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Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

看護学科の化学講義(17)溶液の濃度(2)

浸透圧と透析について解説しました.そして教科書第12章「酸と塩基」に入りました.

前回の講義に対する感想コメントその他なんでも一括紹介


詳細は前回の講義録参照→第16回(2009-10-02)

化学トピック(1)本日決行:宇宙船が月面にアタック!

月に水資源がどの程度存在するかを調べるため,NASAが宇宙船を月面に追突させる実験を計画しています.
狙っている場所は月の南極です.
ここには多量の氷が埋まっている可能性があり,ここに宇宙船が衝突すると,爆発によって水蒸気が月面上空に舞い上がるはずです.その様子を世界各地の天体望遠鏡で眺めようという計画です.
決行は日本時間の本日20時30分.NASAはインターネットを通じて月からの映像を配信してくれることになっています.

化学トピック(2)テロメアとテロメラーゼ

今年度のノーベル生理医学賞は,
「テロメアと酵素テロメラーゼによってどのように染色体が守られるのか」
を研究した3名の研究者に与えられました.

染色体DNAの末端は,コピーのたびに短くなって行くことが知られています.しかし生物は何万年にもわたって子孫に遺伝情報を伝えてきました.末端から情報が失われて行く仕組みを補う仕組みがあるのです.それが「テロメア」です.
テロメアは繰り返し配列をもつDNAの末端構造で,生殖細胞やがん細胞などでは,テロメラーゼとよばれる酵素がこれを作り続けています.そのため,何世代にもわたる染色体複製によっても,染色体は失われないのです.

テロメアの話!とても楽しかったです。クローンは生まれつきテロメアが短いんですってね。テロメラーゼはどう働くんでしょうね!元の長さに戻るのか、短いままの長さを維持するのか!生化学わくわく

テロメアは特に医療系の学生の関心を引くネタだったようです.
さて,クローン羊のドリーが生まれつき短いテロメアを持っていたことが報道されたため,クローン動物のテロメアはすべて短く,それゆえに短命である,という理解が広まっています.ところが,それ以降にイロイロな動物で行われた研究では,どうも羊の場合が(ドリーの場合が)特別だったらしく,ブタとかヤギとかではテロメアの長さが変わらないことも発見されています.
まだまだテロメアの仕組みについは未解決の問題が山積みのようです.

化学トピック(3)人工透析

腎臓の機能が損なわれた際に,血液を人工的に浄化する技術が人工透析です.人工透析の患者数は毎年1万人ずつ増えており,看護学部の学生も,卒業後に透析患者のケアをする機会が生じることでしょう.
人工透析のしくみを理解するためには,浸透圧と透析についてのしくみを理解しておくことが大切です.今回の講義はここを扱いました.そのイントロダクションとして,透析患者数の増加傾向と,典型的な透析システムについて説明しました.

浸透圧と透析

ナメクジに塩をかけて,しばらくほったらかしておくと,ナメクジは体内の水を失い,小さくなってしまいます.これは,ナメクジ体内の水が,体外の塩を希釈するために出て行ってしまうからです.イオンが通り抜けられる程度の「編み目」をもつ膜によって接している2種類の溶液があったとき,両溶液は溶質の濃度を均質化させる方向に状態を変化させます.

なめくじに塩をかけるのは小さい頃やりました。今までずっと溶けてなくなってしまうのだと思いました。

小さくなってしまうので,溶けてなくなってしまったと勘違いされがちです.しかし実際には情けなく縮まったナメクジが残っているのです.

なめくじ やってみたいけど 気味わるいです

たしかにオススメできる実験ではありません.ナメクジにとっても迷惑なハナシです.

塩をかけて縮むのが分かりやすく表れるのは、ナメクジ以外の生物で何かいますか?

カタツムリでも同じことができるでしょう.
同じ現象としては,レタスなどの野菜を食べるまえに,塩をまぶしておく操作や,野菜炒めをつくるときにある程度火が通ってきてから醤油や塩をまぶす操作が挙げられます.
これらの操作によって野菜の細胞中から水分がしみ出てくるので,ひきしまったサラダや野菜炒めをつくることができるのです.

縮んだものを水に入れると復活するんですか?

縮みきってしまったナメクジは体内の水分不足によって死んでしまいます.このナメクジを水に浸けると,今度は体内の濃縮液を希釈するために水が体内に流れ込んできます.そして縮んでいた身体は再び水でふくらみ始めることでしょう.ただし復活するのは身体のサイズだけです.一度死んだナメクジは復活できません.
さて,
半透膜で2部屋に区切られた箱を考えます.片方には半透膜の網目を通り抜けられない溶質が溶けており,もう片方は水です.2部屋にはエントツ状の筒が付いていて,この2本のエントツ以外は密閉されています.
しばらくほったらかしておくと,溶質が溶けている部屋に向かって隣の部屋から水が流れ込んできます.そして,溶液側のエントツを水溶液が昇って行きます.
ある程度まで昇って行ったところで液の移動は停止します.このとき,溶液の体積を増加させようとする力と,大気圧とが釣り合ったことになります.
次に,このエントツに上から力をかけて,液面高さを元に戻します.そのために必要な力が浸透圧です.

浸透圧って大気圧も関係していたんですね

浸透圧を理解する途中で大気圧をちょっとだけ考えるんですね.
浸透圧そのものには大気圧や大気圧と同等の圧力は含まれていません.

市販の目薬を使っていると、ハードはほとんど使えても、ソフトは使えないものも見かけます。ソフトだと目薬が通過しないとも聞きます。ソフトとハードのちがいって、浸透のしかたも関係あるんですか

大いに関係あります.
ソフトコンタクトレンズは素材内に水分を抱え込むような材料で作られています.この材料は,涙のもつ浸透圧にあわせて作られています.そのため,浸透圧の異なる溶液にソフトコンタクトレンズ浸けると,変形する恐れがあります.ソフトコンタクトレンズ用の目薬の浸透圧は,涙の浸透圧に合わせてあるのです.
ハードコンタクトレンズの場合はそういう材料で作られていないので,浸透圧を考えなくても大丈夫です.

酸と塩基

まず,H+を与える物質が酸,受け取る物質が塩基,という相対的な考え方から理解をスタートしました.
そのため
NH3 + H2O <=> NH4+ + OH-
(<=>は両方向矢印)
という反応を考えた場合,式の左側ではH2Oが酸,NH3が塩基となっていますが,式の右側ではNH4+が酸,OH-が塩基となります.
酸と塩基は必ずセットで現れます.

酸や塩基、中和について思い出すことができて、前よりよくわかった!!

講義全般

浸透圧や酸と塩基のことがよくわかりました。

むずかしそうなイメージを持つ人が多いところなのですが,決して難しいことではないのです.

ケミストリーが医療に結びついていて興味がわいた。

化学の基礎を知っていると,医療の理解にも役に立つのです.関係なさそうなところが深く関係していたりするのがおもしろいところなのです.

先生も洗たくするんですか?

これは先週の出席票自由記入欄に

雨ですね、なんか服がぬれて湿っぽい臭いがします。これはもうケミストリーの力でどうにかするしかないですね!

とあったので,「部屋干し用洗剤を使って浸け洗いモードで洗濯機をまわすとよい」ということを話したことに対する反応でしょう.洗濯・掃除・家電整備,といったあたりの家事は私のしごとです.

水銀がコロコロするのが不思議でしかたありません。

見ていておもしろいものですね.私も子供の頃に体温計を壊してしまって,こぼれた水銀が床の上を転がるのを見たときに,とてもおもしろく感じました.
これは水銀が非常に高い表面張力をもつためです (表面張力は先々週の講義で紹介しました).表面張力の高い物質では,自分自身で集まる力のほうが,床に付く力よりも大きいので,床を塗らすことなく丸まるのです.水銀の場合にはさらに金属結合もしているので,表面張力は常温の世界でもっとも高い値をとります(表面張力第2位は水).

次回予告

第12章「酸と塩基」の続きです.これで教科書上巻が終わる予定です.

前回までの記録

www.tnojima.net