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Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

看護学科の化学講義(18)pHと緩衝溶液

前回の講義に関する感想コメント質問その他なんでも紹介

くわしくは前回の講義録参照↓

化学関連ニュース: はやぶさのカプセルの中の少量サンプルをSpring-8で分析

小惑星探査機「はやぶさ」については前期中から講義の冒頭で紹介してきました.はやぶさが持ち帰った地球の外にある試料を分析するためには,最先端の分析化学的手法が使われる可能性が高く,化学の応用という面から興味深いからです.今回,小惑星イトカワで採取された微量サンプルかもしれない微粒子に対して,SPring-8での分析が行われることになりました.そこで,これまでの進捗状況と,SPring-8についての説明をしました.

講義内容関連トピック(1)ハンガリーで有毒泥土流出事故発生・pH13

ハンガリーでアルミニウム精錬工場の大型貯水池の堤防が決壊し,6億リットルから7億リットルの有毒汚泥が周辺に流れ出しました.汚泥のpHは約13で,きわめて危険な状態です.実際,死傷者の出る大惨事となっており,廃液はドナウ川にも到達しています.環境汚染が黒海まで広がる恐れが出てきました.

講義内容関連トピック(2)酸性河川中和事業・pH1.2

人災によって河川のpHが変化する事態は避けたいものですが,その一方で天然にある状態でpHが中性から大きく外れている河川も存在します.その一つが群馬県を流れる吾妻川です.この川の水源は硫酸酸性(pH 1.2)の火口湖なので,川の水は強酸性です.このために農業用水に使うこともできず,橋や堤防の建設にも制限が生じていました.そこでこの河川を石灰で中和し,下流にダムや堤防などを建設工事可能にしつつ,農業用水などにも使えるようにしようと考え,河川中和施設がでつくられました.

●川を中和してしまうなんてすごいですねー.硫酸の川が存在することにも驚きました.H+が大切な数値だということを感じました.

水の溶解度積Kw

純粋な水中においては,25 ℃において

[H+]=1.0×10-7 mol L-1

であることが実験的にわかっています.

そしてこれと同物質量のOH-が存在しているので,

Kw=[H+][OH-1]=(1.0×10-7 mol L-1)2=1.0×10-14 mol2 L-2

が成り立ちます.

このKwを,水の溶解度積と呼びます.

pH (p319)

pH=-log10[H+]

で表される数値がpHです*1.25℃において純粋な水ではpH=7になります.

対数で表示して符号を逆転させて,という変換は,慣れるまで混乱しがちです.こういう,一見めんどうくさそうな操作をやるのには理由があります.その理由については,すでに配布してある以下のプリントに記載してあります.

●今までKwの計算を高校のときに問題を解くためにしか理解していなかったので,今日の授業で,理論的な部分がわかって,よかったです.

●pH,pOHとよくひっかけで出されていたものです・・・.なんだか! とってもやさしいけど,テストだけはものすごく意地悪でした.

生体の緩衝系 (p327)

私たちは様々なものを食べ,様々なものを飲んで暮らしています.酸性のものもあれば塩基性のものもあり,いったん口にすれば体内に広がって行きます.それでも,生体内の[H+]は一定の範囲に保たれています.これにはどのような仕掛けがあるのでしょうか.

体内の[H+]を一定の範囲に保つ仕掛けが生体の緩衝系です.炭酸系とリン酸系が主に活躍しています.炭酸系では呼吸を利用して炭酸ガスを排出することによって[H+]の変化を和らげています.また,尿からのHCO3-1排出も利用しています.ここにはルシャトリエの原理がはたらいています.リン酸系ではH2PO42-を尿から排出することによって[H+]を保っています.じつにうまくできた仕組みです.

●すごいわかりやすかったです!! 昨日の看護の授業で同じようなものをやったのですが,この授業を聞いてから看護の方をうけたかったです・・・

●先生の授業,すっごく分かりやすい!って改めて思いました!! pHの話,今まで大っ嫌いすぎて,板書も写すだけ写して理解なんてしていなかったのですが,logとの関係も,もう大丈夫な気がします.

●緩衝系の話はタイムリーすぎて驚きました(笑) おととい習ったばかりなんです.でも字がいーぱい書いてあって,全くわけがわからない教科書で・・・.感謝です! ありがとうございます!!

●身体のpHを保つ仕組み,わかりやすかったです.人間の身体ってすごいですね!

●身体のpHを保つ仕組みを聞いて改めて身体構造はすばらしいと思いました.

●人の身体って(生物って)すごく敏感なんですね.本当にいろいいろな作用があってすごいなと思いました.

●専門科目で習ったしくみがつながって分かった気がしました.

●身体のpHを保つしくみは,この前 基礎看護科学の授業でやりました! でもその時は全くわかりませんでしたが,今日の授業で理解できました.わかりやすかったです.

●生体中のpHはつい最近,看護で習いました.尿が酸性である理由も習ったばかりだったので,関連づけやすくてわかりやすかったです.看護で[HCO3-]とかもlog使ってました.logって大切ですね.

●CO2 + H2O = H2CO3 = HCO3- + H+ のところは基礎看護の授業でもやりました.でも,良く理解できていなかったので,今回の説明でよく分かりました.ありがとうございます.

●今週の水曜の看護の授業で,緩衝系の話が出てきたのですが,いまいちよくわかりませんでした.でも今日の授業で少し理解できたような気がします!

●今日の授業で緩衝系の話があり,看護の授業とつながりました.尿は酸性だと(pH7以下)きいたとき,炭酸系,リン酸系でそれぞれH+とOH-が増えた場合に,どちらもHCO3-,HPO42-,H2PO4-などのような酸が尿には含まれるからなのかな,と思いました.体の中では酸が合成されていると習って,実際にH+ができていることがつながりました.だから体をアルカリ性に保つために尿は酸性なのだと思いました.また,看護の授業で,尿を排泄できない人は死んでしまうといっていたので,それは身体のpHを保つ機能が働かないことを意味するのだな・・と改めて学びました.

●今日やった体内のpHのしくみ,水曜日の看護でやったそのものでした.おまけに教科書の文章がキレイにまとめてあって,大変わかりやすい.復習になりました.

●身体の仕組みは本当にうまく出来ていてすごいと毎回思います.

●身体のpHを保つしくみで,人間の身体ってすごいなぁと思いました.

●緩衝系って初耳な単語でした.

●緩衝系って複雑ですね.

●生化学でちょっと出てきましたー!

●pHについてやりましたね.身体のpHを保つしくみを知れてよかったです.この前,別の教科でいまいち分からなかった部分が今回の授業でよくわかりました.

●身体のpHを保つしくみ面白かったです!! 身体中でこんな化学式が成り立って平衡運動しているんですね-.人間の身体ってうまくできてますね♪

●身体のpHを保つ仕組み,面白かったです.この前 看護の授業でやったことにつながって良い勉強になりました.

●体はいろいろと都合のいいようにかえられるんですね.

生体中の緩衝系は,人体のしくみを理解するために重要な項目のひとつです.そのため,専門科目でも学ぶことになります.化学の視点から眺めた場合と,医療の視点から眺めた場合とでは,同じ現象であっても位置づけが異なってくる場合があります.そうやって多面的にものごとをとらえていきましょう.

科学的に考える (p12)

「生命がいる確率は100 %」と報道された惑星が太陽系外に発見されました*2.「100 %」との意見を述べているのは研究チームの一人だけであり,関連分野の専門家は,それは言い過ぎであるとの態度を取っています.わずかなデータに基づいて「100 %」と断言することは科学的に正しい行為でしょうか.そもそも「科学的に正しい」とか「科学的な考え方」とは,どういうものなのでしょうか.この機会に考えてみることにしました.

科学は人間の営み

科学は世界のしくみを理解しようとする人間の営みのひとつです.多くの場合その営みは,

「観察」する→観察にもとづいて「仮説」を立てる→仮説が正しいか正しくないかを「検証」する,

という3段階から構成されています.検証してみた結果,足りない情報があれば観察を繰り返し,その結果に基づいて仮説を修正したり適用範囲を明確にしたりして,再度検証します.これを何度も繰り返しているうちに,様々な事例に対して仮説が当てはまることが広く知られるようになり,また,予測を立ててその結果を高い精度で的中させることができるようになります.こうして仮説は「理論」へと昇格します.

セルフチェック機構

「真実への探求を目指すのだから,科学も宗教も,本質は変わらない」というような主張をするヒトがいますが,これは誤りです.科学には仮説を検証する操作がはじめから組み込まれています.「疑ってはならない絶対的な前提」というものが存在しないのです.一方,宗教において至高の存在に疑いをもったら破門ですね.それそれ異なる考え方なのです*3

条件付きの真実

さて,どこまで理論化を進めて行っても,絶対の真実というものに人間は到達することができません.この世界の全ての場所を訪れてありとあらゆる分析検査をやることなどできないからです.そのため,「真実とみなしてよい仮説」を「真実」の代用品としています.これは「将来,否定もしくは修正される可能性のある考え方」です.そのため,「条件付きの真実」といったものになります.

ではその条件とはどのようなものでしょうか.

反証の可能性

それは,「どのような場合にその仮説を撤回するのかを明らかにしておくこと」です.これを「反証の可能性」と呼びます.

例えば私たちは,「この世界のすべての物体は原子から構成されている」という「仮説」を「真実」として扱っています.真実として扱うことができるのは,この仮説が「反証の可能性」をあわせもつからです.この場合の反証の可能性は「原子を構成要素としない物体の存在」です.つまり,誰かが「原子から構成されていない物体」をみつけてくれば,私たちは潔く仮説を撤回するわけです.これまでにそういう物体を見つけ出せた人は一人もいないので,私たちは「この世界のすべての物体は原子から構成されている」という「仮説」を「真実」とみなして良いわけです.

証明責任を負うのはどちら側か

さて,こういう考え方をしていると,「この世の中の全ての場所を調べたわけではない.だから,どこか遠くの星とかに行けば,原子からできていない物体があるかもしれない.そういう可能性がゼロであることを証明できないのだから,その『仮説』は真実とはみなせない」というロジックを持ち出して来る困ったヒトがいます.

「存在する」か「存在しない」かを議論する際には,「存在する」ことを主張する側が証明責任を負うのが正しいものごとの考え方です.そうしないと議論が終わらないからです.そして「存在しない」との考えに証明責任を負わせる考え方は,中世の魔女狩りと共通する滅茶苦茶な考え方を認めることになります.

「おまえ魔女だろ?」「いいえ違います」「じゃあ,おまえが魔女『ではない』ことを証明しろ」「そんなこと言われても無理です」「証明できないじゃないか,おまえ魔女だ」→火あぶり

こういう愚行を繰り返さない近代社会を維持して行くためには,支離滅裂な考え方を葬り去る必要があります.真実とみなすためには反証の可能性を提示する,存在する/しないの議論においては,存在「する」ことを主張する側に証明責任をもたせる,という考え方が,社会秩序維持に欠かせないことを忘れてはいけません.

●科学的方法に基づいた考え方の説明がとても分かりやすかったです.言い切ることのできないことを,反証を証明することで仮説を証明するという考え方は面白いですね.

●科学は宗教ではない!! と,すっごく力説していたのが印象的でした.また科学の奥の深さを知った気がします.「観察」「仮説」「検証」を経て科学が成り立っているんだなと思いました.

●ラスト5分の先生,なんか格好よかったです!!アツい!!

●今日の先生,熱かったです・・!! サイエンスを語る先生の姿とても素敵でした!!

●今日の先生の話は,いつも以上に奥が深いな-と思いました.私もあんまり星座占いは信じないけど,良かった時は信じてます.

●科学的方法は納得できる考え方だなと感じました.理論化すると理解しやすいですね.

●科学的な考え方って初めて知りました.

●科学的方法の考え方,証明方法,なっとくでした(・ω・)

●サイエンスって奥が深いですね.今日の講義も面白かったです!!

●科学的方法,とても面白かったです.魔女狩りのたとえ,わかりやすかったです.ガリレオの「なぜそう言い切れる? わからない,さっぱりわからない!!」という湯川さんの考え方は,やっぱり科学者なんだなと思いました.

●Science的方法をきいて納得しました.あいまいなことは信用してはいけないですね・・・

●Scienceって奥が深いなと思いました.

●科学的方法の話,おもしろかったです.

●今日の芝居仕立ての先生のトークたのしかったです.化学について語るとき,先生はとても生き生きとしていますね!

●科学ってすごいですね!!

●悪魔の証明ってウィキペディアで見たことあります.最後らへんの先生,カッコよかったです.科学が好きなんだっていう感じがしました.

●pHの話とかをやってきて,最後に科学的方法の話をやったら,科学的方法の方が難しく感じちゃいました.結局は理解できました.

●メディアで科学について知ったかぶって発信している人が,いかに科学を理解していないかがわかって面白かった.

●昨日も某番組でたくさんの科学者があれこれ力説を解きながらゲームをしていましたが,結構ハズれていました.所詮,人間は無知ということ,大変よくわかりました.

その他

●カゼ,はやく治るといいですね.最近カゼひいてる人多いですよー

●早く風邪なおしたいです.先生もお大事に!!

季節のかわりめ.しかたがありません.健康第一です.

●高校のときに嫌い(苦手)だったもの(平衡,pH,など)を大学生になって理解できるのは今更・・とも思いつつ嬉しいです.

理解できるタイミングは人それぞれ.

●化学反応式が出てくると頭がちんぷんかんぷんになります.でも,話きいてればなんとなーく意味わかった気がします! logは難しかったです.

●化学式にイオンが出てくると抵抗してしまいます.自分の中で難しくしてしまっているのでしょうか・・・

●δ←これがいつまでたっても上手く書けません.どうすればいいですか.

練習せよ.

●ねむくてねむくてすいません.先生悪くないですよ.すいまがつよいだけなんです.

●最近,夜中の2,3時ころ目が覚めるので,ゆううつです.→ねむいです.友達は身体的ストレスだーと言うんですけど,来週までには熟睡したいです.

●先生はGパン好きなんですね

便利です.

質問

●虫歯ってサイエンスと関係していますか?

関係します.化学的には歯の表面の腐食反応です.

●なんでH2CO3でとどまってはいけないんですか?

平衡だからです.両方向矢印の片側にとどめておくことができないのです.

●H2CO3 = HCO3- + H+ みたいに,どうして-とか+とかがいきなり付くんですか? まずこの+や-はイオンということですか?

●HCO3-って何ですか? あと,HPO42-

イオンです.イオンとしてわかれるからです.

●OH-がやってきたときって,どういうときですか? 水を飲んだときですか? 苦いものをたべた時,OH-が増えるのはなぜですか?

成分表示をみてpH>7となっている場合,OH-がH+よりも多く含まれています.塩基性のものは苦い味をもつことが多いので,苦いものを食べたときは,もしかしたらOH-を多くとり入れているのかもしれません.しかし,そういうことを全く気にしていなくても大丈夫なのは,身体の中の緩衝系がうまく働いてくれているからです.

●その?炭酸系の二行目がよくわかりませんでした.同じ番号は同時進行ということですか?

はい,炭酸ガスとして肺から追い出される経路と,炭酸イオンとして尿から追い出される経路とが同時に動くのです.

●水のイオン積の説明のところで,HからOの矢印ってなんですか?

電子の動きです.

次回予告:来週から有機化学

教科書上巻で扱われている内容は今回で終了します.来週からは有機化学の領域に入ります.有機化学は高校時代に丸暗記を強制されて嫌になってしまうという例が多々みうけられるので,そういうのをリセットして新しい切り口で攻略して行きます.

●有機大好きでした!! でも全然覚えていないです.はやく思い出せたら良いです^o^

●次回からの有機化学はちょっと苦手なのですががんばります!!

●有機化学が好きなので楽しみです!

●来週は有機ですね!!頑張ります.

●有機化学がんばります.

●有機好きなのでたのしみにしています.

●無機化学より有機化学の方が好きです.来週からが楽しみです!

●来週から有機に入るんですよね.高校のとき有機がいちばんすきでした!

具体的には

  • 扱う元素はC, H, O, Nの4種類だけ(特別出演PとSとハロゲン)
  • 扱う反応パターンも4種類だけ(付加,脱離,置換,転位)
  • 基本骨格はCとHの2種類だけ
  • 電子の動きを見て判断する

の4点から有機化合物の世界を見て行きます.

リンク

www.tnojima.net
www.tnojima.net

*1:厳密にはちょっと違うんですが,今回はこうしておきます

*2:発見自体が疑問視されるようになりつつあるのですが,それは別の機会に紹介しましょう.

*3:両者は共存できるという考え方をする人もいるし,共存不可能という考え方をする人もいます.それは個人が判断すればよいことです.