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Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

研究紹介セミナーを開きました

本日16時から17時までの一時間,一般教育部の教員を対象とするセミナーで私が取り組んでいる研究を紹介させていただきました.

当初の計画を変更して,前半の1/3を基礎的な説明にあてました.

生体高分子の世界

核酸,蛋白質,糖鎖といった分子が生体高分子です.酸素や窒素や水や二酸化炭素と比べると,数百倍から数千倍,数万倍の分子量をもつ物質です.例えばDNA二重らせんの直径は2 nmほどになります.

と,具体的なサイズを出されても,分子の研究をしている人でないと(研究している人であっても),具体的にどれくらいなのかはわかりません.そこで,物体のスケールを10倍ずつ拡大していく動画「Power of 10」を使って.分子の世界を紹介しました(化学講義の第1回目で紹介している動画でもあります).

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このスケールの世界ではどのようなことが起きているのでしょうか?

たとえば情報を物質に変換するプロセスが起きています.それが蛋白質合成系です.DNAに記録された情報がmRNAに転写され,これにもとづいて蛋白質が合成されます.このわかりやすく説明した動画があったので,これも紹介しました(ポリペプチド合成の最終段階がアレなんですが,まあ,いいでしょう).

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こうして合成された蛋白質は,生体中でさまざまな働きを担っています.人間の場合,2万種類以上の蛋白質が存在すると見積もられています.いろいろないきものが共通して持っている蛋白質もあれば,ある種のいきものだけが持っている蛋白質もあります.たとえばオワンクラゲがもっているGFPという蛋白質は,青色光を照射されると緑色に光るという変わった性質を持っています.

一方,DNA自身も,細胞分裂のたびに複製されています.二重らせん構造であることを活かして,同一分子を複製し,子孫に伝えて行くしくみがとられています.

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こうしたメカニズムを理解するためには,実際に試験管の中で,生体中と同じ反応を行ってみせる必要があります.DNAの複製,DNAからmRNAへの転写,mRNAからの蛋白質合成,に関してはすでに再現することができるようになっています.また,DNAを増幅反応によって増やす技術も開発されました.それがPCRです.

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なぜPCRのようなDNA増幅法が必要なのでしょうか.それは,ある程度のまとまった量が無ければ成り立たない検査や実験というものがあるからです.PCRを用いれば,1セットのDNAからでも分析検査に十分な量のDNAを得ることができます.実際にDNA鑑定や感染症の原因特定にはPCRが用いられています.

生体高分子を組み合わせる化学研究

人間はさまざまな部品を組み合わせることによってさまざまな道具や機械を創ってきました.共通する部品であってもくみあわせが変わると全く別の道具や装置になるものです.これと同じ考え方を分子の世界で進めることが私にとって興味のある研究領域です.

分子部品から分子システムをくみたてる研究.

たとえばPCRは2種類のプライマーDNAが反応系に加えられることが反応開始の必要条件となっています.このことは,PCRが2種類のプライマーを入力シグナルとし,DNA増幅反応の生成物を出力シグナルとするAND論理素子としてとらえられることを意味しています.

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DNA増幅反応の下流に蛋白質合成反応系を「接続」すれば,出力シグナルは蛋白質の有無として観測できます.その蛋白質としてGFPを選ぶことによって,緑色の光が生じる/生じないによって増幅反応の有無を確認できるしくみを構成できます.

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この考え方をバリエーション展開し,AND,OR,NOT,およびAND-NOT演算に対応するDNA増幅システムもデザインしました.それぞれ鋳型DNA内にプライマー会合領域をうまく配置することによって,ANDタイプとは異なるパターンのDNA増幅が可能になります.

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反応系4種類(AND,OR,NOT,AND-NOT)と,2種類のプライマーのくみあわせ4パターン(プライマーなし,片方のみ2種類,両方)のかけあわせ16パターンを一括動作確認した結果がこれです.理論値通りの動作がみられます.

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人間は自然界から様々な物質を見いだして社会に応用してきました.自然界における存在形態からは想像できないような用途に応用される場合も珍しくありません.

同じように,いきものの身体の中には様々な生体高分子が存在しており,生命現象を支えていますが,それらを取り出し,人工的にアレンジすることによって,細胞システムとはまったく異なるシステムを組み立てることもできます.この研究は,そういう可能性を示す一つの例です.

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