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Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・野島 高彦)

JAXA相模原キャンパス特別公開

行ってみた・行ってきた 探検隊


医療衛生学部の1年生といっしょに,JAXA相模原キャンパスの特別公開を見学してきました.

6月16日の講義で,化学関連ニュースとして「イトカワ」と「はやぶさ」のことを紹介しました.地球外の天体で試料採取して化学分析することによって,地球の成り立ちを知る鍵が見つかるかもしれない,という可能性についてです.

採取された試料はカプセルに収められ,大気圏に突入し,オーストラリアで回収,ここからJAXA相模原キャンパスに運ばれ,化学分析が始まりました.このJAXA相模原キャンパスは,北里大学相模原キャンパスの近くにあります.

ということを紹介したところ,出席票の自由記入欄に「JAXAを見に行きたい」と書いてきた学生が何人かいました.そこで「JAXA相模原キャンパスを見にいこう計画」を立ててTwitterにポストしてみたところ,参加希望者がゾロゾロと集まりました.

そこから日程調整をはじめて,前期試験終了日翌日の7月30日(金)に見学に行くことを決めました.

特別公開日+カプセル公開日

日程を決めた数日後,イトカワから帰ってきたカプセルも特別公開されることが発表されました.これも楽しみです.しかし,こちらには早朝から超長蛇の列ができているほどの混雑.先に研究施設の見学をすることにしました.

90気圧の世界


90気圧の水圧をつくりだせる水槽の演示実験を見学しました.厚いアクリル樹脂で作られた透明容器で,手動式ポンプで水圧を高めて行き,容器内部の水圧を90気圧まで高めることができます.

ここに,発砲スチロール製のカップを入れ,徐々に圧力を高めて行きます.すると,カップがみるみるつぶれて行き,最初の半分程度の大きさになってしまいました.

90気圧という高圧の威力をはっきりと目で見て理解できるデモンストレーションでした.

この実験は,金星探査研究を行っているグループによる演示実験でした.90気圧という圧力は,金星の大気圧なのです.

金星は地球の隣にある惑星です.地球とほぼ同じサイズの惑星でありながら,大気の主成分は硫酸ガス,大気圧は90気圧,最高気温は500 ℃という具合に,まったく地球とは異なる環境をもつ星です.こうした星がどのようなしくみになっているのかは,とても興味深い研究課題です.そのため,人類はこれまでに金星探査機を金星に送ってきました.日本では今年の5月10日に金星探査機「あかつき」を打ち上げています.

さて,前期化学講義でも扱った「圧力」.圧力が高くなるとどのようなことが起こるのか,この演示実験からよくわかりましたね.

ポンプに取り付けられていた圧力計,単位はMPaになっていましたが,これと気圧(atm)との関係は大丈夫かな.

真空状態


気圧が小さくなった世界の演示実験も見学しました.電池で動く扇風機の正面に吹き流しがついています.扇風機を回すと,空気の流れで吹き流しが横に流れます.この扇風機を容器の中に入れ,容器内の空気を真空ポンプで抜いて行ったらどうなるでしょうか.

容器内の空気が無くなって行くと,空気の流れというものが生じなくなります.そのため,扇風機は回っているのに,吹き流しは垂れたままになります.空気の流れは目に見えませんが,私たちが風を肌で感じるとき,そこには確かに空気が存在しているのです.

人工衛星が進んで行く宇宙空間は真空状態です.そのため,真空状態での機器動作や材料耐性の研究も必要です.

私たちは1気圧の大気圧に囲まれて生きており,その気圧は目には見えないけれども,確かに物質として存在する気体分子によるものなのです.

小型ヒートポンプ

電子機器を冷却するための小型ヒートポンプの開発を紹介するパネルがありました.電子機器は動作中に熱を持ちます.コンピュータやスマートフォンと同様,人工衛星に搭載された電子機器も,動作に伴って熱を発生させます.地球上で使用されるコンピュータやスマートフォンの場合には,空気に熱を逃がすことができますが,宇宙空間には空気がありません.そのため,別の方法で熱を発散させてやる必要があります.

そのために開発されているのが,小型のヒートポンプです.冷媒を循環させて,発熱する素子の熱を取り除き,離れた場所での状態変化を利用して熱が一カ所に溜まらないようにするのです.

「物質の三態変化」で,日常生活への応用例として紹介した「エアコンのしくみ」と同じしくみが,宇宙探査にも用いられているのですね.

太陽光吸収率測定装置


サンプルに太陽光と同じ波長レンジの光が当たった場合,そのうちのどの波長領域の光がどの程度吸収されるのかを測定する装置です.地上で製作途中の人工衛星の表面でこの測定を行うため,大人二人がかりで運べる大きさまで「小型化」された装置です.

宇宙空間を進む人工衛星には,太陽光が降り注ぎます.これが電子機器に悪影響を与える恐れがあるため,人工衛星には太陽光をブロックする素材が貼り付けられています.その状態で地上試験を行うわけですが,試験中に人工衛星に汚れが付着したことに気づかずに機材を調整して打ち上げると,電子回路が予想外の作動をする恐れがあります.そうならないよう,人工衛星表面の素材が,正しく太陽光をブロックしていることを確認する必要があります.そのために開発された装置です.

太陽光は可視光線の他に,赤外線から紫外線までにまたがる広い波長領域をもちます.こうした広い領域を測定対象とするため,「ポータブル」とはいえ,重量17 kgというサイズになっています.

ポリイミド膜



合成樹脂開発の研究紹介も見学しました.太陽光をうけて推進力を得る宇宙探査機には,丈夫で軽量な膜が必要です.分子構造を種々検討し,厚み7.5 μmでも宇宙空間で破れることなく使えるフィルムが開発されました*1

説明して下さった研究者は恐らく有機化学の専門家で,分子模型を組み立てながら分子の形を説明してくださり,分子の形を考えることによって望ましい物性の高分子化合物を合成できることを説明して下さいました.

私の化学講義では,10月頃から有機化学の世界を紹介します.高分子材料も紹介しますので乞御期待.

その他の展示とデモンストレーション

以上は化学講義で扱った内容と関係したところです.他にも

  • 惑星探査ロボット
  • 宇宙環境試験室
  • はやぶさと後継始原天体探査

の紹介を見学しました.

このあたりで閉館時刻.隣の相模原市立博物館で展示されていた,「はやぶさカプセル」の見学は見送りました.

*1:ポリイミド膜については「有機化学美術館・分館」に詳しい説明があります. ポリイミド〜光の帆で宇宙を翔る〜