Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

看護学科の化学講義(21)芳香族化合物

履修者46名中44名出席.出席率96 %.今回は難易度高めの内容ですが,ここを過ぎればまた元に戻ります.

前回の講義に関する感想コメント質問その他なんでも

詳細は前回の講義録参照↓

配布物

原子を「見る」

前回,「原子はどんな姿をしているのだろう」というコメントがありました.タイミングよくその直後に東京大学の研究グループが,水素化バナジウムを「見る」ことに成功しました.これを紹介.

また,これと関連して1年前にIBMの研究グループがとらえた,有機化合物の姿も紹介しました.

●原子が見えるなんてすごいですね! 信じられないです! 将来どこまで見えるようになるのか楽しみです.

●人類が原子を見ることができるようになったんですね!! すごいと思いました!! l高校の化学よりも深い内容が分かってよかったです.

芳香族化合物

共役二重結合を構成する6個の炭素原子をリング状につないだ分子がベンゼンです.ベンゼンが正六角形構造をしていることは実験からわかっています.化学式では単結合と二重結合を交互に書きますが,実際にはどの結合も同等のものであり,1.5重結合していると解釈することもできます.こうした状況の分子を記述するために用いられる方法が「共鳴」です.ベンゼンの場合について共鳴の概念を解説しました.

●なんかベンゼンよくわかんないです

●芳香族化合物ちょっと難しいです.手が移動するのとかよく理解できなかったです.

●芳香族は去年頑張って勉強したけど結局わからなかった覚えがあります.でも今日なんか分かったような気がします! もう一回有機詳しくやったらちゃんとできそうです.

●芳香族化合物は受験のときにすっごくがんばっていたのに全然覚えていなくてショックでした.

●芳香族化合物って良い香りのするヤツですよね!? ベンゼンをいっぱい書きすぎて今日は大変でした.おかげで六角形が上手に書けるようになりました.

●六角形が納得する形で描けません!

●ベンゼン書くのむずかしいです.五角形になっちゃいます.

●絵が下手なので図をかくのが大変でした.

六角形を美しく書くことは有機化学の本質ではないわけですが.

●ベンゼンの二重結合の部分は書くときにくっつけるように言われていたんですが,どっちでもいいんですか?

ホントはくっつけて書きます*1.が,そういうことを意識したことはありません.有機化学の専門家でもテキトーに書いていますよ.

ベンゼンでは6個の炭素原子が平面状に六角形をつくり,その平面を上下から電子雲が挟むかたちをとっています.この電子雲は6個の電子から構成されており,強い負電荷をもつ領域となっています.これをベンゼン環のπ電子雲と呼びます.

ここに正電荷をもつイオンなどが接近すると,π電子雲にトラップされます.続いてベンゼン環内の炭素原子のどれか一つとの結合が生じ,続いて,その炭素原子に結合した水素がH+として切り離されます.これが芳香族における置換反応です.

たとえば

C6H6 + Cl2 → C6H5Cl + HCl

●もうちんぷんかんぷんです.テストでベンゼン環書かせたりしますか?

●もうちんぷんかんぷんです.結局何をしているのか全くわかりません.復習します.

●友達がベンゼンを定規で書いていて隣でびっくりしました.

●ベンゼンの置換反応のしくみなんて考えたこともなかったです!1つの式なのに裏では複雑なことをしているんですね.

●ベンゼンの反応のところで,+の電荷をもったClというのがありましたが,+の電荷をもったClってどういうことですか?ClってイオンじゃCl-だけど,分子になるとどう変化したのでしょうか?

Cl2 → Cl- + Cl+

Cl-を触媒に持っていかれるので,Cl+が残ります.くわしくは次回.

●ベンゼンについて高校では名前くらいしか知らなかったので,深くもっと理解できるようにがんばります.顔みたいで可愛いので頑張って書きます.

●私の高校にはベンゼンくんというキャラがいました!

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ベンゼンくんとo-キシレンくんとo-ジクロロベンゼンくん.

合成ルートの選定

ベンゼン環を基本構成要素として,ここに様々な置換基を導入して行くことによって,薬剤などの有用物質を組み立てて行くことができます.しかし,必ずしもベンゼン環の好みの位置に好みの置換基を導入できるわけではありません.一つ目の置換基を導入すると,二つ目の置換基が導入されやすくなる箇所,導入されにくくなる箇所ができるからです.これを配向性と呼びます.配向性の現れるしくみについて,フェノキシドイオンおよび安息香酸イオンの共鳴構造をもとに解説しました.前者においてはo-,p-位が電子密度を高くするため,ここに置換基が導入されやすくなります.

一方後者においては,o-,p-位の電子密度が減少するため,消去法でm-位に置換基が導入されることになります.

こうした性質を理解することが,有機合成化学の基本になります.たとえばベンゼンを出発材料に安息香酸を合成するルートを考えてみます.安息香酸には-OH基と-COOH基がo-の位置関係で存在しています.どちらを先にベンゼン環に導入すればよいでしょうか?

(1) ベンゼン→安息香酸→サリチル酸

(2) ベンゼン→フェノール→サリチル酸

(1)の場合は-COOH基からみて置換基が導入可能なのはm-位だけです,そのためサリチル酸を合成することはできません.

一方(2)の場合は-OHからみてo-位およびp-位に置換基を導入できます.そのため,o-位に-COOH基を導入することが可能です.

というわけで,合成ルートは(2)が選ばれます.

●化合物合成はルートによってできたりできなかったりして,模索するのは大変そうですね.

●ベンゼンがどう変化していくのかや,電子の動きがよく分かった.でも問題になったら100 %解けないと思いました.たくさん書いたので頭に残っているといいなぁ・・・

●石炭酸が初めての手術に使われていたんですか!!初めて知りました.

●構造異性体について,型がちがうだけで沸点が違ったり,毒であったり,薬品であったり,成分が同じなのに不思議です.

●今日はとても寒い日です.化合物の合成でかなり変化しててびっくりしました.

●o-, p-配向性,m-配向性がよくわかりませんでした.

●今日,理解するまで頭がついてきませんでしたぁ.

それではベンゼンからサリチル酸や,サリチル酸誘導体のアセチルサリチル酸(アスピリンの主成分),サリチル酸メチル(サロメチールの主成分)を合成する際,分子はどのように反応するのでしょうか.電子の流れから見て行きました.ここは黒板に書くと写すのが大変だし,写して覚えるのは本質ではないので,スライドを使って手短に解説しました.

これまでに(1)付加,(2)脱離,(3)置換,を見てきました.今回は(4)転位,が加わります.クメン転位.ここで登場.

●薬を作った人はすごいと思った.

●高校でも配向性やっていたので,クメン法はよくわかりました.電子の流れだけで説明がつくというのは,かなり納得でした.ただ,見ている途中でよくこれだけのつなぎかえを人はやったものだと感心してしまいました.

●3年前の今ころ,クメン法とか一生懸命覚えたなって思いました.

●ベンゼンからサリチル酸をつくるというような有機化合物どうしの関係をまとめたような図をテストのためにひたすら覚えていましたが,授業でしくみをわかってくると,よりわかりやすく覚えられるなと思いました.

●化合物の合成はパズルみたいで考えるのがおもしろかったです.自分でも,まずは簡単な物質から,フェノールと安息香酸の例をもとにして考えてみたいと思いました.

●安息香酸の匂いって嗅いでみたいです.

●有機っておもしろいなーと思った1日でした.バファリンってやさしいですよね.

●薬品の合成,興味深いです.薬学部の人は大変そうだなと思いました.

●スライドでみたやつ,すっごく複雑です.製薬会社の人,すごーい.

●クメン法なつかしかったです.高校の時,芳香族化合物のところが大好きでした!!

●フェノールから安息香酸をつくるのところ,速くてくわしくみれなかったので,もう1回みたいです.

反応メカニズムのスライドをダウンロードできるようにしておきました.PowerPoint形式のファイルです.以下のダウンロードページにリンクしてあります.

全般

●化学がだんだんと難しくなってきています.でも,嫌いじゃないですよ! 頑張ります!

●書くのに必死で理解できませんでした。。。全然わかってないと思うので復習します.

●書く量が思ったより多かったです.ベンゼンとかが多くて模様に見えてきた.

●最近ややこしくてどこが分からないのかも分からなくなってきました.テストかなり不安です.とりあえず復習がんばります!!

●今日やったところとかは,高校でやっていないところなので,テストが心配です.

●カメレオンってハエ食べるんですね.

●δの理由がはじめてわかりました.

●時計が壊れた

●1年ってはやいですね・・・.

●全然関係ないんですけどメッチャおなかすきました(;ω;)

●韓国語が全く話せないし読めないけど韓国に行ったことがあります.コンビニでおにぎりを買おうと思ったら具の表示が韓国語であきらめました(笑)

●私もシンガポールに行ったことがあります! マーライオン!

●カーナビのしくみの説明がおもしろかった.

質問

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いくつか理由があるのですが,わかりやすい理由をひとつ.もしもOH-が置換反応を起こすとすると,H-が抜けなければなりません.H+と違ってH-を抜くのはタイヘンなので,負の電荷を持ったイオンはベンゼン環を攻撃できません*2.ベンゼンからフェノールをつくる際には,-OHを直接入れるのではなく,正の電荷を持ったパーツを入れ,それを-OHに変換する,という方法がとられているのです.

●メインで有機で覚えるのは構造の名前や作り方でいいんですよね?

そうです.構造式と名前の関係は,すでに配布してあるプリントに書かれている範囲でOKです.50個書いてあり,いずれも医療に関係する仕事をするうえで役にたつものを選んであります.

●電子レンジのニンジンの話をきいて思い出したのですが,前にこげはDNAを破壊すると聞いたんですけど,それって本当ですか?

DNAを破壊するっていうのはちょっと違います.コゲの中に含まれる成分で,DNAに強く結合するものがあります*3.こういうものがあるとDNAの複製やDNAからの情報読み出しがうまくいかなくなります.また,複製されたDNAは誤った情報をコードします.

●このごろ肌が乾燥してしまって困っています.何か良い方法知ってますか?

保湿剤入りのクリームやローションが良いかもしれません.体質があるので自分に合ったものを探しましょう.

●寝たくてたえられません.何か短い時間でできることはありませんか?

昼にコーヒーを飲むと午後の講義で寝ずに済むことがわかった,という声がありましたね.こういうのをイロイロとためしてみましょう.

●最近ちゃんと寝た気がしません.深く眠れる方法はありませんか?

体を温めてからフトンに入るとか,午後はカフェインを摂らないとか,イロイロ探してみましょう.

●アルコール消毒って病院とかでよく行われているのですが,なぜ,他の薬液ではなくて「アルコール」を使用するのですか?

アルコールは蒸発して何も残さないし,人畜無害*4だからです.

●同じ効果のある薬なのに,成分や量が違うのはどうしてですか?

同じ効果があっても,効くしくみが違う場合があります.そうなると必要量が変わってきます.ひとつの症状が現れるためにはいくつかの条件が重なっている場合があります.そういうときは,どれか一つの条件をクリアすればOKということになり,いくつかの種類の薬のなかから選べることになります.

●フェノールと安息香酸の電子を与えたり引き寄せたりする反応がよくわからなかったです.+や-が電子の移動とともに変化するのはなぜですか?

電子は-の電荷をもっているので,電子をつかまえた原子は-電荷を帯びます.反対に,中性の原子から電子が出て行くと,残った原子は+電荷をもちます.だからです.

●電磁機器の近くで寝るとよくないと言われたんですけど,私ひとり暮らしで部屋一つしかないのでそんなこと無理って思いました.やっぱり電磁波がよくないんですか-?

家電製品の電磁波がまったく無害であるという証明はなされていません.スイッチをonにした電子レンジを抱きしめる習慣,なんてものがあれば話は別ですが,家電製品レベルの電磁波を気にする必要はありません.もし問題があるのなら今頃世の中は大騒ぎ,町中に病人があふれていて,メーカーは製造とりやめになっています.

●先生は学祭のとき何してましたか?

土曜日にちょこっと様子を見にきました.

次回予告

2回に分けて「酸素を含む有機化合物」の世界を見に行きます.来週はアルコール,エーテル,ケトン,アルデヒド,カルボン酸を扱います.医療分野と密接に関連する領域です.

リンク

www.tnojima.net
www.tnojima.net

*1:私もいつかどこかで「くっつけて書く」と教わった記憶があります.しかし,化学者御用達の化学構造ソフトウェアにベンゼンを書かせると,くっついてないんですね.くっつけて書くのが正式というわけではない模様です.

*2:芳香族求核置換反応は別のハナシ

*3:芳香環複数個が連結された有機化合物で,DNA塩基対と塩基対の間にはさまりやすいもの.

*4:アルコールがダメな体質の人を除く