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Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

(3)ノートのとりかた

校外実習に出かけている海洋生命科学部の学生以外,全員が出席していたようです.連休の谷間ですが,学ぶ意欲のある学生が1限から集まってきました.本日のテーマは「ノートのとりかた」です.

大学でのノートのとりかた:その現状

ノートのとりかたをテーマにする書籍が次々と刊行されています.一昨年は↓こういう書籍が話題になりました.

東大合格生のノートはかならず美しい

東大合格生のノートはかならず美しい

 

それだけノートの取り方に関心をもつ人が多いということです.しかし,次から次へと書籍が刊行され続けているという現状は,決定打となる方法が世の中に存在していないことを表しています.というようなあたりをまず理解しましょう.

ノートのとりかたで苦労している点・工夫している点

4名ー5名のグループに分かれて話し合ってもらいました.大学入学後にノートのとりかたで苦労している点として出てきた声は次のようなものがありました.

  • 科目が多いのでノート整理の時間的余裕がない
  • 教員の話す速度が速いため,ノート記録がおいつかない
  • スライド+配付資料+講義,という形式に戸惑っている
  • 板書が無い講義では何を記録してよいかわからない

一方,こうした現状に対して工夫している点としては,

  • ボールペンで書く: 消しゴムで消して書き換える時間をなくすため
  • 色ペンを使わない:色選びに時間を割かない
  • 色ペンは1色に限定する:同上
  • 配付資料や教科書の余白にメモを取る程度にする
  • 帰宅後にノートを書き換える

といったものが挙げられました.

極端な工夫としては,

  • ノートをとらずに話をきくことに集中する

などというものもありました (が,これ,大丈夫でしょうか?).

ではどうすればよいのか

残念ながら「こうすればよい」という完璧な解決策はありません.できるのは,大学ではどのような形式で講義が行われているのか,それら講義を担当する教員は,そもそもどの程度の講義能力をもっているのか,というような現状を理解することと,そうした現状の中で何ができるのかを試行錯誤して行くことだけです.

どのような講義形式があるのか

講義の形式が変わると,ノートのとりかたも変わってきます.それでは,大学ではどのような形式で講義が行われているのでしょうか.それをまとめてみました.

  • 板書中心の形式
  • 教員が一方的に話す形式
  • スライド中心の形式(資料が配付される場合もある)

板書中心の講義では,教員がノートを取りやすいように配慮して板書する場合もあります(高校まではだいたいそうでしょう).その一方で,限定された重要キーワードだけが板書される場合もあります.

このように,様々な講義形式があることが,ノートのとりにくさの最大の原因となっています.

大学教員の講義能力はどの程度のものなのか

高校までの教員は,教職課程を履修して教員としてのトレーニングを受け,教員免許状を取得し,それから教壇に立っています(一部の例外を除きます).一方,大学で講義を担当する教員は,教員としてのトレーニングを受けているとは限りません.そもそも大学教員免許状というものが(少なくとも我が国には)存在しません.では,大学で講義を担当する教員はどのような経験を積んでいるものなのか,たとえば典型的な例が以下のようなものです(今回は化学の江川教授がご自身の経験をお話しされました).

  • 大学時代は研究者を志しており,教育者になることは意識していなかった
  • だから教職課程を履修せず,そのため教員免許状はもっていない
  • 大学を卒業し大学院に進学した頃には,研究室で自然科学研究に没頭しており,そうした生活が大学院修了後,助手に採用されてからも続いた
  • 助手から講師になったときに講義を担当することになった
  • さて,どうしよう? 「講義のやりかた」なんて習ったことはないぞ・・・
  • 自分が大学在学中に受けた講義を思い出して,それと同じようにやってみよう←ここから試行錯誤がはじまる

大学教育というものを意識したことの無い人にとって,この現実は驚くべきものかもしれません.しかし,大学教員の大半は多少の違いはあっても,こんな感じで大学の講義を担当するようになり,現在に至っているのです.「大学で講義することを職業とすることを目指す学生のための教育課程」なるものは世の中に存在しないわけですから.

とりあえずスグに実行できそうな対策は何なのか

今回のグループで出された意見や,これまでにアレコレと言い伝えられている経験談,その他イロイロを統合して考えると,次のような対策が立てられそうです.

  • ノートに余白を残す: 復習するときに追記するため
  • 消しゴムを使わない: 書き換えている間に講義が進んでしまうので,二重線で消すなどして対処する
  • 強調色は1色で済ませる: 色の使い分けで迷っている間に講義が進んでしまう
  • 難しい漢字はとりあえずカナで記しておき,講義後に調べる: 講義中に調べたり悩んだりしていると,その間に講義が進んでしまう
  • 文章として記録せず,記号を利用して文字数を減らす(→とか∴とか)

そして何よりも大切なのは

  • 完璧なノートを作るという目標をもたない

これに尽きます.記録する作業と,内容を理解するためにまとめる作業とを同時にやろうというのが無理なんですね.

ノートのとりかた演習

というような考察をしたうえで,小グループに分かれて「ノートの取り方演習」に取り組んでもらいました.口頭で進められる10分程度の講義を聴きながら要点をノート(A3サイズの用紙)に取って行き,その内容に関してグループ内で講評しあい,もっともよく取れているノートを全員に紹介する,というグループワークです.ノートの解説は,そのノートを取った本人ではなく,同じグループの別のメンバーが担当しました.

講義は江川教授による天文学の発展に関するトピックでした.

あらかじめ余白の位置を決めておいて追記コーナーを確保しておいたもの,記号(←とか→とか∴とか☆とか○とか∵とか)を組み合わせて文字数を減らしたもの,トピック間を線で結んだものなど,さまざまな工夫を比較することができました.

ノートのとりかた:実際の講義への応用

今後1週間の間に自分が受ける講義を一つ選び,その際の講義ノートを1週間後に持ち寄って講評しあうことになりました.

前回までの記録