Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

看護学部の化学講義(11)気体の性質

f:id:takahikonojima:20130626190936j:plain(c)フリーメディカルイラスト図鑑

キーワード

圧力,気体定数,全圧,大気圧,力,分圧,分圧の法則,ヘンリーの法則,ボイル-シャルルの法則,理想気体,理想気体の状態方程式

講義内容の要約

  • 力と圧力は別の物理量.力/面積が圧力.
  • 圧力をあらわす単位イロイロ:Pa, atm, mmHg, bar
  • ボイルの法則,シャルルの法則,ボイル-シャルルの法則
  • 理想気体の状態方程式 PV=nRT
  • 分圧の法則←物質量の比は分圧の比に等しい.
  • 人体との関わり(1):肺,組織,静脈中における酸素分圧と二酸化炭素分圧の変化.
  • ヘンリーの法則←圧力を高くすれば気体がたくさん溶解する.
  • 人体との関わり(2):スキューバダイビングやるときは潜水病に注意.

該当する教科書のページ

第9章「気体の性質」,101ページから110ページ.

はじめて学ぶ化学

はじめて学ぶ化学

トピック

1 潜水動物が潜水病にならないしくみ

深海では肺を縮小させて肺の中の空気を気管支に逃がしているためです.昨年の夏にアメリカの研究グループが,血中酸素濃度モニターをアシカに取り付けて,潜水と浮上に伴う血中酸素濃度の変化を測定しました.その結果,水深225 m付近で肺を縮ませ,空気を取り込まないようにしていることがわかりました.

Birgitte I. McDonald* and Paul J. Ponganis, 2012, "Lung collapse in the diving sea lion: hold the nitrogen and save the oxygen", Biology Letters, doi:10.1098/rsbl.2012.0743

和文解説記事→ アシカの潜水病を防ぐメカニズムを解明、米研究/AFP BB News(2012-09-21)

2 風船と加圧減圧装置

3 mmH2O

大気圧下,水銀柱は760 mmまで上昇.水だと約10 m,航空機用軽油だと約16 mまで上昇.普段意識していない大気圧には,それだけの大きさがあるのです.

4 真空中に放り出されたら?

『気を失う直前,舌の上の唾液が蒸発泡になるのを感じた』

5 身の回りの圧力イロイロ

タイヤが1.8 atmから2.5 atm,圧力鍋が2 atmから2.5 atm,炭酸飲料の炭酸ガスが3.5 atmから4.5 atm.ヒール先端の面積1 cm2のハイヒールを履いた体重40 kgの人に足を踏まれると39 atm.

確認問題

計算問題→(11)気体の性質

コメント

●むずかしかった.テストが不安です.●今日もたのしーいな.先生 子供いるって本当ですか? ●受験期(11月)にmmHgという単位を(自分の記憶上では)はじめて聞いてとてもあせったのを思い出しました.化学楽しい!! ●mmHgの正体がわかってすっきりした.潜水病は初めて知りました.人体は化学でいっぱいだと実感しました.●カンのつぶれるのをみて,大気圧ってとても大きい力だとわかりました.計算はむずかしかったです.●海の生き物とかそれぞれの環境に合わせて進化してるんですね.すごいです.●私たちが生活しているときの1気圧がコーラの缶がつぶれるくらいの大きさであるのがおどろきました.●身の回りの圧力が知れておもしろかったです.計算問題難しいです.テストで解ける気がしません.●ヒールって恐ろしいですね.気を付けます.●次から寝ないようにします.●今日はヘンリーの法則のところで人体にもスキューバダイビングの際に潜水病になる過程を学び,化学は,私たちの身体の中で身近におこっているんだなぁと思いました.●圧力によって溶解度が変化するのは面白いと思いました.スキューバで急に浮上しちゃダメだよと言われた理由も分かってよかったです.●化学はやっぱり嫌です(笑)そろそろ辛くなってきました.化学は想像しにくい世界なのでわかりにくいですよね・・・.復習頑張ります!! ●高校の先生より何倍もわかりやすかった.●高校を思い出してつらくなりました.単位をつけるくせをつけたいと思いました.●ボイルシャルルすごくなつかしかった.何も覚えていないけれぞも・・・.●1気圧のすごさを知れて良かった.計算問題が難しかった.●他の人に説明できるようになりたいです.●コーラの圧が意外と高いことにビックリしました! あと,1気圧で缶がつぶれるというのは怖かったです.こんな世界に私たちは生きているのですね・・・.●分圧はとってもきらいです.体積を一定にして計算したりなどなど.ちゃんと授業ききます!●難●いつも何も考えずにストローを使ってたけれど大気の力や真空のことを聞いてちょっとしたことだけどおもしろいなと思いました.●計算むずかしいです!!●難しかったです.●アザラシかわいかったです.有効数字がんばります.

●コーラとかの炭酸を人で作るとしたら,コップ一杯あたり何人が必死に吹き込めば作れるんですか?そもそも可能なのかな?

呼吸をしているのは1 気圧下なので,ここでブクブクと息を吹き込んでもコーラはつくれません.かわりに,コップ一杯(180 mL)のコーラに溶けている二酸化炭素は,呼吸何回分に相当するのかを計算してみました.

  1. 溶解度: 1 atm,25 °Cで100 mLの水に溶けている二酸化炭素は0.145 g
  2. ヘンリーの法則により,4 atmなら4×0.145 g = 0.580 g
  3. 180 mLの中に溶けているのは(1.8)(0.580 g) = 1.04 g
  4. これの物質量は(1.04 g)/(44.0 g mol–1) = 23.6×10–3 mol
  5. 一方,成人女性の呼吸量は1回につき約3 L = 3 ×10–3 m3
  6. 肺における二酸化炭素の分圧は40 mmHgなので,体積の割合は(40 mmHg)/(760 mmHg) = 5.26 %
  7. 一回の呼吸で吐き出される二酸化炭素の体積は(3×10–3 m3)(0.0526) = 0.1578×10–3 m3
  8. コレの物質量 n = PV/RT= (1013×102 Pa)(0.1578×10–3 m3)/{(8.314 Pa m3 mol–1 K–1)(310 K)} = 6.20×10–3 mol
  9. 23.6×10–3 mol / 6.20×10–3 mol = 3.81≒ 4

っていうわけで息を4回吐いたときに含まれる二酸化炭素と同じくらいの量がコップ一杯のコーラに溶けている計算になります.

なお,大気圧下で気合いを入れて水にストローをさしてブクブクやっても,せいぜいガス抜け状態のコーラ程度の炭酸水ができるくらいです.また,上記の計算では吹き込んだ二酸化炭素が全て吸収されると仮定してありますが,実際には吹き込んだ気体の一部が吸収されるだけなので,仮に大気圧が4 atmだったとしても,4回呼吸しただけではコーラと同程度の炭酸水にはなりません.

次回予告と予習内容

「化学反応と熱エネルギー」を学びます.教科書の111ページから122ページを読み,例題を解いておくこと.

出席者数推移

(1)32→(2)30→(3)31→(4)31→(5)31→(6)30→(7)30→(8)31→(9)28→(10)30→(11)28