Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

2011年度化学講義の方針

2011年度の臨床工学専攻(化学必修)および診療放射線技術科学専攻(化学・物理学・生物学から2科目選択)を対象とする化学講義(水曜1限,通年)の講義方針を公開します.同じ内容のものを印刷して初回に配布します.

1. 目標:この科目で身につけたい能力

  • 2年次以降の専門科目を理解するために助けとなる,化学の基礎的知識と考え方
  • 生命現象および医療技術に関して自ら学び続けていくために必要となる,化学の基礎的知識と考え方
  • 分子の視点から世界をみわたす視点を習得するために求められる,化学の基礎的知識と考え方
  • 三大撲滅対象→モル嫌い・水溶液濃度計算嫌い・有機化合物嫌い

2. スケジュール

  1. 4/13 序論
  2. 4/20 物質の構造と性質
  3. 4/27 化学とエネルギー ←「エネルギー」のわからない技術者なんて
  4. 5/11 原子の構造(1)
  5. 5/18 原子の構造(2)
  6. 5/25 原子の結合(1)
  7. 6/1 原子の結合(2)
  8. 6/8 原子の結合(3)
  9. 6/15 原子の結合(4)
  10. 6/22 化学反応式とモル ←モルを攻略する人生最後のチャンス
  11. 6/29 物質の状態 ←エアコンや冷蔵庫の原理も説明できない技術者なんて
  12. 7/6 化学平衡(1) ←実は体内の生化学反応のほとんどは平衡反応
  13. 7/13 化学平衡(2)
  14. 7/20 放射能と放射線 ←診療放射線の基礎(RT!)
  15. 7/27 試験および解説
  16. 9/7 水溶液の化学(1) ←体重の半分以上は水の重さ
  17. 9/14 水溶液の化学(2) ←人工透析はどんなしくみなのか(CE!)
  18. 9/21 水溶液の濃度(1)
  19. 9/28 水溶液の濃度(2) ←濃度計算を習得する人生最後のチャンス
  20. 10/5 酸と塩基 ←呼吸とか排尿とか血液とかがつながる化学
  21. 10/12 有機化合物の世界 ←医薬品の多くが有機化合物
  22. 10/19 炭化水素
  23. 10/26 芳香族有機化合物 ←薬品合成のロジック
  24. 11/2 酸素を含む有機化合物(1) ←消毒のアルコールも麻酔のエーテルも
  25. 11/9 酸素を含む有機化合物(2)
  26. 11/16 窒素を含む有機化合物
  27. 11/30 ポリマーの化学 ←これからも開発されて行く医用高分子材料
  28. 12/7 医療を支援する化学 ←化学の発展が医療を発展させている
  29. 12/14 10年後の化学 ←あなたが技術者として活躍している時代の化学は?
  30. 12/21 試験および解説

●上記スケジュールは変更となる可能性がある*1
●20回目の「酸と塩基」までは指定教科書にほぼ沿ったかたちで講義を進める.21回目の「有機化合物の世界」以降は,資料を配付する.

3. 成績評価

  • 最終成績:前期試験と後期試験の合計点が120点以上で可,140点以上で良,160点以上で優.
  • 試験は100点分以上を出題するので,100点分を選んで解答する.100点分を超えて解答した場合,正答していれば成績評価に加算する*2.誤答してもマイナスにならない.
  • 試験の2週間以上前に「模擬問題+解法+解答例」を配布する.
  • 100点分を超えて出題される問題は,講義時間内に公開する.この問題は比較的に難易度の高いものであるが,前もって準備しておけば点数獲得できるものでもある.準備していないと? →まずダメでしょう.
  • 合否ボーダーラインの履修者に対しては,リアクションペーパー記載内容,提出物の提出状況などを参考にする場合がある.これらが成績評価において不利に働くことは無い.
  • 通年成績で合格ラインに達しなかった者に対する救済処置*3は一切行わない*4
  • 通年科目において前期試験の得点が60点に達しない場合,いったん不合格との結果が出される.しかしこれは最終的な成績が不合格となることを意味しているわけではない.後期に高得点を獲って逆転すればよい.昨年度も前期不合格から再出発して通年評価を優にした者がいる*5

4. 大学の試験で苦戦しないために

  • 高校までの成績優秀者が大学入学後に行われる試験で苦戦することが多い.以下にその主な理由と対策を記す.
(1)「計算問題で数値が割りきれず戸惑った」
高校までは割り切れる数値がテストに用いられている場合が多かった*6.また,数値の代わりにx, y, zやa, b, cといった記号を用いる問題も多かった*7.しかし現実の世界では「実際の数値」を用いて計算を行う場合がほとんどである.そういうわけで,大学でも割り切れない数値を用いた計算問題があたりまえのものとして出題される.これに慣れるためには,数値を用いた計算問題を解いて行く必要がある.化学講義においては教科書中の計算問題の中から取り組んでみる必要のあるものを指定し*8,解法と解答を記したプリントを配布するので,これに自主的に取り組むこと.
(2)「記述問題で何を書いて良いのかわからず戸惑った」
物事を他人に説明する能力が無ければ医療従事者はつとまらない*9.だから新しく何かを学んだときには,「それは要するに何なのか,どういうことなのか,なぜなのか」を説明できる状態にしておくことが必要である.記述試験は,そのように学ぶ姿勢が身についているかどうかを確認する試験でもある.
(3)「試験範囲が広く準備が間に合わなかった」
高校までは学期毎に中間試験や期末試験があったが,大学では学期の終わりにまとめて到達度を確認する試験がほとんどである.高校の定期試験の2倍〜3倍程度の内容が一度の試験範囲となる.そして科目数も多い.一夜漬けではどうにもならない.前倒しで計画を立てること.

5. その他

  • 高校化学Iを履修しなかった者には「化学要習」の履修を強く勧める.
  • 高校化学が不得意だった者にも「化学要習」の履修を勧める.
  • 高校2年までの数学(および算数)を習得していることを前提に講義を進める.「指数計算」,「対数計算」,「小数・分数の四則計算」,ができない者は学習サポートセンター(ASC)の数学担当チューターに相談に行くこと.これらができないと医療技術者になれない(そもそも工学系の学科を卒業できない).
  • 野島の担当する化学履修者で,化学1科目だけが不合格となった者はこれまでに1人もいない.複数科目が不合格となる者のうちの何割かが化学「も」不合格となっているのが現状である.
  • 野島の居室はL1の5階にある化学研究室である.質問,相談,その他を歓迎する*10

6. 情報の公開

ウェブサイトにより情報を公開している.
講義で紹介した情報へのリンク,講義録,配布物の電子ファイル,2009年度以降の定期試験問題と解答,その他関連情報を公開している.http://www.takahiko.info/
Twitterでも関連情報を配信している
@TakahikoNojima

リンク

www.tnojima.net

このブログを書いている人

www.tnojima.net

*1:特に今年の夏は電力不足で停電となる可能性がある.これに伴って講義日時が変更となる可能性が生じる.休講が発生しても通年で30回の講義回数は確保する.

*2:前期の得点が例えば110点になったら,前期の点数は100点として,残り10点分は後期に加算する.前期と後期で200点を超えたら→超えても何も困りませんよ.

*3:再試験や追加レポートなど,なんとかして単位を与えるための処置のこと.

*4:成績評価方法に書いてあるとおり,2回の試験に前もって救済処置が盛り込まれているので,さらに救済処置をするとなると「救済処置の救済処置」になってしまうからダメ.

*5:本学では保護者に試験結果を郵送している.夏休み,教育熱心な保護者から試験結果について説教されるような事態に陥ったとき,「通年科目における前期試験点数の位置付け」が説明できないと苦戦を強いられる.

*6:割り切れない数値を出題すると,四捨五入のやり方によって答えが変わってきて,正答を選ぶ問題がつくりにくいという事情.

*7:マークシート試験対策

*8:教科書にあるすべての問題に取り組む必要はない.たとえば「オンス」や「ポンド」などの単位を用いた計算問題は,日本では必要ない.

*9:たとえば痛みや苦しみを伴う治療を受ける患者があなたに「これ,何のためにやるんですか?」とたずねてきたとしよう.あなたが下手な説明をしたら,患者は不安に感じ,治る病気も治らなくなってしまう(かもしれない).

*10:ほぼ確実に「いない」時間帯→講義や実習があるとき→授業期間内の,水1,水5(前期),木2(前期),木午後,金2,金午後.