力発電も大きな争点の一つとなった2013年の参議院選挙では,過去に原子力発電推進政策を進めてきた政党が全国区でも原発をもつ地域でも勝っています.

原子力発電をどうするのか?

この問題に関して科学も技術も答えを教えてはくれません.なぜならば,どのように社会を運営し,未来の社会を建設して行くのかという問題に答えを出すのは,人間だからです.その答えに必要な技術と,自然界への理解を進めるのが,科学と技術の役割です.

出席者の声:みんなはこういうことを考えている/感じている/知りたいと思っている

●資源は,普通に生活していると無限にあるように感じますが,有限であるのだということを感じられる授業だった.節電大切ですね.
●原発は絶対×というイメージが変わりました.
●原発にも様々な意見があることがわかりました.
●私は原発OK派です.原発のためだけに原子力は使われてほしい(原爆はなし).
●エネルギー問題すごく考えさせられました.福島の人が全体より受け入れているのには驚きです.私はまだ原発Noとは言えないなと思いました.
●原発問題,むずかしいです.
●最後の原発などの話,深く考えさせられました.
●エネルギーについて考えさせられた.
●これからエネルギーについて色々考えなければと思いました.
●原子力は人間を平和に導くのか戦争や不幸に導くのか.我々将来を担う若者は常に考えなければならないと思いました.
●原子力については難しい話だけどちゃんと向き合わないといけない問題だと思いました.
●原発の事故があってから放射線のことをたくさん聞いたけど実際どういうものなのか知らなかったから知れてよかったです.
●今日は日本の未来について考えるきっかけとなることがたくさんあった.誰かに任せればいいでは一生このままな気がする.私は原発は危険をともなうことも多いと思うが,石油にたよりすぎているこの状況は未来の日本にとってよくないものという思いの方が強いと思った.
●私は出身が栃木で福島の近くに住んでいて放射能でさわがれていたので今回 放射能について勉強できてよかったです.
●最後の原発の話で,現地の人たちが推進しているというのにはおどろきました.原子爆弾にしても悪いとわかっていても続けてしまうのは不思議だと思った.
●原爆のおそろしさを改めて感じました.
●広島長崎の原爆はお風呂を9100年間わかせるくらいの力が一気に来たということなんですね.福島の方の原発推進が多いということは考えさせられることがありました.
●人間は貪欲で愚かな生き物だと思いました.
●放射線のこと くわしく知れた.ニュースでも話題になっていたことを考えるきっかけになった.
●医療で使われている放射線については色々知れてよかったです.安全だということを伝えられるようにしたいです.
●放射線についてはいろいろ見聞きする機会が多いですが,どういうものなのか知ることができてよかったです.
●放射性は便利な反面,とても危険だということを改めて知ることができました.本当に難しい問題だと思いました.
●放射線こわい
●見たことのない(Thとか)が出て来てあせった.
●放射線ときくとびんかんに反応してしまいますが,もっとしっかり勉強しようと思いました.
●放射能の問題はむずかしいなぁと思いました.
●放射線と放射能の区別がつかなかったので今回やっとわかった.
●特にないです.

出席者数推移

(1)44→(2)44→(3)43→(4)44→(5)43→(6)43→(7)42→
(8)43→(9)43→(10)41→(11)43→(12)43→(13)42→(14)41→
(16)41→(17)29→(18)35→(19)36→(20)35

次回予告と予習内容

「(20)有機化合物の世界」を学びます.配布物で予習してくること.

このブログを書いている人


野島高彦(@Takahiko NOJIMA)はこういう人 - 大学1年生の化学(北里大学・野島高彦)

*1:画像出典:フリーメディカルイラスト図鑑 http://medical.i-illust.com/image_1888.htm