Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

超やばい二酸化炭素

中学校や高校では中間試験のシーズンを迎えたようです.朝の電車の車内でもテスト範囲の勉強進行状況について情報交換が行われています.以下,先週前半に耳にした高校理科の地学についての会話.


「・・・・で,冥王星,と」

「うそ! 冥王星は惑星じゃないよぉ」

「え? そうなの?」

「そうだよぉ,なくなっちゃったじゃん」

「そうだったそうだった,じゃ,海王星まで.冥王星,なくなっちゃったんだ」


ちょっと待て! いくら遠くの星とはいえ,そう簡単に星が一個なくなってしまうなどということがあったら一大事だぞ.太陽系の惑星というものを再定義した際に冥王星が外された,という話だろ!

冥王星は2006年までは惑星とされていたが、20世紀末以降の研究の進捗の結果、その性質や成因が他の惑星とは異なるとの認識が深まったため、これとは異なる種類の天体である dwarf planet として再分類されることとなった。

-----http://ja.wikipedia.org/wiki/惑星

と,つっこみたくなったところをぐっとこらえていると,


「・・・で,金星とか火星とかは地球型惑星なんだよね」

「そうそう,でも大気は二酸化炭素がほとんど,と.二酸化炭素,CO2

この表をもとに,まず地球型惑星の大気組成を比較してみよう.容易に気がつくことは,金星と火星は大気組成が良く似ておりほとんどCO2からできていることであろう.一方,地球大気にはCO2はわずかしか含まれていない.

-----大気の組成の謎

「うそ!? それ,やばくない? CO2でしょ? 地球温暖化!」

「そう,やばいよね,CO2,このままほったらかしといたら,地球も金星みたいになっちゃうわけ?」

「ほんと? 地球,やっばーい! もう,超やばーい!」


おいおい,ちょっと待て.なんか明日にでも二酸化炭素が地球を覆い尽くしてしまいそうな勢いじゃないか!

地球の大気の78%は窒素,21%が酸素,その次はアルゴンが0.9%.二酸化炭素をはじめ他の諸々のガスは残り0.1%だけ.仮に二酸化炭素の割合がこの調子で増え続けたとしても,おそらくその頃は人類は滅びてしまっていることでしょう.そんな未来のことなど心配してないで,目前に迫った理科のテストのことでも心配していただきたいところです.

さて,様々な物質に対する困った考え方の一つに,「有害な物質はちょっとでも存在すると許せない」というものがあります.上記のCO2しかり.もしもCO2が全く存在しなかったら植物が育たなくなり困ったことになる,という事実は,金星の大気をイメージしているときには完全に忘れ去られていたことでしょう.

特に生命現象と関係する物質の中には,極微量存在することが必要なものもあります.講義中,適当なタイミングでこのあたりのことを触れてみようと思います.


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