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Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

理系大学では英語を使う

「理系の大学に滑り込んだぞ! これで苦手な英語から逃げ切った! セーフ!」なんて考えている1年生のあなた,それは甘い! 先に言っておこう.平均的に考えると,いわゆる文系学生よりも理系学生のほうが,道具として英語を使う機会が多いんだよ.英文学科とか英語学科とか,国際なんとか学科なんかは別かもしれないけどね.

それを実感するのは,無事に最終学年まで進級し,卒業研究に取りかかるときなんだ.今日はそのハナシをしよう.というのは,最終学年に進級したときの心の準備になるかもしれないし,1年生や2年生で履修する英語の授業を,数年後の自分の研究に役立たせるヒントが得られるかもしれないからね.もちろん,何の役にも立たないかもしれないけど.

卒業研究が始まると,研究テーマに関連する資料をイロイロと読むことになるんだ.資料はたいていの場合,英語で書かれた学術論文だ.日本人が日本国内で行った研究でも,その報告は英語論文となって公開されるんだよ.なんで日本語で書かないのかっていうと,日本語を読めるのはこの世界で少数派だからさ.世界人口70億人のうち,日本語の読み書きができるのは1.3億人だけだからね.

で,辞書を片手に英語論文を読んで行くんだけど,英語で書かれた科学論文っていうのには,慣れるまでは何かヘンだなーと感じるところがイロイロあるんだ.今回はそいつを紹介しよう.

まず,やたらと受動態が続くのでヘンな感じがするんだ.いわゆる「受け身」っていうやつ.たとえば「その濃度を計った.」と書くとき,「I measured the concentration.」とは書かないで,「The concentration was measured.」って書く.なんでかっていうと,ここでは「濃度」について述べているのであって,誰が計ったのかはどうでもいいからだ.あなたでも私でも彼でも彼女でもいいわけ.科学論文は受動態.コレ,覚えておこう.

次,現在完了形がやたらと出てきてヘンな感じがする.たとえば温度を計ったことが,「Temperatures have been measured.」なんて書かれている.なんで「have been measured」などという面倒な表現をするのかって? 別に,英文法で苦戦したあなたをいじめるためじゃないよ.こういうことなんだ.もしも複数の温度測定を一度にやっつけたのであれば,ここは「Temperatures were measured.」となるだろう.でも,実際には一度に温度の測定が片付くことはなくて,一回測定してしばらくしてからもう一回測定して,ということが時間をかけて続けられるわけだ.これを表現するために,過去形ではなく,現在完了型を使うんだよ.もちろん,何点もの温度測定データが一度に得られる場合は別だけど.

ん?「temperatures」!? 複数形?「temperature」は「温度」だけど,温度の「複数形」って何だろう? なんてことに気づいたあなたは,少しは英語の勉強をしたってことかな.これは間違いじゃないんだよ.ここで話題になっている「温度」は,測定点一つ一つを意味するからさ.たとえば温度測定グラフのカーブの上にぽつりぽつりと乗っかった点,これの一つに相当するんだよ.点は数えられるよね.だから複数形で書くわけ.難しく言うと,「可算名詞でも不可算名詞でもある単語」ってわけさ.

と,こんな具合に,科学論文にはイロイロな習慣があるんだけど,それに慣れて来た頃には研究もまとまり,めでたく卒業っていうわけさ.でも,「さようなら英語論文よ!」なんて悲しまなくてOK.卒業後も研究職や技術職として活躍していくあなたは,これからもずーっと英語の文章と付き合って行くことになるからね.そういうのを国際化社会っていうんだよ.世界が相手だ! グッドラック!
(化学単位・講師*1

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英国王立化学会発行の専門紙一面で紹介された筆者の研究成果.Reproduced by permission of The Royal Society of Chemistry.

北里大学一般教育部基礎教育センターが発行して必修英語履修者全員に配布している学内紙「The Foreign Language & Culture News」から依頼されて書いたエッセイです.2012年6月発行の,第15号1面に掲載されています.

タイムライン上のみなさまの声*2


このブログを書いている人

www.tnojima.net

*1:追記:2014年4月に准教授になりました.

*2:追記:2015-06-08